《月影亭》の店主兼料理長
「7番から12番、上がったよ!」
「はーいっ!」
「2番テーブルに4つ、上がったよ!」
「は、はい!」
俺は次々にサンドイッチを仕上げて、木皿に盛っていく。
アイロスのサポートも万全だ。
そのお客に呼ばれたのは、しばらく経ってからの事だった。
「キョウスケ、料理屋の店主が、挨拶をしたいそうだ。今、抜けれるか?」
「うん、大丈夫だよ。行こうか」
俺はリーズヘッグに導かれ、そのお客の前に立った。
「お待たせ致しました。《竜の跳ね鳥亭》へ、ようこそ。俺が料理長のキョウスケです。料理のお味は、如何でしたか?」
「お前は異国の料理人だと聞いた。お前の料理は、風変わりだ。しかし、俺の口には合うようだ」
「はい、俺は日本という国の出身です。このあたりでも、俺の料理は珍しいようです。お口に合ったなら、光栄です」
「ニホン……知らない国だ。まあ、いい。俺は城下町の民で、《月影亭》の店主兼料理長のアグムドという。俺も異国の料理人だ。出身は、隣のサバラン王国になる。俺の料理に、興味はないか? 城下町では《六角亭》より一段落ちるが、それなりに人気のある料理店だぞ」
「興味はありますが、城下町に入れる身分ではありませんので……」
「《六角亭》へは、行くのだろうが? いいからローガン様に頼んで予約して貰え。第三騎士団の連中はうちの店にもよく来る。それで、うちの料理をついばみながら《竜の跳ね鳥亭》の料理が美味いと騒ぐのだ。おかげで、お前の名前もすっかり覚えてしまったわ。今日の夜は弟子も連れてくる。お前の料理帳の中で一番の献立を出せ。いいな」
「わかりました。万全の体制でお迎え致します。あなたのお店にも、お伺いさせて頂きたいと思います。勿論、ローガン次第にはなりますが……」
「あの御仁なら断るまい。ではな、キョウスケ。夜の料理を楽しみにしているぞ」
俺は一礼して、調理場へ戻ってきた。
《月影亭》の店主、アグムド。
あの人は、どんな料理を作るのだろうか。
俺は静かに奮起し、コロッケを揚げるのだった。
午後2時半、ファナとアディスが帰還した。
「今日もすごい勢いだったわ! 全部売り切ったわよ!」
「先週のチョコバナナパイに引き続き、スイート・ダイナを待ち望んでいたお客が多かったですよ。お客の評判は大好評で、もっと作って欲しいという声が止まないようです」
「二人ともお疲れ様。スイート・ダイナも好評で嬉しいよ。仕込みはこれ以上増やせないけど、覚えておくからね」
二人は頷いて、皿洗いを手伝ってくれた。
午後3時の鐘が鳴った。
閉店の刻限である。
お客がどんどんはけていき、最後の1人まで帰ったら、休憩時間だ。
ジュレとプリムは店内の清掃、リーズヘッグは金勘定、ファナとアディスが、皿洗いだ。
俺とアイロスは、昼食の仕込みである。
昼食の献立は、気合いを入れさせて頂いた。
汁物料理は、ミネストローネ。
肉料理は、牛肉の果実酒煮込み。
付け合わせは、蒸し野菜のサラダと、カボチャのごときエリマのハニーマスタード。
菓子は、ミルフィーユだ。
手間暇のかかる献立を選ばせて頂いた。
アイロスに説明すると、目を輝かせて了承してくれた。
「豪華な献立だとは思ったが、まさか《月影亭》の店主が、来店するとはな。城下町では名の知れた有名店だぞ」
「そうなんだね。それで、今日はミルフィーユの作成も手伝って欲しいんだけど、良いかな?」
「任せておけ。まずは、付け合わせと汁物料理だ。手が空いたら、声をかける」
「うん。宜しく頼むよ」
俺達は料理に没頭し、昼食を作り上げた。
いつもより時間がかかったが、満足いく料理を作る事が出来た。
配膳はジュレ、お茶の準備をプリムがしてくれた。
「お待たせしたね。昼食の献立は、汁物料理が、ミネストローネ。肉料理は、牛肉の果実酒煮込み。付け合わせは、蒸し野菜のサラダと、カボチャのごときエリマのハニーマスタード。輪切りのフランスパンを添えて、菓子は、ミルフィーユを準備しているよ。さぁ、召し上がれ」
俺達は突き匙を取り上げ、一斉に食べ始めた。
牛肉の果実酒煮込みは、深い味わいが素晴らしい。
付け合わせも、文句のない美味しさだ。
汁物料理のミネストローネも、野菜たっぷりで、とても美味だ。
「今日、城下町の民で、《月影亭》の店主兼料理長のアグムドという人がお昼を食べに来てくれたんだ。それで、今夜も弟子を連れて食べに来るから、俺の一番の献立を出せって言われたんだ。いつもよりちょっと豪華な献立なんだけど、リーズヘッグは許可をくれるかい?」
「良いぞ。しかし、城下町の民がわざわざ石塀を出て、お前の料理を食べに来るとはな。大方騎士連中からお前の評判を聞いたのだろうが、愉快な事だな」
「うん。それとね。《月影亭》の料理に興味はないか、って聞かれたよ。それでさ、立て続けで悪いんだけど、2月14日の休日に、また10人でお邪魔しないか? 予約はローガンに頼むほかないんだけど、都合が悪い人はいるかい?」
「はい! リリア達と菓子を食べに行く予定です! 2月21日でも良いかな?」
「俺は構わないよ。ファナ、リエルにも確認を取ってね。他の皆はどうかな?」
俺がみんなの顔を見回すと、みんな嬉しそうに頷いてくれた。
「うむ。みんな問題ないようだ。俺はカトリーヌに確認を取る。お前さんは、リリアだろう。食後に伝言屋まで行ってくる。勘定は今回も俺が持つからな」
「いつもありがとう、リーズヘッグ。《月影亭》も人気店だって言うから、きっと美味しいよ。ローガンが来たら、呼んでね。2月21日で予約を取るからさ」
リーズヘッグは頷いて、フランスパンを千切った。
みんなの皿が空いた頃合いで、菓子を配膳する。
サクサクしたパイ生地と、甘いカスタードクリーム、酸味のあるイチゴのごときガルが混じり合い、えもいわれぬ美味しさだ。
みんなの満足げな顔を見て、俺もミルフィーユを堪能するのであった。
食後は、料理の仕込みである。
俺とアイロスは、夜の仕込み。
ファナとアディスが、ミートソースの仕込みだ。
俺達は賢明に力を尽くし、料理を仕上げていく。
午後4時半、ファナとアディスが、出発した。
仕込みもあとひと息である。
俺達は気を抜かず、ミルフィーユを切り分けるのであった。
午後5時の鐘が鳴った。
開店の刻限である。
並んでいたお客が、怒濤のように押し寄せてくる。
プリムが順番に案内し、注文を取っていく。
ジュレはお茶の配膳だ。




