ファナの見合い
その後はプリムの歌で盛り上がった。
今日のリクエストは、『松明を持て!』。
勇壮な曲に、みんなで大合唱が起きた。
どうやら、松明を持て! と歌ったら、おう! と応じるのがマナーのようだ。
そんな楽しい雰囲気の中、リーズヘッグに呼ばれた。
「リリアが来とるぞ。挨拶して来い」
「ありがとう。じゃあ、少し抜けるね」
俺はリーズヘッグの導きで、2番テーブルのリリアに挨拶した。
「やあ、リリア。《竜の跳ね鳥亭》へようこそ。仲間の皆さんも、こんばんは。伝言を聞いて、来てくれたのかい?」
「ん。《月影亭》へ行くって聞いた。名前はわたしも聞いたことがある。有名店。2月21日は、空いている」
「そっか。良かった。今日の料理のお味は如何だったかな?」
「ため息が出るほど美味しかった。肉料理と菓子が最高だった。ミルフィーユが大好き」
「お口に合って光栄だよ。仲間の皆さんも、ご満足頂けましたか?」
「ええ……。とっても美味しかったわぁ……」
「美味かったよ。《六角亭》や《月影亭》は、どんな味がするんだろうな?」
「えっと……とっても、美味しかったです」
「お口に合って光栄です。《六角亭》や《月影亭》は、人数の都合で、お誘いできず、申し訳ありませんでした。機会があれば、声をかけますね」
「お気遣いありがとうねぇ……。また寄らせて頂くわぁ……」
「キョウスケ。他に空いてる日はある? 逢い引きする日も決めたい」
「あ、そうだね。カレーを取り扱ってる店が増えたそうだから、食べ歩きに行こうか。お店は、《エリザベス》、《時計亭》、《天上の花》、《コキュートス》の4店舗だよ。2月28日はどうかな?」
2月14日も空いているが、プリムが仲間と菓子を食べに行くと言っていたので、除外させて貰った。
「2月28日、空いているよ。カレーの食べ比べも、楽しみにしてるね」
「うん。じゃあ、次は28日の菓子の食べ比べだね。皆さんのお越しをお待ちしてます。じゃあ、またね、リリア」
俺は一礼して、調理場へ戻った。
牛肉の果実酒煮込みを盛り付けながら、俺は週末の28日の事を思い浮かべる。
俺も今から楽しみだ。
店内は賑やかで、料理も好評だ。
俺は充足した気持ちで、仕事をこなすのだった。
午後9時の鐘が鳴った。
閉店の刻限である。
お客がどんどんはけていき、最後の1人まで帰ったら、店に鍵をかける。
ジュレとプリムは店内の清掃、リーズヘッグは金勘定、ファナとアディスが皿洗いだ。
俺とアイロスは、晩餐の支度だ。
俺は兎肉を一口大に切り、タマネギのごときカペラを薄切りにする。
それを醤油のごときユーカンで炒めて、完成だ。
出来上がった料理をカウンターに並べていく。
配膳はジュレ、お茶の準備はプリムがしてくれた。
「お待たせしたね。晩餐の献立は、汁物料理が、ミネストローネ。肉料理は、ユーカンで味付けした焼肉。付け合わせは、蒸し野菜のサラダと、カボチャのごときエリマのハニーマスタード。輪切りのフランスパンを添えて、菓子は、ミルフィーユを準備しているよ。さぁ、召し上がれ」
俺達は突き匙を取り上げ、一斉に食べ始めた。
焼肉の味付けも丁度良い。
俺は付け合わせをついばみながら、アグムドの件を報告することにした。
「《月影亭》の店主アグムドとお弟子さんは、料理に満足してくれたよ。2月21日は空けておいてくれるってさ」
「わかった。カトリーヌとリリアも、2月21日は空いているとのことだった。あとは、リエルの都合だな」
「わかってるわ。明日の朝に、聞いてくるから! それまで、待っていてよね!」
「わかった。じゃあ、宜しく頼むぞ」
リーズヘッグとファナがそう言った。
料理を食べ進めて、みんなの皿が空く頃合いで、菓子を配膳した。
「やっぱりミルフィーユは美味しいね! あたしは、これ以上美味しい料理って、思いつかないなぁ。《六角亭》って、城下町で1番美味しいんでしょ?」
「ええ。1番有名なのは、間違いありません。ですが、お味は、お口に合うかはわかりません。俺が食べた料理は、味が濃くて、乳脂の風味が豊かでした」
プリムとアディスが、そう言うと、ジュレが発言した。
「き、貴族は乳脂を好みます。乳脂を使っていない料理は、古くさいとされてしまうのです。だから、城下町の料理人は乳脂を多用するのでしょう」
元貴族のジュレが言うと、説得力がある。
しかし、そんなに乳脂ばかり使っていたら、胃もたれしてしまいそうだ。
「お味は、当日に自分で確かめるほかないね。楽しみにしようじゃないか」
俺はそう言って、甘いひとときを楽しむのだった。
1月23日。
その日も平穏に営業を終えることが出来た。
露店も全て売り切り、好調だ。
リエルも2月21日の都合がついたので、一緒に《月影亭》へ行くことになった。
ちなみに、28日の菓子の食べ比べにも、リエルは参加する。
どんな娘さんなのか、今から楽しみだ。
1月24日。
その日も午前6時に集合した俺達は、料理の仕込みをしていた。
俺とアイロスは、朝食の仕込み。
ファナとアディスが、スイート・ポテトのごときスイート・ダイナの仕込みである。
俺達は調理に集中して、料理を仕上げていく。
午前8時の鐘が鳴った。
従業員が顔を揃え、着席していく。
ジュレが配膳、プリムがお茶の準備をしてくれた。
「朝食の献立は、ユーカンを使った汁物料理と、ウルドゥを使った煮汁を兎肉のソテーにまぶした、サンドイッチだよ。さぁ、召し上がれ」
俺達は一斉に食べ始めた。
ピリ辛のサンドイッチが美味しい。
汁物料理をすすりながら、俺は一言言っておくことにした。
「もしローガンが来たら、俺を呼んでね。予約を頼まなくちゃいけないからさ」
みんなは頷いてくれた。
ゆっくり食事を食べ進めていると、憂い顔のファナの顔が目に入った。
「どうしたんだい? ファナ。元気がないみたいじゃないか」
「そうね……報告しておくわ。今度、幼なじみと見合いをする事になったの。両親が乗り気で、断れなくって……。相手は顔見知りで、同い年。気心が知れてるから良いだろうって言うけど、あたしはアイツ、嫌いなのよ」
「そりゃあ大変だ。お見合いは断れないのかい?」
「相手が乗り気なうちに決めてしまえって、親は言うの。あたしよりあたしの婚期に焦っているわ。あんな奴と婚姻なんて、冗談じゃないっての。かと言って、他にあてもないのよね」
「でも、嫌いな相手と婚姻は無理だろう?」
「そのはずなんだけど……両親の勢いが凄くてね。あーあ、誰かあたしとお見合いしてくれる人がいたらいいんだけどなぁ……」
「ぼ、僕の知り合いは全員貴族です。お力になれず、申し訳ありません」
「いいのよ。貴族の嫁なんて無理だもの。あたしは、あたしに合った人が良いの。真面目でギャンブルをせず、あたしを大事にしてくれるだけで良いのに、何故か見当たらないのよねえ」
ファナが心底困った顔でそう言った。
意を決して、話しかけたのはアディスだった。
「俺の親友を、紹介しましょうか」
その一言で、ファナはたちまち元気になった。




