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真実の向こう側6

「赤鐘草を必要とされていた方は、あれから良くなられましたの? そのあと頂きました文にも何やら具合の悪い方がいらっしゃるとありましたので、いくつか薬を送ったのですが、その後いかがです?」


「その節はほんとうにご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。おかげさまで両人とも快復し、元気に致しております。改めてお礼を申し上げます」


「お役に立てたのならようございましたわ」


「あの、ところで今日はラヴァンは同行されていないのですか?」


 私がラヴァンの名を出した瞬間、隣にいたアモル伯爵の眼光が鋭くなったのを、私は見逃さなかった。


「彼はお留守番ですわ。よろしかったら、またそのうち遊びにいらして」


「ラエティア? こちらのご令嬢は?」


 あからさまに警戒している目でアモル伯爵が私を見てくる。けっこう迫力があって怖い。

 思わず後ずさって、お兄さまの腕をつかんでしまった。


「こちらはブリアール侯爵のご息女のシュリア嬢ですわ。先日、薬草を分けてもらいたいと、うちに訪ねてこられたのです」


「まさか屋敷に入れたのですか? ラエティア……、あれほど知らぬ人間を入れてはいけないと言ってあったのに、あなたという人は」


 責めるアモル伯爵に、夫人はほんの少し唇を尖らせた。


「だって、ブリアール侯爵のお身内なら構いませんでしょう?」


「相変わらず脇が甘いですね。詐称だったらどうするつもりなのです」


「あら、そんなことをおっしゃるなら、あなたがずっと屋敷の門のところで見張っていてくださればよろしいのですわ」


「またそんな無茶を……」


 ……あれ。なんだろう、このふたり。

 交わされている眼差しが、まるで恋人同士のように甘いのだけど。

 夫婦仲が上手くいっていなくて、別居しているんじゃなかったっけ。


 純粋そうなアモル伯爵夫人はともかく、女遊びがひどいと評判のアモル伯爵までが愛しそうに夫人を見ているのはどういうわけだろう。

 久しぶりに会うと懐かしさでそうなるのだろうか? よく分からない。


「とにかく、この話についてはまたあとで。デュ・レールティ嬢? 妻は田舎でしずかに暮らしていますので、そのあたりのご配慮をお願いしますよ」


 つまり、妙な噂は流すな、あそこでの暮らしぶりは他言無用ということか。

 やっぱり公になっては困る何かがあるみたいね。


「アモル伯爵、お久しぶりです。夫人のほうははじめまして、ですね。アトラグ・シガリーン・デュ・レールティと申します」


 空気がピリピリしてきたところで、お兄さまが前に出る。絶妙なタイミングだ。


「これはグラースタ伯爵。ずいぶんと立派になられましたな」


「まあ! ブリアール侯爵のご子息ですの? お会いできて光栄ですわ」


 無邪気に喜ぶアモル伯爵夫人の笑顔とは対照的に、私は緊張で笑顔が硬くなるのを自覚しつつ、なすすべがなかった。


「アモル伯爵夫人、じつは妹が出した文のことで折り入ってご相談があるのですが、少しよろしいですか?」


 さあ、いよいよ作戦開始だ。

 まずはお兄さまがアモル伯爵夫人を離席させる。

 そして私は。


 ちらりとアモル伯爵を見て、つばを飲み込む。

 大丈夫。私は天下のグラースタ伯爵の妹だもの。ちゃんとできるわ。


「あら、私に相談だなんて何かしら。あなた、よろしくて?」


「ええ。構いませんが、迷子にならないようにしてくださいよ。きれいな迷い猫にはすぐ人が寄ってきますからね」


「もう……クランさまったら」


 ほんとに何なのかしら、この夫婦。

 傍で聞いてるこっちが恥ずかしくなるんですけど。


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