2-6 模範
食堂で味の無い食事を終え、俺はシュウさんと再び図書室にやってきた。
「魔法の話の続きだがな、こういう部屋を開けるには鍵が必要でな。こういうのを使うわけさ」
くるくると薄っすらと光りを帯びている輪を指で回した後、彼は扉に押し当てた。
そのまま押すと扉は開き、静寂の空間が広がる。
思わずほっと息をついた。
「今日一日は借りてて良いらしいから、しっかり調べものすると良い」
俺はちょっと昼寝だ、と呟きながら椅子に腰かけ、足を机にかける。欠伸をして、目尻に涙を浮かべている表情は強面ながら気のいいおじさん、といった風貌なのだがもはやそうは受け取れない。
先ほどの食堂での悪びれない堂々とした態度、瘦せぎすの男の一目置いたような態度、威圧することで複数人のゴロツキ(想像だが)を黙らせた、という事実。
あまり気にならなかったが、何となく隙のない動きのような気がするから人間は不思議だ。
よくよく考えればおかしな話なのだ。ここは牢獄にも拘らず、この人は自由すぎる。
好きに出歩き、行きたい場所にこうやって監視もなく行けるのには絶対に裏がある。
「シュウさん、ちょっと質問があるんですが」
「んー、なんだ?」
「ここの囚人って、こんなに自由に出歩けるものですか?廊下で他の囚人とすれ違いませんでしたし、図書室の鍵もあっさり借りられたり、結構自由な感じなんですか?」
「いーや。そんなことはないぞ。一般的な囚人に自由なんかないさ。ここは牢獄だからな。……まぁ、そうだな、理由は2つある。まず、1つは俺が7番でお前さんが4番だからだ」
つまらなそうに、袖の刺繍を指さす。7221。アラビア数字が刺繍されてる。
「俺は……そうだなぁ、言うなれば脱獄が”不可能”なんだ。やりたくても絶対に”出来ない”」
「……出来ない?」
「そう。俺はここで謀反を起こすことも脱獄を企むことも、実行することも、ましてや、手助けすることも”絶対にできない”」
絶対にできない、というところを強調しながらシュウさんは続ける。
「1番は軽犯罪。2番は1番に分類されない軽犯罪。3番は常習性のある軽犯罪。5番は殺人や強盗のような重犯罪、6番は複数の重犯罪、8番は終身刑に値する罪を指す。まぁ、ざっくりとした区分けだな。俺は詳しくないが、非常に細かく分けられているらしい」
俺は法律はからっきしだからなぁ、とシュウさんは笑う。
「そんな中でな、4番、7番、9番は特別枠さ。”加護”絡みの番号なんだ」
「”加護”ですか?」
「そう、加護だ。加護は様々だがね。全てに共通して言えるのは摂理を曲げる力ってことだ。これが曲者でね。中には一生自分の加護に気づかないやつも出るくらい微小な力なケースもある。
水の中でも延々と呼吸できるってんなら分かりやすいが、水の中で人より少しだけ長く息を止められるってだけならそこに気づけない。ここにぶち込まれる前に全員が検査され、反応が出た奴は加護を封印され、制約を受けるわけだ。
4番は加護を用いた軽犯罪。7番は加護を用いた重犯罪。9番は加護絡みの終身刑って感じだな」
俺の左肩を指さす。
「お前さんは4番台。罪状こそ違えど、加護持ちな点は俺と一緒さ。良いかい?俺たちはここを脱獄などできない。そういう仕組みの中で生かされているんだ」
「……私もその制約のもとにあるってことですか?」
「そうだ。例外はない。どんな加護だったのかは分からないが、4番と付いている以上はお前さんも俺と同じ制約持ちだ」
「なるほど、でもそれでシュウさんが自由に出歩ける理由にはなりませんよね?」
「……あー、なるほど。でも、ここまで話して分からんか?よっぽど重症なのかね、その記憶の混濁ってやつは……」
不敵に笑うシュウさんの体から威圧感のようなものがあふれ出る。
もう、驚くことだらけで実感は何もない。急に加護とか言われても正直困るし、目の前の厳ついスキンヘッドがどんな秘密を持っていようと、正直好きにしてくれといった感じだ。
加護?制約?俺の転生先にはイレギュラーが多すぎやしないだろうか。
記憶にないながらも、罪人として10年贖罪に費やせと言われれば、それはそれで構わない。しかし、せめて普通にやり直させてはくれないものか。
「模範囚だ」
「は?」
シュウさんは得意げに胸をそらし、もう一度その単語を口にした。
「俺が模範囚だから、特権をもらえてるってことさ。見りゃ分かるだろ?反乱を起こすことはありえず、面倒見もよく、問題が起こりそうなら先につぶす。人に優しく、思いやりに溢れている。俺がそんな模範囚だからこそって訳だ!」
このハゲ、ひっぱたくぞ。




