決断11
蝋燭の小さな灯りだけがしずかに揺らめく部屋のなか。
ベッドの上で膝を抱える私の胸の内は、自分でも意外なほど凪いでいた。
私がめそめそ泣くのはおかしい、間違っていると、分かっていたから。
ほんとうに泣きたいのはラウラスのほうのはずなのだ。
やっと自分の居場所を見つけて穏やかに過ごせるようになったと思ったら、能天気な子供に懸想されたばかりに、居場所も命も奪われようとしていて。
ほんとうに迷惑極まりない話だ。
私がラウラスの立場だったら、間違いなく相手を恨む。いくら恨んだって足りないくらいだ。
だから、私が泣くのは間違っている。
大丈夫。私は平気。苦しいのも辛いのもラウラスのほうだから。
私は何も辛くなんてない。
大丈夫。最初から叶うことのない片恋だって知っていたから。
平気よ。何でもないわ。何でもないの──。
ラウラスが私の傷の手当てをするために貸してくれたリボンを取り出して、握りしめる。
叶わない片恋だと分かっていたのだから、もっと早くに手放しておくべきだった。こんなことになる前に……。
今なら分かる気がした。叶わない片恋を諦めて別の人と結婚することにしたミリッシュの気持ちが。
想いが偽りだったわけじゃない。きっと本物だったから手放したのだ。相手のために。
私は、自分のことしか見えてなくて……子供みたいに叶うはずのない片恋にしがみついて、けっきょく何の罪もないラウラスを最悪な形で失おうとしている。
ほんとうになんて愚かなんだろう。
想いが偽物だったのはミリッシュではなく、私のほうだった──。
おもむろにベッドから下り、洗面用の水が張られている水盤を覗き込む。
そうしてラウラスのリボンを水盤に沈め、付いている私の血をバシャバシャと洗い落とした。
《真実の雫》の副作用のせいで皮膚感覚は消えていたから、水の冷たさなんて気にならなかった。
できるかぎり染みが残らないように、ただただ無心で手を動かす。
いったいどのくらいそうしていただろう。
手もとに影が落ちて初めて顔を上げた。
「キャナラ? どうしてここに……」
いつの間にか私の横に立っていたキャナラは、扉のほうを指差して「行きましょう」と声をかけてきた。もちろん実際に私の耳に言葉が聞こえたわけではなくて、唇の動きを読んだだけだ。
「えっ? どこに行くつもりなの? 下手なことをして見つかったら、今度こそおばあさまが怒り狂って何するか分からないわ」
キャナラは何も言わず、ただ口もとに人差し指をあてるだけだった。




