真実の向こう側1
お兄さまと会った翌日、私はまた書庫に籠もった。
お兄さまが私に「好きにしろ」と許してくれた期間は五日。
その間、私からの依頼があれば、お兄さまは私の依頼どおりに動いてくれるという。
なんだかんだ言って、けっきょくお兄さまは私に甘いのよね。
……なーんて、油断していたら、きっと痛い目見るけど。
何か依頼したら、情報がそのままお兄さまに流れちゃうことになるんだもの。約束の期間が過ぎたら、すべてお兄さまに有利に働くようになる。
だからといって、私はむやみに動けないし、最終的にお兄さまを頼るしかない。ほんとうにお兄さまは策士だわ。
「五日といったら、ちょうどガルファラの大祭までですね。その日まではアトラグさまもこの近くに滞在なさっているようですから」
「そうねえ」
書庫にはイデルといっしょに籠もっていた。
もちろん今後のことについて相談するためと、十年前の政争についていっしょに調べるためだ。
お兄さまに訊いたほうが早いのは分かっているんだけど、そこはやっぱり自分で調べられるなら調べておきたいから。
「でも、お兄さまが大祭に参列なさるなんて珍しいと思わない? 時間の無駄だとか言って、いつも名代を立てて済ませているのに」
「それは、誰か思う人でもいるのでは?」
「えー? お兄さまはああ見えて、お義姉さまひと筋なのよ? どこかのお偉い伯爵さまと違って、浮気なんてないわよ」
バカにしないでくれる? と、手もとの本のページをめくりながら、向かいに座るイデルを睨む。
「いえ、アトラグさまが奥方さまを大切になさっているのは私も存じておりますわ。私が申し上げているのは、そういう意味ではなくてですね。アトラグさまが何か謀略を仕掛けようとしている相手がいるのではないかということです」
「ああ、そういうことね。それはありそうね。今は海賊を裏で支援している人物がどうとか言ってたし」
まあ、何にしろ、それは私には関係ない。
でも、そういうなかでも私に協力しようとしてくれているお兄さまには感謝しないと。
策士云々は置いておくとしても、お兄さまはいつも私に優しいのだから。
「ですが、実際は奥方さまにねだられたというのもあるかもしれませんね。ガルファラはなんといっても愛の女神ですし。ふふ」
愛の女神、ねえ……。
うっとりと天井を見上げるイデルとは対照的に、冷めた目で頬杖をつく私。
この国では四柱の神が信仰の対象になっていて、四柱の神それぞれに大神殿がある。そして、その大神殿では毎年交代で大祭があるのだ。五日後に行われるガルファラの大祭がまさにそのひとつ。
愛の女神っていうけど、本来ガルファラは大地の女神のはずなんですけどねえ。
まあ、私にはどうでもいいことだけど。
「シュリアさま? さっきから何度も溜息をつかれていますけど、何なのです? 悩み事があるのでしたら、私が相談に乗りますよ」
「うん……。ああ……平気。なんでもないから」
いけない。知らないうちにそんなに何度も溜息をついていたなんて。
そう思うそばから溜息をつきそうになっている自分に気づいて、息を詰める。
さっきから頭の中をぐるぐるとまわっているのは、昨日のお兄さまの言葉だった。
お兄さまの言う、次の一歩というものをどうやって踏み出せばいいのか分からなくて。
そもそも次の一歩というものが、どういうものなのかも分からない。どこに向かって行けばいいのかも。
正直にそう言ったら、お兄さまははぐらかさずに真面目に答えてくれた。
『頭でよく考えろ。自分が何に引っかかっているのか。自分がこれまで何を思い、何を果たしてきたのか。別れに後悔がないなら、おまえが引きずっているのは別のことだろう。それが分からなきゃ、次の一歩なんて永遠にないぞ。思考することを放棄するやつは成長なんてしないからな』
まあ、けっきょくは自分で考えろってことなんだけど。じつにお兄さまらしい助言だ。




