材木屋の娘
それからしばらく経った頃、見覚えのある集団が来店した。
褐色の肌にフードを被っている30名のお客だ。
これは間違いなく、ジーン率いる商団フォールンであろう。
俺は、また来店してくれた事を嬉しく思った。
その後も俺は餃子を焼き続け、菓子の準備も慌ただしく行った。
忙しないが、とても充実している。
俺は料理に没頭できる時間が好きだった。
それからしばらく経って、リーズヘッグが俺を呼びに来た。
「商団フォールンの団長が挨拶したいそうだ。今、抜けられるか?」
「うん。じゃあ、アイロス、ちょっと抜けるね」
「ああ」
俺はリーズヘッグの案内で、3番テーブルの前に立った。
「お久しぶりですね、ジーン。《竜の跳ね鳥亭》へようこそ。料理のお味は如何でしたか?」
「お久しぶりです、キョウスケ。肉料理、極めて美味でした。そして、香草の料理、食べられました。幸運に感謝したいと思います」
「お口に合ったようで、光栄です。今日は丁度、カレーを出しておりました。喜んで頂けて嬉しいですよ」
ジーンはふわりと微笑んだ。
「キョウスケに教わった4軒の店以外にも、香草の料理を取り扱う店が増えたそうです。《鯨空亭》の店主に教わりました。《エリザベス》、《時計亭》、《天上の花》、《コキュートス》の4軒です。どこも一風変わったカレーを出しておりました」
「へえ、4軒も増えたんですね。是非、食べに行ってみようと思います。教えてくれて、ありがとうございます、ジーン」
「どういたしまして。香草の料理、作ったのはキョウスケであると、聞きました。あなたは素晴らしい料理人です。また寄らせて頂きますね」
「はい、お待ちしています。では、ごゆっくりどうぞ」
俺は一礼して、調理場へ戻った。
そして午後8時半、ファナとアディスが帰還した。
「今日も全て売り切ったわ! すごく清々しい気持ちよ!」
「数十名の団体で来られるお客もいました。ダビとルルイエも言っていましたが、肉料理をせがむ声があちこちから聞こえてきます。そういうお客は《竜の跳ね鳥亭》へご案内しておりますよ」
「そっか。ファナとアディスは、お疲れ様。肉料理は、残念だけど用意できないんだ。これからも《竜の跳ね鳥亭》へ誘導をよろしくね」
二人は頷いて、皿洗いを手伝ってくれた。
閉店まであと少しである。
そして午後9時の鐘が鳴った。
お客がどんどんはけていき、最後の1人まで帰ったら、店に鍵をかける。
「みんな、お疲れ様ーっ!」
プリムの元気の良いかけ声を合図に、俺は晩餐の支度をする。
俺は牛肉を切り分け、ステーキを焼いた。
出来上がった料理を、ジュレが配膳してくれる。
プリムはお茶の準備をしてくれた。
「お待たせしたね。汁物料理は兎肉のカレー、肉料理が牛肉のステーキ、付け合わせがヨグリの和風サラダと、ケリパとデリカのナムル。そして輪切りのフランスパン。菓子は、ペリルのパウンドケーキを準備しているからね。さぁ、召し上がれ」
俺達は突き匙を取り上げ、一斉に食べ始めた。
このところ、夜の日替わりは挽肉の料理が続いたので、しっかりした肉を食べたかったのである。
醤油のごときユーカンのソースも、申し分のない味わいだ。
「ねえ、聞いて良い? アイロスって独身なの?」
「独身だ。恋人もいない」
「そうなんだ? 料理番って高給取りでしょ。言い寄ってくる女も多いでしょ?」
「さてな。俺は無口だし、料理の他に趣味もない、つまらない男だ。女と縁がなくとも、困りはしないな」
「そんなこと言わずに、あたしの友達と会ってみない? アイロスって、ちょっと強面で、あたしの趣味じゃないけど、是非にっていう友達がいるんだよねー」
「……何を生業にしている娘だ?」
「んー、材木屋の娘なんだけどさ。大人しくって、可愛い子だよ。ちょっと気弱な所があるけど、芯はしっかりしてるし、強面の男に怯みもしない。おすすめだよ」
「気は進まんな」
「そう言わずに、いっぺん会ってみてよ! きっと二人は合うと思うんだよね!」
ファナの勢いに、アイロスはしぶしぶ了承した。
「じゃあ、21日の休日に午前11時! 店の前で待ち合わせね! 宜しくね、アイロス!」
「わかった」
話がまとまったようなので、菓子を配膳した。
今日の菓子は、ペリルのパウンドケーキだ。
ペリルはブルーベリーのような果実である。
俺は、美味しいパウンドケーキを頬張り、甘いひとときを楽しむのだった。
翌日、1月9日。
午前6時に集合した4人は、料理に没頭していた。
俺とアイロスは朝食の仕込み、ファナとアディスは、イチゴ大福のごときガル大福の仕込みである。
餅米のごときポッカを煮込むファナと、小豆のごときタペを煮るアディス。
二人の手際に感心しながら、俺も自分の仕事を進めた。
午前8時の鐘が鳴った。
従業員が顔を揃え、着席していく。
ジュレが配膳をしてくれて、プリムはお茶を配ってくれた。
「お待たせしたね。朝食の献立は、イリュームと卵の汁物料理と、イノッサのソースを絡めた兎肉のソテーを挟んだサンドイッチだよ。どうぞ召し上がれ」
俺達は、一斉に食べ始めた。
イリュームとは、コーンのような食材だ。
コーンと卵の中華風スープに、野菜はタマネギのごときカペラ、ナスのごときビトー、キャベツのごときノーマを入れている。
ごま油のごときガシュの油の香りが漂う、美味しい一品だ。
サンドイッチは、トマトのごときイノッサのトマトソースを使っている。
これも過不足のない美味しさだ。
「アイロス、材木屋の娘に昨日の話を伝えたら、すっごく喜んでたよー! 名前はね、リエルっていうの。あたしと同じ20歳ね!」
「わかった。21日は、お前も来るのだろうな?」
「うん! 二人の橋渡しを、しっかり務めるつもりだよー!」
「なら良い。ガッカリされても、俺は知らぬからな」
「人相は伝えてあるし、大丈夫だよ! 気に入ったらそう言ってよね。リエルは、張り切ってたよー!」
「そうか」
アイロスのテンションは低めだが、嫌がっている様子はない。
俺も心の中で応援させて頂いた。
食事が終わり、料理の仕込みを始める。
俺とアイロスは、昼の仕込み。
ファナとアディスは、ナポリタンの仕込みだ。
ファナが野菜を刻み、アディスはケチャップを作る。
俺は肉を切り分けながら、二人の手際を見守った。




