真実の向こう側8
「デュ・レールティ嬢はグラースタ伯爵によく似ているようだ。まっすぐで我が強い」
「伯爵! 茶化さないで真面目に答えてください! 私は本当のことが知りたいんです。きっとミリもずっと考えていたはずです。どうして自分の大切な人が殺されなければいけなかったのか」
アモル伯爵は髪をかき上げ、背もたれにすっかり背をあずけると、腕を組んだ。
「さきほども言ったが。デュ・レールティ嬢、あなたは勘違いをしている。私はサエウム伯爵の暗殺など企てていないし、無実の少年を火あぶりにもしていない」
「でもっ!」
「なにを言われてもそれが真実だからどうしようもない。さて、では私からもひとつ、あなたに尋ねようか。ミリッシュはあなたにとって何なのです?」
私はミリとしか言わなかったのに、アモル伯爵は「ミリッシュ」と本名を口にした。まるで親しい知り合いのように。
ミリッシュは、アモル伯爵にとっては過去にただ一度衣装を仕立ててもらっただけに過ぎない人物のはずなのに。
「ミリは、レールティ家お抱えの仕立て屋です。付き合いは五年くらいですけど。私にとっては親しく話をする大事な友人です」
ほんとうは、ずっと中身のある会話なんて出来ていなかったのかもしれないけど。
私が一方的にきゃっきゃとラウラスのことではしゃいでいただけで、ミリッシュの心の声はなにひとつ聞けていなかった、不甲斐ない友人かもしれないけど。
「大事な友人ね……」
「なんですか。それがどうかしたんですか?」
「いや、あの娘がちゃんと友人をもって生活していたのかと思うと、すこし感慨深くてね」
「どういう意味ですか、それは。伯爵こそ、ミリとどういう関係なんです?」
まさかあらぬ関係じゃないわよね……。
疑惑の目を向けかけたら、アモル伯爵はさらりと答えた。
「どんな関係でもない。さらに言えば、ほぼ繋がりはない。会ったのも一度きりだ」
「じゃあ、どうして──」
「さて。では、デュ・レールティ嬢の勘違いの話に戻ろうか」
一方的に話を切ると、アモル伯爵はすこし前屈みになり、膝のうえで手を組んだ。
「私があのとき殺したのは無実の少年ではなく、王位継承権を持つ前王の息子だ」
「え?」
「サエウム伯爵が王位につけようとしていた前王の息子というのは、私の妻の息子でもあってね」
「あ……え? はい?」
いきなりなに?
前王の息子が、アモル伯爵夫人の息子?
いや、でも、アモル伯爵夫人はアモル伯爵の奥さんでしょ。
まったく意味が分からないんだけど。
「ラエティアは、もとは小さな土地しか持っていない男爵家の娘でね。母親の身分が低く、都から離れて隠遁生活を送っていた若かりしウォルンタース王と共に時を過ごしていたことがあった。何ごともなければ、二人は今も平穏に暮らしていたかもしれない。しかし、予期せぬ事態でウォルンタースは王位につくことになった。彼はラエティアを都に連れて行こうとしたそうだが、ラエティアは断った。ただでさえ卑しい出だと低く見られているウォルンタースに、さらに身分の低い自分がそばにいれば、彼の立場がますます悪くなると思ったようだ。それに、当然これから王となるウォルンタースには、より身分の高い女性が妃として選ばれる。そのとき自分の居場所はなく、辛い思いをするだけだと考えたのもあっただろう」
アモル伯爵の口調はあくまで淡々としたものだったけど、語られていく内容に、私は嫌な予感しかしなかった。




