ブランチ鉄鋼国皇帝の来訪 後編
シュバイエの引き取りが終わった後の夕方。
僕は自宅の大広間にエリールとミョルニルと一緒にいる。
「ぶはーーー!疲れたーーー!!!」
僕は大広間に置いてある椅子に座ると同時に大きな声を出した。
エリールとミョルニルは労いの言葉を掛ける。
「お疲れ様。練」
「オ疲レ様デス。ゴ主人様」
「ありがとう。二人とも」
なぜ僕が大きくため息を吐くようなことになったのかと言うと、少し前に遡ろう。
まずはシュバイエの引き取りの件についてだ。
今回の件は、国同士がかかわることなので終始緊迫した空気が流れ、些細なことで戦争になるのかと心配したが、無事シュバイエの引き取りが終えることができたので、これまでの緊張とプレッシャーから解放されたことで全身にどっと疲れがのしかかってしまった。
そして次に、村の外へ避難している住民たちを村に戻らせた。
これに関しては避難している住民を呼びに行くだけなので問題なく終わられることができた。
次に大変だったのは、王国の納税だ。
シュバイエの引き取りを済まし皇帝たちが帰った後、エストラル王国の人たちが来ているので、忘れないうちに税金変わりとなる村の収穫物を納税した。
国へ納める野菜や果物が入った箱を約三十箱ぐらい王様の前に置き、後は必要な書類にサインをするだけなのだが、ここで一つ問題が発生した。
きっかけは、箱の中身を検品していた王国第一騎士団の参謀のチドレッドが僕に話しかけてきたことだ。
「ところで村長殿」
「どうしたんだい?」
「この箱に入っている野菜や果物の鮮度は申し分ないが、これらの食材はどう調理すれば良いのかね?」
「え?そのまま切って炒めたりとか…」
「いや~、我輩たちが見たことが無い食材なものなんで、どう調理をすればいいのか分からないのだよ」
「なるほど。そうでしたか、なら教えてますよ」
どうやら僕たちが育てた作物とこの世界の作物はかなり違うようなのでどう食べれば良いのかわからないので困っているようだ。
だが、これは僕が育てた作物をアピールできる絶好の機会なので、チドレッド達にそれぞれの作物の下処理や調理法を教えた。
教えたのはいいものの、やはり、この世界にはない作物ばかりなので、質問攻めにあう。
例えば、『この野菜は煮込んだ方がいいのか?』とか、『この果物はどんな味がするの?』とか、僕が相手が納得するまで丁寧に答えても、また違う質問が飛び交うので、質問に答えるのが嫌になってしまった。
でも、信頼関係を壊さぬわけには行かないので、相手の袖をすがりつく思いで乗り切ることができた。
他にも、村に戻った住民の人数の確認やまた侵入者対策と後処理の手続きをエストラル国王と一緒に相談などしたので、疲れがたまった状態で帰宅したため、現在の状況につながるというわけだ。
そして今、僕は大きくため息をついてヘロヘロになっている。
僕は椅子に風呂に浸かるような体制でもたれかかっていると、ミョルニルが僕に声をかけてきた。
「シカシ、今回ノ件デブランチノ皇帝ニ目ヲツケラレテシマイ、後ノコトガ心配ニナリマスネ」
「そうだよな~。またシュバイエのような侵入者が出てきて、何かしら要求してきたらどうしよう」
「そんなの簡単よ。例え親近者でもぶっ殺す!」
「ひえっ!!!」
「フェッ!」
いつもおとなしいエリールが珍しく物騒なことを言ったので、少し引いてしまった。
まあ、これはこれでいいとして、話を変えるとしよう。
そ―だな・・・、あっ、そう言えば。
朱映えが父親と再会した時、姉上と兄上っと言っていたな。
姉上というのはエリールの姪のメイビスの事だが、兄上っていうのは誰の事なのだろうか?
いい機会だし、ここで話を変えてみるか。
「エリール。ちょっといいかな?」
「どうしたの?」
「さっきシュバイエが言っていた兄上って誰なんだ?姪である姉さんのことは聞いていたけど、まだ上の兄弟がいるの?」
「まだ練には話していなかったわね。いい機会だから、甥について話すね」
「お願いします」
何とか話を変えることができた。
このままエリールの甥について話に進む。
「先程、シュバイエが兄上って言っていた人は、皇帝の長男であり次期皇帝の座に就くことになるファツェールゼン・フィチャーチャー第一皇子のことで、メイビスとは双子の兄であり、シュバイエの三つ子の兄にあたるの」
「双子であり、三つ子の兄?エリール、一体何を言っているんだ?」
「あっ、紛らわしい言い方だったわね。正確には同じ日にファツェールゼンとメイビスが先に生まれて、シュバイエはその後に生まれたから実質三つ子になるわけ。分かった?」
「へぇ~、そんな偶然があるんだな」
「私も初めて会った時は、三つ子かと思っていたけど、三つ子ではないと聞いた時はすごく驚いたことを今でも覚えているわ」
「シカシ、エリール様ノ叔母デアル人ガアノ皇帝ノトコロニ嫁イタノデショウカ?オレガ聞イテイル限リ、エリール様ノヨウナ人ノ家系カラシテ貴族デアルコト以外、接点ガ無イヨウニミエマスガ・・・」
「あぁー、それは色々あって・・・」
急にエリールの様子がおかしくなった。
何か知っているようだが、あまり話したくない素振りを見せている。
エリール個人のプライバシーにズカズカと入るのは良くないのは分かっているが、叔母の話を聞いたこととブランチ鉄鋼国とかかわってしまった以上は全部話してもらおう。
「エリ~~~ル~~~?」
「はっはい!」
「さっきの色々って何のことかな~~~。エリールの親戚と会ったわけだし、ここは正直に話したらどうなんだ?」
意地悪なガキ大将のような脅しをした。
すると、エリールは顔を真っ赤にしながら話し始める。
「もう~~~、分かったわよ。正直に話すから!」
エリールは少し怒りながらエリールの叔母について話し始めた。
そもそもエリールの母方の祖父母はかなり厳しく、自由人だった叔母とは毎日喧嘩ばかりしていた。そんなある日、とうとう耐えきれなくなった叔母は実家を飛び出したそうな。
その時に、政権が始まったばかりだったフィチャーチャーと出会って結婚し、その後に出来た子供というのが双子の妹でエリールの姪のメイビスというわけだ。
「なるほどねぇ~。そんな事があったのか」
「この一件で叔母様は勘当され、母方の祖父母はかなりご立腹だったけど、お母様は内緒で叔母様に仕送りなどをしていたの。でも、結局仕送りしていることバレて出来なくなり、何かしらの用事やパーティーに招待された時しか会えないけどね」
「うーーーん」
これでだいたいの事情が分かった。
しかし、これは皇帝側の事なので、こちらから介入することができない。
まあ、ぶっちゃけ、これ以上は係わることは無いけどね。
もうこれ以上は迷惑をかけるようなことはごめんだ。
ふと、魔導鏡の時間を見たら、午後六時になっていたので、今から夕食にしよう。
ミョルニルは夜の巡回に行き、僕とエリールは夕ご飯の準備に取り掛かる。
しばらく料理をしていると、僕たちがいる調理場に誰かが訪ねてようだ。
一体誰なのかと思っていたら、その正体はダウストンだった。
「こんばんは村長。入ってもよろしいですか?」
「ダウストン!?珍しく一人で来たようだけど、どうしたの?」
「今日は村長と一緒にご飯を頂こうと思いまして・・・」
「いいよ。せっかくだし一緒に食べようよ。エリールは?」
「もちろん大歓迎よ」
「ありがとうございます」
突然訪問してきたダウストンを加えて夕ご飯にした。
夕食後、ダウストンと交えて談笑に入り浸っている。
話題はシュバイエの引き取りと皇帝についてだ。
「はー、今日は大変な一日だったな」
「そうですね。まさかシュバイエ様自ら村に潜入し、村長を誘拐しようとしていたとは、今でも信じられません」
「でもそれぐらい悪い状況だったんじゃない」
「はい、その様ですね」
「なあ、ダウストン」
「なんでございますか?」
「引き渡しの時にアーノッドがシュバイエ対して言った『暗殺姫』ってどういうことなの?そんなに腕が立ちそうに見えなかったけど・・・」
僕はダウストンにシュバイエについて聞くと、ダウストンは少し沈黙したのち口を開いた。
「シュバイエ様は幼い時から他の兵士よりも運動神経が高く、特に短剣の投擲や体術に優れていたので訓練を重ねたのち皇帝直属の暗殺者へとなりました。主な活動としては敵対勢力の主要人物の暗殺と敵地の斥候等我々に有利な状況を作り、シュバイエ様はいつしか『暗殺姫』呼ばれるようになったのです」
「うそでしょ!?シュバイエって私が知る限りでは暗殺に向いてなさそうに見えたけど・・・」
「それもそうです。シュバイエ様の暗殺業は秘密裏で行われていたので、エリール様が知らないのは無理はありません。ですが、アーノッド様がシュバイエ様のことを知っていたのは意外でした。もしかしたら、エストラル王国側が何かしらの方法で知ったのだと思います」
なるほど。
ダウストンの話からシュバイエのことを知ることができた。
しかし、これまたすごい人と僕は対峙していたというわけか。
やはり、これ以上は関わりたくないな。
あと、まだ気になることがあったので、ダウストンに聞いてみる。
「ダウストン、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「はい、何でしょうか?」
「アーノッドの婚約者であるフィアンナについて知りたいのだけれど・・・」
「フィアンナ様についてですか?」
「うん。以前、エリールから聞いたけれど、なんでエストラル王国の鉄の供給を続けるためブランチ鉄鋼国に身売りするような真似をしたのか気になっていたんだ。一応、強制じゃないから無理にとは言わないけど・・・」
僕はフィアンナという女性の事についてダウストンは何か知っているのかと聞いてみたいのだが、ダウストンの反応は困惑しているように見える。
さすがにズカズカと個人の事情に入りすぎたか。
ちょっと気まずい空気になったので話題を変えようとしたら、ダウストンの口が開いた。
「分かりました。フィアンナ様のことについて話をいたしましょう」
「ダウストン。いいのかい?」
「はい。ちゃんと話さないと村長に失礼ですし、エリール様にも説明をしないといけないですから」
「そうね。私にも話してくれないかしら」
こうして、フィアンナについて話はじめた。
「なぜフィアンナ様は鉄の輸入の肩代わりをしたのかというとそれはフィアンナ様は前の王族の親戚にあたる方なのです」
「えっ!そうなの!?」
「はい。親戚とはいっても、遠い親戚です。フィチャーチャーは皇帝の座に着いた後、報復を恐れ前国王の関係者を秘密裏で拘束と抹殺をしておりました。調べていく中で遠い親戚であったフィアンナ様の存在を知りましたが、彼女はエストラル王国におられるため迂闊に手が出せませんでした。だが、エストラル王国が武器製造のため、ブランチ鉄鋼国から鉄の輸入の話になった時、この場で出席していたフィアンナ様はフィチャーチャーの所業についてある程度把握したうえで、これまで世話になったエストラル王国を守るため志願したのです」
なるほど、フィアンナが何者なのかは分かったが、今まで住み慣れた国を守るために自ら人質になるとは、相当の覚悟を決めたのだろう。
これは結婚の約束をしたアーノッドがフィチャーチャーに敵視するわけだ。
うーん、何とかしたいのだが、これは国同士の問題なので安易に口に出すことはできない。
ダウストンの話を聞いた僕は切ない気持ちになった。
ふとエリールを見てみると、エリールも同じように落ち込んでいる。
それもそうだ、近しい友人の秘密を知るだけでもつらいのだろう。
僕はエリールに何て声をければいいのか分からない。
すこし考えていると、ダウストンから口が開く。
「心配しないで下さいエリール様。フィアンナ様は無事です」
ダウストンはエリールにフィアンナの安否について話をしたのだが・・・。
「ダウストン。私に心配させないように言ったつもりだけど、それ前にアーノッドに言っていたよね?」
「うぐっ・・・」
「それってどうゆうことなの?一体何を根拠にフィアンナが無事なのよ?はっきり言いなさい!」
落ち込んでいたかと思いきや手のひらを反すようにダウストンに迫っている。
「分かりました。分かりましたからエリール様落ち着てください」
ダウストンはエリールをなだめさせ、ある程度落ち着いたところで話はじめる。
「エリール様。現在フィアンナ様はメイビス様の所有している屋敷に軟禁しております」
「軟禁!?」
「はい。話せば長くなりますが、フィアンナ様がブランチ鉄鋼国の人質になった後、本来ならフィチャーチャーの王城に置くつもりでしたが、メイビス様が自分の屋敷に置きたいと申し上げました」
「えっ!メイビスが!!」
「えー、その場に私もいました。その申し出を聞いた時はいくら愛娘でも聞いてくれないかと思いましたが、フィチャーチャーはすんなり承諾し、フィアンナ様はメイビス様の屋敷へと行かれました。おそらくフィアンナ様に手を出したら、アーノッド様にしつこく言及されることとエストラル側から経済制裁などを避けるために、メイビス様の話に乗ったのでしょう」
ダウストンから語られたフィアンナの安否について聞いたエリールはホッと胸をなでおろした。
「よかった~。フィアンナが無事で」
「エリール良かったな」
「ですが、今はどうしているのかわかりません。今の情勢はかなり不安定ですし、もしかしたら今頃、フィアンナ様に何か・・・」
「ちょっとダウストン!変なことを言わないでよ!!!そんなことでフィアンナは屈したりしないから」
「申し訳ございません」
「ハハハ・・・」
珍しくエリールがツッコミをしたことで場は和んだ。
まあ、ともかくフィアンナとは何者なのか分かった。
まさか、前の国王の親戚だったのは驚きだ。
今後、フィアンナの事で巻き込まれることが起きそうな気がするな。
ブランチ鉄鋼国はこれ以上関わりたくないものだ。
僕はふと魔導鏡の時刻を見ると、午後十一時を過ぎているようだ。
「もうこんな時間か」
僕はボソッとつぶやく。
「あら本当ね」
「もうこんな時間ですか。それではエリール様、村長お体にお気をつけてください。失礼しました」
僕達に挨拶をしたダウストンはすぐに帰り、今残っているのは僕とエリールだけになった。
「もうこんな時間だし、部屋に戻って寝ようか」
「うん。明日も忙しくなりそうね」
「そうだな。冬に向けていろいろやりたいことがあるし、おやすみ」
「おやすみ。練」
僕はエリールに挨拶をした後、自室へと戻った。
間もなくこの村に冬が来るので、越冬の準備に備えてるためにも今日はしっかり寝ておこう。




