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「何故こんなことを!」
美しく着飾った娘を拒絶し心底憎いと表情に出すのは人々が知る彼とは程遠かった。
「紛い物で私の目を誤魔化そうとしたね? 」
「紛い物など! この者には貴方様の物だと証がありますでしょう!」
「君達は心底私の感情を逆立てるのが好きなようだ!」
激怒するのを心底理解できないのか唖然とする人々に彼はただ淡々と告げる。
「“如何に不幸であったとしてもそれは相応の行いをした”、憐れむのは勝手だが、私をその茶番に巻き込むな! 私から真の を奪っておいて だのとふざけた真似を!」
「待ってください! 様! 私はただ───あなたに愛して欲しかっただけです! 可笑しいでしょう!? 私を否定するなんて! 神話の時代からそう決まっていたのに!」
「口を慎め! 真の神話の知らぬ欲しかないお前がそれを口にすることこそ一番の大罪だ!」
逃げたかっただろう。苦しかっただろう。恨めしく、呪い続けただろう。けれど。
「本来あるべき彼女の座を奪っておいて! 正しさを主張することこそ侮辱以外の何物でもない!」
“ ”と名乗らなければ彼はその優しさのままに助けただろう。けれど優しい彼だからこそ唯一譲れないものがあった。そのものを虐げ退けた彼女に対して彼が甘く接することなどない。
そして。彼を大切に思う同胞達は彼の言葉を受けいれた。
彼から人間を退け、“ ”の居場所を探しだし、見つけた時には既に世界を呪い死んでしまうところだった。
死んでしまったあとならばまだ良かったのだろう。語る口も無かったのだから。
だがようやく再会を果たした彼女の言葉は彼を殺すには充分すぎた。
「私は私だ、昔も今も、そして唯一信を置いた友を裏切ってしまった…けれど私は忘れはしない、印がなくとも私は見つけてみせる、証はなくとも彼女が私の友だと思い出してみせる、世界を呪った彼女を次の私が絶対に見つけだす」
「だから」
「罰を与えなければならない、傲慢で強欲で怠惰な者に」
美しい涙は赤く染まり、頬をつたう。美しかった笑みは歪み嘆きと後悔が滲む。
彼は優しい。良くも悪くも。
彼は素直だ、良くも悪くも。
だからこそ死んでいく友を見送る際に残された言葉が彼を狂わせた。
彼の魂は傷付き、美しい色が濁っていく。
それを責めれるほど彼と同じ彼等は見ぬ振りが出来なかった。
彼等もまた彼と同じようになっていた可能性もあったのだ。
「大丈夫よ、 。私が貴方を送り出すから」
“ ”を失った彼にゆっくりと微笑む同胞。彼は歪んでしまった自身に涙を流し受け入れる。
「悪いな、君に任せて」
「良いのよ、ずっと一緒だったもの」
「そうだね、確かに君とは一番長い付き合いになった…だからこそ悪いと思うよ」
「……幸せになって」
「きっと次の私が彼女を救ってくれる…きっと偽りに気付いてくれる、
そうじゃなければ」
彼女は何度世界に絶望しなければならないのだろうか。
そう言い残し消えた彼に同胞は悲痛な表情を浮かべ、神に祈った。
安らかな次の生を。




