決断13
部屋を出ると、待っていたキャナラが身を乗り出してきた。
その期待に満ちた眼差しには気づかないふりで、私は足早に廊下を突き進んだ。
「イデルはすぐソルラーブに行くのは無理だろうから、しばらくブリアールで静養させるつもりよ」
キャナラが黙ってうなずく。
「だから、イデルに伝えて。もしもラウラスに私のことを訊かれたら、私はラウラスのおかげで怪我ひとつしなかったから平気だってことと、以前から決まっていた婚約者のもとに嫁いだということだけ答えるように、って。訊かれなければ何も言わなくていいわ。いい? くれぐれも余計なことは口にしないように言うのよ。とくに、私の結婚がラウラスの命と交換条件だったことなんか喋ったら、即刻クビだからよく肝に銘じておきなさい、と」
まあ、イデルのことだから大丈夫だとは思うけど。
「それから、これをおばあさまに渡して」
ふいに立ち止まり、あからさまに戸惑った顔でついて来ていたキャナラにブレスレットを差し出した。
おばあさまには、これで私の覚悟が伝わるはずだ。
《真実の雫》は、結婚した一年後にレールティ家に戻すのが通例。
なぜなら、このブレスレットは結婚相手との間に真実の愛がなかった場合──すなわち、こちらが結婚を望まない場合に、相手を抹殺する役目を担っているからだ。
顔も知らない相手に嫁ぐことも珍しくないので、相手の心を覗ける最初の機会が結婚する日ということになれば、必然的に相手を抹殺するのもそれ以降になるので、一年後に返すことになっているのだ。
抹殺は呪いなどではなくて、ブレスレットについている水宝玉の台に仕込まれている毒を使用するという、至極現実的なもの。
けっきょく追い込まれると、人は同じような考えに行きつくのだろうか。
トルナード男爵夫人もそうやってサエウム伯爵の毒殺を考えたことを思い出し、ふっと笑う。
「でも私は、今さら逃げやしないわ」
ラウラスのために、私は私にできることをする。
そばにいたいなんて我儘は、もう言わない。
「行ってやろうじゃない、ソルラーブに。相手が誰であろうと立派に嫁になってやるわよ」
そばにいなくても、私の心はいつもラウラスのそばにあるから。
それは変わらないから。
この身くらい、どこにだって持って行ってやるわ。
だから、どうか無事で。
どうか、ラウラスの人生が平穏と幸福で満たされますように。
そして、できれば、ときどき私を思い出してくれると嬉しい。
……けど、そこまで望むのは、きっと欲張りすぎというものなんだろう。




