サフア屋の晩餐会
その後は他愛のない雑談を楽しんでいたが、時間が来たようで、小姓に呼ばれた。
俺はみんなと別れて、大きな扉の横の待合室に案内された。
午後5時の鐘が鳴った。
晩餐会の開始である。
しばらくして、小姓に呼ばれて会場内に入った。
丸いテーブルがずらりと並べられており、最前列のカトリーヌのテーブルには、リリアの姿もあった。
カトリーヌは俺の横まで歩いてきて、小姓からマイクのようなもの──拡声器を、受け取った。
「皆さん、ご機嫌よう。サフア屋は昨今、フランスパンに始まってパスタやカレーといった食材で巷を賑わせております。その中心人物が、キョウスケです。それらの3つは、キョウスケが生産者です。そんな素晴らしい《竜の跳ね鳥亭》の料理長、キョウスケに今日はその腕を振るって貰いました。では、心ゆくまで味わいましょう」
カトリーヌが俺に拡声器を渡してくる。
俺は深呼吸をして、挨拶に挑んだ。
「ご紹介に預かりました、《竜の跳ね鳥亭》のキョウスケです。素晴らしい晩餐会に呼んで頂き、心から光栄です。どうか、ごゆっくりお楽しみ下さい」
そして、あちこちの扉が開いて、数十人のメイドが前菜を配っていく。
俺は全員に皿が行き渡ってから、話し始めた。
「前菜は、キノコとタピのアヒージョです。マオマオの油でダッキとチコの実をじっくり炒めて風味付けしました。お気に召せば幸いにございます」
会場内はざわめき、熱気に満ちている。
どうやら、おおむね満足頂けているようだ。
皿が空いた頃に、次は野菜料理が配膳される。
「野菜料理は、野菜のテリーヌです。メイリグ、セルル、兎のハムを出汁のゼリーで固めたものになります」
さて、ゼリー寄せは受け入れられるだろうか。
「あら、面妖ね。四角に固まっていてよ?」
「まあ……でも、とっても美味しいわ」
「うむ。これは美味い!」
良かった。
ゼリー寄せは見た目の清涼感を楽しんで貰えれば幸いである。
そして次は、フワノ料理だ。
「フワノ料理は、ペペロンチーノです。マオマオの油でダッキとチコの実を炒めて、パスタと和えました。簡素な料理ですが、このお味をご賞味下さい」
近くのご婦人達が、声を上げる。
「まあ……具がないのね」
「まあ、素晴らしく美味しくてよ」
「あら、本当ね」
反応はまずまずだ。
ペペロンチーノは簡素だが、その美味しさは折り紙つきである。
それをご理解頂ければ幸いだ。
さて、次の料理である。
「汁物料理は、キノコとテーペのミルクスープです。さっぱりとした味わいをお楽しみ下さい」
どうやら、反応は上々だ。
人々の満足そうな顔を見て、ほっとする。
さて、とうとう肉料理である。
「肉料理は、餃子になります。野菜と兎肉を刻み、サフアの生地で包んで焼いた料理になります。どうぞごゆっくりお楽しみ下さい」
肉料理は迷ったが、餃子にした。
サフアで包むのが、サフア屋の晩餐っぽくて良いだろうと思ったのだ。
「まあ、肉汁が溢れ出て来ますわ」
「これは美味ね。素晴らしいわ」
「うむ。美味しいですな」
餃子の評判は良いようだ。
良かった。
「最後に菓子で締めくくりたいと思います。本日はわらび餅をご用意致しました。透明のわらび餅に、黒蜜をかけました。最後までお楽しみ頂けたら幸いでございます」
さて、わらび餅の反応はというと……。
「あら、本当に透明ね。面妖だわ」
「これ、ぷるぷるしていて、とっても美味しいわ!」
「ううむ。これは美味いぞ!」
わらび餅の反応は最高に良いみたいだ。
俺は安心して、ほっと息をついた。
カトリーヌがまた俺の隣まで歩いてくる。
俺は拡声器を渡して、一歩下がった。
「みなさん、《竜の跳ね鳥亭》のキョウスケの料理は如何だったかしら。この後は席の移動も自由と致します。ごゆっくりご歓談なさってね。では本日の料理番、キョウスケに拍手をお送り下さい!」
俺は拍手を浴びながら、一礼してみせた。
小姓の案内に従って、調理場に戻る。
ホルエン料理長のもとへ行くと、みんな料理を味わっていたようだった。
「先に味見させて貰ったぜ。どれも美味かったが、サフア料理と菓子に愕いたぜ。まさかこんなに美味いとはなぁ」
「そうですか。ペペロンチーノは簡素な料理ですが、とても美味しいので、皆さんにおすすめしたかったんです。菓子は、ちょっと面妖だけど、ぷるぷるしていて、食感も楽しいんです」
「今、お前の分を準備させる。おおい、誰かパスタを茹でてくれ!」
「はい、ホルエン料理長!」
俺は前菜が運ばれて来たので、食べさせて頂いた。
キノコとエビのごときタピのアヒージョは、ニンニクのごときダッキの香りと相まって、とても美味しい。
次に野菜のテリーヌが運ばれて来た。
出汁のゼリーが涼やかで、あっさりとしている。
次にペペロンチーノ、キノコとホウレンソウのごときテーペのミルクスープ、餃子、わらび餅の順に食べていく。
やはりどれも美味しい。
俺にとって餃子はニラがないとはじまらないので、リーズヘッグに頑張って探して貰った。
ニラはルペンというらしい。
「それじゃあな。そろそろ晩餐会もお開きだろう。ほら、小姓が呼びに来たぜ」
「わかった。おーい、アイロス、帰ろうか」
「ああ。有意義な一日だった」
俺とアイロスは調理服を着替えて、玄関に誘われる。
そこには、リーズヘッグとカトリーヌの姿があった。
「おう、お疲れさん。みんな中に乗っているぞ」
「わかった。カトリーヌ、今日はありがとうございました。では、また」
「ええ。またいらしてね。待っているわ。料理は全て美味だったわよ。リリアの御披露目もうまくいったわ。では、またね」
俺とアイロスとリーズヘッグも車に乗り、出発する。
リリアが俺を見て、ぱっと顔を輝かせた。
「あのね、料理が美味しかったの。特に肉料理と、菓子が美味しかった!」
「そっか。口に合ったなら嬉しいよ。そうだ、リリア。今日もお土産を用意してるんだ。店に車が止まったら、少し待っていて貰えるかい?」
「ん。とっても嬉しい。今日は何?」
「今日はスコーンっていう焼き菓子だね。仲間のみんなにも宜しくね」
「ん。新しい菓子、心が躍る。ありがとう、キョウスケ」
リリアと話しているだけで、すごく幸せだ。
俺は心を沸き立たせながら、しばし、おしゃべりを楽しんだのだった。




