真実の向こう側9
「ウォルンタースが都に戻って王位についてから、ラエティアは自分が身籠っていることに気づいたそうだ。ラエティアはウォルンタース王のことをいっさい口にしなかったため、両親はラエティアをひどくなじり、屋敷に閉じ込めて、妊娠も出産も周囲に隠したそうだ。家の恥になるからな。子供は生まれた日にすぐ屋敷で働いていた召使いに二度と一家と関わらないことを約束させ、十分な金子を渡したうえで引き渡していたらしい」
あの優しげなアモル伯爵夫人にそんな過去があったなんて、信じられない。
「だが、悪いことに、その子供はウォルンタース王と同じ青紫の瞳をしていた。しかも、ラエティアは子供を引き受けた召使いに指輪を渡していたのだ。ウォルンタース王が別れのときにラエティアに贈った、二人の名が刻まれた指輪を。……いや、ラエティアは名前が刻まれているなど知らなかったらしいが。最初はメッキか何かで隠されていたのだろう。そんな子供をサエウム伯爵が見つけてしまったのだ」
ここにきて初めてアモル伯爵の顔が苦々しげなものになった。
「でも、だったら、その子供をあなたが支援して王位につければよかったのでは? もともとあなたはサエウム伯爵とは協力関係にあったのでしょう?」
「ラエティアの息子はとても王位には向かない人間でね。当時の政治情勢から、そんな人間を王位につけるわけにはいかなかった。それに、彼を王位につければ、いずれラエティアが彼の母親だと知れるだろう。証拠の指輪をサエウム伯爵は持っていたからな。ラエティアはウォルンタース王の名誉を傷つけることを望まなかった」
そんな、名誉なんて……。
だって、べつに悪いことをしたわけでもないのに。
悪いのは、父王に反逆して勝手に自滅した兄王子たちじゃない。それさえなければ、ウォルンタース王は王になることもなく、アモル伯爵夫人──いいえ、シャフト男爵令嬢や可愛い息子といっしょに幸せに暮らしていたはず。
身分が低かろうとどうだろうと、恥ずべきところなどどこにもないじゃないの。
ウォルンタース王に愛されていたはずの人が、その事実を口にするだけで、どうして王の名誉を傷つけることになるのか、理屈は分かっていても納得がいかない。理不尽だ。
「もうひとつ。ラエティアの息子自身が王位など望んでいなかった。彼はサエウム伯爵に人質をとられて、無理に従わされていたのだ」
「人質?」
「そう。彼を引き取って育てた召使いには娘がいた。ミリッシュという娘がな。その娘を人質にとられていたから、彼は逃げられなかったのだ。育ててくれた召使いはすでに殺されていたしな」
言葉が出なかった。
ほんとうに私はミリッシュのことを何ひとつ知らなかったんだと、思い知るばかりで。
結婚の話をしていたときも、ミリッシュはいつになく思いつめた顔をしていたのに、私は「どうしたの?」と、声をかけることすらしなかった。それどころか、ミリッシュをまるで裏切り者のように罵った。
けっきょく私は自分でどんなに否定したところで、自分のことばかり考えて相手の心を見ようとはしない〝お嬢さま〟だったのだ。
こんな私に、なにも相談なんてできるわけないよね……。
「ラエティアの息子を自由にするためには、囚われているミリッシュの居場所を知る必要があった。彼らは自分たちが血の繋がった姉弟ではないことを知っていたが、共に育った仲であることに変わりはないし、そもそも彼らはそれ以上の関係だった。だから、ミリッシュの居場所を聞き出すために、シルワを使ってサエウム伯爵に羽舞草の毒を仕込ませたのだがな。けっきょく見つけられなかった」
どうして私は今、アモル伯爵の口からミリッシュのことを聞いているんだろう。そう思うと、情けなくて涙がこみ上げてきた。
ほんとうは私がミリッシュから直接聞いてあげるべきことだった。完全に同盟者失格だ。
顔を上げたら、そのまま目からしずくがこぼれ落ちそうで、膝のうえに揃えた両手を見つめているだけで精一杯だった。




