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真実の向こう側5



 ガルファラの大神殿は、メリディエル家の領地のすぐそばにある。

 すぐそばと言っても、メリディエル家の領地自体がかなり広大なので、まだ陽も出ないうちに屋敷を出発したにもかかわらず、神殿に着いたのは昼前だった。


「まるで山ねえ」


 もともと丘の上に建てられている神殿だったけど、その神殿というのが丘全体を覆い尽くすほど巨大で、中央に行くほど高い尖塔があるものだから、もう完全に山にしか見えない。


 馬車の中から遠目に見ただけでも神殿の周囲は白と黒で埋め尽くされていて、実際に神殿に着いて馬車を降りてみると、息が詰まるほど人がひしめき合っていた。

 白と黒ばかりが入り乱れていて、目がおかしくなりそうだ。


 ガルファラの大祭では、女性は白いヴェールをかぶり、男性は筒状のくたっとした黒い帽子をかぶることになっているのだけど、女性はここでもお洒落をしたいものらしく、身分の高い貴婦人はレースのヴェールをかぶっていることが多かった。

 かくいう私もレースのヴェールだったけど、これはイデルが「ブリアール侯爵令嬢として当然です!」と言って用意したものだ。


 貴族たちが使う通路は一般民衆が通るところほど人がひしめいてはいなかったけど、皆もったいぶったようにゆっくり歩くから、いつになったら神殿のなかに入れるのやらと、手にしている扇で自分の腕を何度バシバシ叩いたか分からない。

 お兄さまが時間の無駄だと言いたくなるのも理解できる。


 暑いなかでこんなことやっていたら、貴婦人なんて失神するわよ。

 ふつうの貴婦人よりは鍛えられている私だって、コルセットでぐいぐい締められているから倒れそうだ。


「シュリア、顔色がよくないぞ。大丈夫か?」


「へ……平気、これくらい。しばらく正装なんてしてなかったから、そのうち慣れるわ。それよりお義姉さまは?」


 神殿に入るとすぐにお兄さまが声をかけてきた。まわりを見てもお義姉さまの姿はない。


「ああ、席について休んでるよ。あいつはふだん部屋のなかで刺繍ばっかり刺しているからな」


 疲れたんだろと、お兄さまが笑う。

 筋肉を愛するお兄さまの奥さんだから、筋肉ごりごりなのかと思いきや、じつはまったくの正反対で、少しふっくらとした柔らかい感じの人のうえに、動きも数段遅い。そう言ったら、「おっとりしてると言え」と、お兄さまに怒られるんだけど。

 とにかくはじめてお義姉さまを見たときは我が目を疑ったものよ。

 そんなお義姉さまだから、席で休んでいると言われたら、その光景がすぐに目に浮かんだ。


「お兄さま、アモル伯爵夫妻はもう?」


「ああ、来てるぞ。あそこにいる。祭典がはじまる前に行くか」


 お兄さまが視線で示した上階のすこし奥まった席を見たけど、私の目には夫妻の姿は入らなかった。


 イデルの提案どおり、アモル伯爵夫人の護衛はお兄さまに任せることにした。

 いつどこでどんなふうに狙われるか分からないけど、もし私の想像どおり、あの心臓の薬が使われるのだとしたら、機会は一度だけ。

 祭典の最後に振る舞われるお酒だ。


「ごきげんよう、アモル伯爵夫人」


「まあ、シュリアさま? いらしていたのですね。ごきげんよう」


 嬉しそうに笑って手を差し出してくるアモル伯爵夫人の手をとり、私も笑みを返す。その目の端で、隣にいる男性をさりげなくとらえた。


 彼が噂に聞くアモル伯爵か。

 なるほど、もう五十近いはずだけど、たしかに女性にモテそうな色男だ。どこか憂いを帯びた青い瞳に、私まで意識を持っていかれそうになる。

 想像していたのと違って、引き締まった頬のラインにも引き結ばれた口もとにも、だらしなさはカケラも見えなかった。


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