ジュレの両親
それから時間が過ぎて、午後2時半。
ファナとアディスが帰還した。
「ただいまー。今日はさぁ、貴族の使いっていう小姓が菓子を30個も買っていったの。おかげで早くから菓子が品切れになっちゃって、苦情を言われたわ」
「懇切丁寧に謝罪したら、許してくれましたけど、日を追うごとに女性のお客が増えているようです」
「アディスが目当てなのか、ガル大福が目当てなのか、わからないけどね! とにかく全部売り切ってきたわ。売り上げも両替してきたし、抜かりはないわ!」
「パスタの人気も凄いですよ。カルボナーラを狙って買いに来たというお客もいましたね」
ファナとアディスが、そのように述べ立てた。
「ファナとアディスは、お疲れ様。まとめ買いもお断りできないし、品切れはしょうがないね。全て完売出来れば、それで良いさ」
ファナとアディスは、皿洗いを手伝ってくれた。
午後3時の鐘が鳴った。
閉店の刻限である。
お客がどんどんはけていき、最後の4人も帰っていった。
やっと、休憩時間である。
プリムとジュレは、店内の清掃、リーズヘッグは金勘定、俺とアイロスは昼食の仕込みだ。
昼食の献立は、汁物料理は、すいとん。
肉料理は、ロールキャベツのごときロールノーマ。
付け合わせは、キノコのニンニクのごときダッキ乳脂炒めと、味玉。
輪切りにしたフランスパンを添えて、菓子はわらび餅である。
アイロスに付け合わせと汁物料理を任せる。
俺はロールキャベツ用の兎肉をミンチにしていく。
片手鍋にマオマオの油を中火で熱し、タマネギのごときカペラをしんなりするまで炒め、粗熱を取る。
キャベツのごときノーマは芯のまわりに深い切り込みを入れ、芯を取り除く。
鍋に湯を沸かし、芯を取り除いたキャベツのごときノーマを入れ、外側4枚を菜ばしではがす。
やわらかくなるまで5分ほど茹で、ザルに上げて水気をきる。
残りも同様にする。
キャベツのごときノーマを1枚ずつ広げ、芯の厚い部分をそぎ取る。
器にひき肉を入れ、粘りが出るまでよく練り混ぜ、炒めたタマネギのごときカペラ、パン粉、溶き卵、塩、黒胡椒を加えてさらによく混ぜ、タネを8等分にする。
下準備の済んだキャベツのごときノーマにタネをのせ、葉の手前をタネにかぶせる。
左右の葉を内側に折り込み、きっちりと巻いて包む。
同様にあと7個作る。
巻き終わりを下にして鍋に並べ入れ、水、味の粉、塩、黒胡椒、ローリエのような香草を加えて中火で煮立てて、アクを取る。
弱火にしてフタをし、30分ほど煮る。
器に汁ごと盛り、仕上げにパセリのごときキアヌをふって完成だ。
次に片栗粉でわらび餅を作る。
アイロスも順調に作業を進めているようだ。
俺は安心してわらび餅を千切り、器に盛っていくのであった。
料理が全て完成し、配膳も完了した。
お茶の準備をしてくれたのは、プリムである。
「お待たせしたね。昼食の献立は、汁物料理は、すいとん。肉料理は、俺の故郷でロールキャベツと呼ばれていたロールノーマ。付け合わせは、キノコのダッキ乳脂炒めと、味玉。輪切りにしたフランスパンを添えて、菓子はわらび餅を準備しているよ。さぁ、召し上がれ」
俺達は突き匙を取り上げ、一斉に食べ始めた。
俺はロールキャベツのごときロールノーマを食べてみた。
汁気がたっぷりで、豊かな肉汁がたまらない一品である。
汁物料理のすいとんも、過不足のない味わいだ。
付け合わせのキノコのニンニクのごときダッキ乳脂炒めと味玉も、問題なく美味しい。
「今日は全て新作なんだ。すいとんはサフアの生地を落とし込んでいるし、ロールノーマは水気たっぷりだ。お客に嫌がられないか、ちょっと心配なんだよね」
「どれも、とっても美味しいよーっ!」
「し、心配ないように思います」
「ふん。これだけ美味けりゃあ、文句もなかろう」
プリム、ジュレ、リーズヘッグが順番に感想を言ってくれた。
「サフアの生地を汁物料理に入れる調理法はなくはない。それほど好まれている料理ではないが、これは味が違う。心配なかろう。肉料理も、俺は美味いと思うぞ」
「本当に美味しいですよ。珍しい料理ではありますが、忌諱される理由は見つかりませんね」
「あたしも全部美味しかった! 特に肉料理と、付け合わせの味玉が好きだなー!」
アイロス、アディス、ファナの順に、感想を言ってくれる。
「みんな、感想をありがとう。あとは、お客の反応を楽しみにしようと思うよ」
そうして食事を進めていき、みんなの皿が空いた頃合いで、菓子を出した。
透明のわらび餅に、たっぷり黒蜜をかけた一品である。
初見は、ファナとアディスだけた。
俺はぷるぷるのわらび餅を、ひと掬い食べ終えてから、話しかけてみた。
「お味はどうだい?」
「すっごく美味しい! こんな面妖な透明の菓子、初めてよ!」
「俺もこれは驚きました。さすがキョウスケ。ぷるぷるで甘くてとても美味しいです」
ファナとアディスがそう、感想を述べ立てた。
「お口に合ったのなら、良かったよ。これも面妖な菓子だから、少し心配だったんだ。お客には、今日が初御披露目だね」
みんな、満足そうにわらび餅を食べてくれている。
俺は安心して、わらび餅をすくい取るのだった。
食後は、料理の仕込みである。
俺とアイロスは夜の仕込み。
ファナとアディスは、カルボナーラの仕込みだ。
俺達は調理に没頭し、料理を作り上げるのだった。
午後4時半、ファナとアディスが、出発した。
カルボナーラ200食と、イチゴ大福のごときガル大福を200個持っていった。
俺とアイロスは、あとひと息である。
俺はわらび餅を千切り、アイロスはすいとんを仕上げていた。
からりと、扉が開いて、長身の男が入ってきた。
あまり見かけない柄物のシャツを着ており、ぎらぎらと光る飾り物を首に下げている。
頭は油で撫でつけられており、表情は薄笑いだ。
「ごめんくださいよォ」
あれは、借金取りの男だ。
リーズヘッグとジュレがすぐに対応する。
「どうした、借金取り。ジュレに利息の取り立てなら、気が早いぞ。給料日は30日だが、それほど払っておらん」
「わかっておりますよォ。まだ働き始めて日が浅いですからねェ。今日は利息の取り立てじゃァございやせん。ジュレの両親について、続報を伝えに来たんでさァ」
「ち、父上と母上が、見つかったんですか?!」
ジュレが意気込むと、借金取りの男はなだめるように微笑んだ。
「北の領地……つまり、ゲッセバルト伯爵の領地にいた形跡を掴みやした。そこでは博打に明け暮れ、豪遊していたようですねェ。一人息子を生け贄にして、優雅なものじゃございやせんかァ」
「ち、父上は博打が何より大好きなんです。ひょっとして、博打で稼いで借金を返そうとしたのかもしれません」
「結果は散々で、あっちでも夜逃げしたんだそうでさァ。ちっとも懲りていやせんねェ。まだこの国にいるようなんで、俺達も必死で追いかけておりやすよォ」
「そうですか……。父上は相変わらずなのですね。母上の持つ指輪を売り払うだけで、一財産になるはずなのに。まあ、母上が自分の宝石を売る姿は想像出来ませんけど……」
「お屋敷に宝石の類は残されていませんでしたからねェ。随分な資産を持ち逃げしてる筈でさァ。お高い財宝漁りから買った飾り物もお持ちの筈ですしねェ。まァ、続報はそんな所でさァ」
「は、はい。伝えに来てくれて、ありがとうございます。また何かわかったら、教えて下さい」
借金取りの男はひとつ頷いて、からりと扉を開けて帰っていった。
ジュレは涙目であったので、しばし別室で休ませた。




