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真実の向こう側10

「あなたは……前王の息子の存在を消そうとしたんですね」


 アモル伯爵夫人と、夫人の想いと、その息子を守るために。


「そうだ。サエウム伯爵側についていた選定侯たちに見せつけるために、わざと人目につくようにラエティアの息子を犯人として引っ張っていったから、見る人間が見れば、サエウム伯爵の切り札が失われたことに気づいただろう」


 きっとそのときに、ミリッシュはどこからかその様子を見てしまったのね……。だから、彼は死んだと思ってしまったんだ。


「その人、ほんとうは死んでなんかいませんよね。まだ生きてますよね?」


「ああ、あなたも会ったのだろう。ラヴァンがラエティアと前王の息子だ。火あぶりになどしていない。さらした遺体は、城の火災で亡くなった同じような年恰好の人間のものだ。ついでに誤解のないように言っておくが、城に火をつけたのは私ではなく、サエウム伯爵の配下にいたヴァデラーという男だ」


 ふいに私の視界に白いものが入り込んだ。

 思わず顔を上げたら、アモル伯爵と目が合った。


「祭典前に目が腫れる。可愛い妹を泣かせたと、グラースタ伯爵に睨まれそうだ」


 さすが色男はすることがいちいち様になっている。

 いや、嫌味でもなんでもなく、素直にそう思った。

 差し出された白いハンカチもごく自然に受け取ることができた。


「あなたはいつから知っていたんですか、前王の息子の存在を」


「ずっと昔だよ。ラエティアに結婚を申し入れたとき、あまりに頑なに断るものだから、理由を尋ねた。そのときに彼女の口から聞いた。過去のいきさつをすべてね」


「何もかも承知のうえで、それでもいいと言ったんですね、あなたは」


 アモル伯爵は笑った。それはとても優しい笑みだった。


 すべて包み隠さず話すなんて、アモル伯爵夫人は心からアモル伯爵のことを信頼していたのね。

 ……いや、違うか。

 結婚を断っていたというくらいだから、きっと失ってもいいという覚悟のうえで話したんだ。アモル伯爵を大切に思っていたからこそ、誤魔化さずにありのままを。

 そう気づいたとき、ふたりのことを素直に羨ましいと思った。


「夫人をラヴァンといっしょに都から離れたところに住まわせているのは、世間からラヴァンを隠すためですか?」


「まあ、それもあるが、ラヴァンには過去の記憶がなくてね。炎上するサエウム伯爵の城から助け出したときにはもう何も覚えていなかった。頭に怪我をしていたから、その後遺症なのか、何か他の理由からなのかは分からないが、その養生の意味もある。以前は失った記憶に触れるものがあるとひどく取り乱していたそうだが、最近はそのようなこともなくなったと聞く。それに、母親だと名乗れないまでも、ラエティアも息子といっしょにいたいだろう」


「そんなに夫人を大切に想っているなら、女遊びもお控えになったらよろしいのに」


 今度はちょっぴり嫌味をこめた。

 アモル伯爵は口の端だけで笑い、席を立った。


「それでは屋敷を出されたのもラエティアに非があるように思われてしまうだろう? だからといって、私は実際に浮気などしたおぼえはないがね」


 世間が勝手に噂してくれるので助かるよと、楽しげに笑う。

 この不自然すぎる椅子の配置は、まさにその噂のせいなんですけど……なんてことは言えないけども。私が告白するまでもなく、アモル伯爵はすべて分かったうえで言っているのではないかと勘繰ってしまう。


 アモル伯爵ってたぶん、そういう人だ。

 すべてを飲みこんでしまえる器の大きい人。


「あの……、ありがとうございました。お話を聞かせていただいて」


 思わず立ち上がって頭を下げていた。

 私のほうから手を差し出し、感謝の気持ちでアモル伯爵と握手を交わす。


「ところで、ラエティアが命を狙われているという話だったが?」


「そうなんです。いま私の兄が──」


 ガシャガシャン! と、派手にガラスが砕ける甲高い音に、私もアモル伯爵もいっせいに振り返った。


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