料理帳を買いたい
注文が一段落した頃に、リーズヘッグに呼ばれた。
「ダビとルルイエが、来とるぞ。お前さんにも挨拶したいとのことだが、抜けれるか?」
「うん。少しなら平気さ。行こう」
ダビとルルイエが、食べに来てくれたのである。
俺は喜んで、5番テーブルに挨拶に行った。
「やぁ、ダビ、ルルイエ、今日も《竜の跳ね鳥亭》へようこそ。今日の料理は、どうだった?」
「そりゃあ美味かったよ。肉料理が、俺は好きだったな」
「わたしは全部美味しかったわ……。特に菓子が、気に入ったわ……」
「お口に合って嬉しいよ。それで、こちらの方達は、お仲間かな?」
ダビとルルイエのテーブルには、2人の男性が座っていた。
長身でひょろひょろとした男性は、金髪に茶色の瞳。
もう一人のガッチリした男性は、桃色の髪に緑色の瞳だ。
「ダビとルルイエとは、財宝漁りを始めた頃からの仲なんだ。俺はマリック。そしてこっちの桃色の髪の男が、ジェイクだ。今日は奢りだって言うから来たけど、本当に美味かった!」
「俺がジェイクだ。財宝漁りは楽しいが、美味くはない食事で腹を満たす事になる。それが難点なんだ。この店の噂は聞いていたけど、来たのは初めてさ。俺達もこの店に通わせてもらうよ」
「マリックとジェイクだね。歓迎するよ。料理が口に合って良かった。また是非いらして下さいね。ダビとルルイエも、また来てね。仲間を連れてきてくれて、ありがとう」
ダビに「じゃあ、またね」と手を振って、調理場に戻る。
積み上がった注文をさばくため、俺は鉄鍋に火を入れる。
閉店まで、まだ幾ばくかの猶予があるようだ。
時間が過ぎて、午後8時半。
ファナとアディスが帰還した。
今日も全て売り切ったとの事である。
「今日は厄介な話を持ちかけられたわ。まあ、食事の時にゆっくり話すわよ」
「今日も全て完売です。いやあ、この店の人気はたいしたものですよ」
ファナとアディスが、そう言った。
二人は、速やかに皿洗いを手伝ってくれた。
そして午後9時の鐘が鳴った。
閉店の刻限である。
お客は次々にはけていき、最後の1人も帰ったら、店に鍵をかける。
俺とアイロスは晩餐の支度、プリムとジュレは、店内の清掃、リーズヘッグは金勘定、ファナとアディスは皿洗いだ。
俺は兎肉を一口大の大きさに切り、タマネギのごときカペラを薄切りにした。
鉄鍋に油を熱して、兎肉とタマネギのごときカペラを炒める。
味付けは醤油のごときユーカンと、赤唐辛子のごときチコの実である。
料理が出来たら、カウンターに並べていく。
配膳はジュレ、お茶の準備はプリムがやってくれた。
「お待たせしたね。晩餐の献立は、汁物料理が、キノコとテーペのミルクスープ。肉料理が、ユーカンの焼肉。付け合わせは、ルペン入りの卵焼きと、ケリパのミロ和え。輪切りのフランスパンを添えて、菓子は、ミロ団子を準備しているよ。さぁ、召し上がれ」
俺達は突き匙を取り上げて、一斉に食べ始めた。
どれも美味しい料理である。
俺は小松菜のごときケリパのごま和えのごときミロ和えが気に入っていた。
焼肉を食べながら、フランスパンを千切って、口に放り込む。
「それで、ファナ。厄介な事が起きたって言っていたよね。どうしたの?」
「それがね、ガル大福の料理帳を買いたいんですって。それだけなら、話はまだわかるんだけど、もっと他の菓子も食べてみたいんですって。全財産を使って甘味屋を経営されたいそうなの」
「店は現在の料理屋を改装するんだと言っていました。菓子の料理帳は勿論お持ちなのですが、売り上げは、今ひとつなんだとか。ガル大福は、店の看板商品にしたいそうです」
ファナとアディスは、そう言った。
「それでね、店主じゃないとわからないから、明日の午後3時過ぎに、《竜の跳ね鳥亭》へ来て欲しいと伝えたの。リーズヘッグ、これで良いでしょ?」
「うむ。菓子の食べ比べか……。どうせなら、みんなも食べたかろう。28日の休業日に、菓子の食べ比べを開き、そこに招くというのはどうだ?」
「良い考えだねっ! お菓子、あたしも食べたーいっ!」
「都合の悪い者はおるか?」
「リエルも呼んで良い?」
「かまわんぞ」
「じゃあ、明日聞いてくるねー!」
「俺もカトリーヌを招待する。キョウスケは、リリアじゃろう?」
「うん。また伝言屋を頼らなくちゃな。リリアの仲間も呼んで良いよな?」
「うむ。じゃあ明日の仕込みの際に、また伝言屋へ行ってくる。リリアにも伝言を届けてやろう。28日は午後3時開始で良いな?」
「うん。ありがとう、リーズヘッグ。じゃあ、あとはその店主がどの菓子を選ぶか、だね」
「料理帳は高額だ。そう、何個も買えるとは思えん」
「しかし、ガル大福は看板商品になり得る。目の付け所は悪くない。通常、ひとつの看板商品で、一つの店が建つと言われている」
リーズヘッグとアイロスが、そう言った。
「俺は美味しい菓子を取り揃えるよ。アイロスも、手伝ってくれるかい?」
「勿論だ」
丁度良いので、菓子を配膳する。
今日は、ごま団子のごときミロ団子である。
お味は、香ばしくて、甘い。
今日はリリアから返事が来なかった。
2月7日は、都合が悪いのかな?
俺はそう心配しながら、甘いひとときを楽しむのであった。
翌日、1月12日。
朝6時に集合した俺達は、調理に没頭していた。
俺とアイロスが朝食の仕込み。
ファナとアディスが、ガル大福の仕込みだ。
俺達は賢明に作業を進めていった。
午前8時の鐘が鳴る。
従業員も顔を揃え、着席していく。
ジュレが配膳、プリムがお茶の準備をしてくれた。
「お待たせしたね。朝食の献立は、汁物料理が、肉団子のスープと、兎肉を照り焼きにしたものを挟んだサンドイッチだよ。さぁ、召し上がれ」
俺達は一斉に食べ始めた。
今日の朝食も美味しい。
俺達はしばし食事に集中するのだった。




