決断10
「いいのよ、ラウラス。もういいの」
私の言葉が届いているのかどうか分からなかったし、私もなんて言葉をかければいいのか分からなくて。
ただただ背中を撫でてあげるしかできなかった。
今はとにかく安心して休んでほしい。
だって、ラウラスはひどい熱だった。全身が火のように熱かった。
目だって見えていないようだし、このうえ幻覚にまで苦しめられるなんてあんまりだ。
「……もう、いい……?」
ラウラスがはじめてまともに言葉を紡いだ。
「そう。もういいのよ。お母さんはあなたを一生懸命守ってくれたんでしょう。あなたが大切だから。だから、その翡翠もあなたに譲ってくれたんでしょう」
それが真実かどうかなんて関係ない。身勝手な解釈でも構わない。生きている人間は、命あるかぎり生きていかなくちゃいけないのだから。
ラウラスが微かに笑みを浮かべたと思った瞬間、私は誰かに肩をつかまれ、引き倒されるようにしてラウラスから離された。同時に、目から火花が散ったような気がした。
右頬に鋭い痛みをおぼえたのは、そのすぐあと。
顔を上げたら、おばあさまが物凄い剣幕で何かまくし立てていた。
ブリアール城にいるときでさえ私に見張りをつけていた人だから、おばあさまがここにいることにはたいして疑問をおぼえなかった。
私が庭師のそばにいるのを見て怒っているのだろうと、弁解の言葉を紡ぎかけたら、おばあさまがいきなり私の口を手で押さえてきた。
【おまえはこんな男に心を寄せているのですか! 恥を知りなさい!】
そのときになってようやく自分がとんでもない過ちを犯してしまったのだと理解した。
私にラウラスの声が聞こえると、おばあさまに気づかれてしまったのだと。
きっとおばあさまは私の肩をつかむ前に何度も私に声をかけたに違いない。その声には反応しなかったのに、ラウラスの声には反応してしまったから……。
おばあさまは私の唇に手を押し付けたまま怒りの形相で私を部屋から引きずり出した。
【おまえは夜が明けたら、ブリアールではなく、ソルラーブに行きなさい。先方には私が話をつけておきます。無事に婚儀が終わるまでブリアールの地を踏むことは許しません。もしそれが嫌だというなら……ちょうどいい、あの男にはこのままここで死んでもらいます。いいえ、身のほど知らずなあんな男は、むしろ今ここで排除しておくべきね。害悪です】
それだけ心の声で伝えてくると、もう言うことはないとばかりに、おばあさまは私から手を離した。
「おばあさま! 違うの! ラウラスは何も知らないんです! 何も悪くない。私が一方的に慕っていただけで、彼はなにも……っ。結婚でも何でもおばあさまの言うとおりにしますから、ラウラスを助けてください。お願いします!」
必死に頭を下げるけど、おばあさまの私を見る目は冷たいままだった。
「お願い、助けて……。彼は私を助けてくれたんですよ!? 私の命の恩人なのに見殺しにするなんて! そんな仕打ちはあんまりです! ぜんぶ勝手をした私が悪いんです。私なら何でもしますからっ。お願い……おねがいします……っ」
いくら私が叫ぼうと懇願しようと、おばあさまは眉ひとつ動かさなかった。
そのまま私はおばあさまの従者に問答無用で引きずって行かれ、見張りつきで部屋に閉じ込められてしまった。




