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真実の向こう側11

「シュリアさまっ!」


「イ……、イデルっ?」


 ちょ、私はなにも合図なんてしてないし、全然呼んでないんですけど。

 ハッとして、まだアモル伯爵と握手を交わしたままになっていた手をあわてて離す。


「いや、ここっ、これは違うのよ。私はべつに何もされては……っ!」


「シュリアさま! 大変です! ミリッシュがっ」


 イデルは私の話なんて全然聞いていなかったし、ましてや手もとなんてまったく見ていなかった。


「ミリがどうしたの?」


 イデルは窓の外から顔を真っ青にして叫ぶ。


「中央講壇に上がり、神官のひとりを人質にとって、アモル伯爵夫妻を連れてくるようにとっ」


「はっ!? なんでそんな無茶を!」


 振る舞い酒でアモル伯爵夫人を毒殺するなんていう私の読みは甘かった? それとも何か予期せぬ事態が起きて、計画を変更した?

 とにかく。


「いま行くわ! 神官には絶対に手出しさせちゃダメよ!」


 そんなことをしたら、問答無用で死罪だ。


「いえ、神官はすでに解放されて、ミリッシュはアトラグさまの配下に取り押さえられたそうです」


 勢いよく走りだしかけていた私は、ずでっと転びかけた。


「何なのよ、もうっ!」


「ですからっ、今はミリッシュがアトラグさまの人質になっているんですよ!」


「はあっ!? 全然意味が分からないわ!」


「とと、とにかく来てください! 第三列柱室だそうです!」


 その場で駆け足をしているイデルはなんだか滑稽だったけど、笑っている場合ではない。


「よく分からないが、行こうか」


 差し伸べられたアモル伯爵の手をとり、私たちは神殿の奥にある第三列柱室へと急いだ。



 大地の神に仕える神獣たちのレリーフが刻まれた円柱が並ぶそこは、まともに見上げれば首が折れるのではないかと思うほどに天井が高い。

 ここは位の高い神官同士の会合に使われる場で、今日の大祭では使われていない場所だった。


「お兄さま! 何をしているの!? 約束が違うじゃない。五日間は私に主導権があるはずでしょ! 私に嘘をついたの!?」


 その場にいたのはお兄さまとミリッシュ。そしてアモル伯爵夫人と数人の兵士だった。

 お兄さまは刃物なんかは手にしていなくて、ただミリッシュの手首をつかんでいるだけだったけど、日々鍛え抜いているお兄さまの力をナメてはいけない。ミリッシュは柱から伸びた鎖に繋がれているも同然だ。ミリッシュはその場からも動くこともままならないはず。


「嘘をついたのかとは、心外だな。俺は約束を破ってはいないぞ」


「じゃあ、これは何なのよ! ミリッシュを離して!」


「そいつは出来ない。俺はいま人を待っているんでな。これはシュリアが持ちかけてきた話とは別件だから、主導権はおまえにはない」


「なに言ってるのよ!」


「デュ・レールティ嬢、落ち着きなさい」


 声を荒らげる私に、アモル伯爵がたしなめるように言った。

 けど、これで落ち着いていられるほうがおかしいわよ。どうかしているわ。

 かまわずお兄さまに駆け寄ろうとしたら、アモル伯爵がぐいと私の腕を引っ張ってきた。「やめなさい」と。


 いっぽう、私のことなんてまるで眼中にないといった様子のお兄さまは、薄く笑って何もない空間を見つめた。


「さて、いいかげんに出てきたらどうだ? このまま俺がこの娘を連れて行っていいのか? それとも、俺がこの手を離して、この娘にアモル伯爵夫人を殺させるか? どちらでもいいぞ。この娘はどちらにしろ死罪だ。おまえが出てくれば別の道を考えてやらなくもないが」


 いったい誰に話しかけているのだろう?

 お兄さまの声は高い天井に殷々(いんいん)と響き渡った。

 反響するその声が消えるか消えないかという頃になって、コツンと小さな音が聞こえた。

 そうして大きな柱の陰からゆっくりと出てきた人物に、私は目を瞠った。


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