サフア屋で調理
時間が過ぎ去り、午後8時半。
ファナとアディスが帰ってきた。
午後も全て売り切ったとのことで、満足げな面持ちである。
二人は速やかに皿洗いを手伝ってくれた。
そして午後9時の鐘が鳴る。
閉店の刻限だ。
お客がどんどんはけていき、最後の1人まで帰ったら、店に鍵をかける。
俺は晩餐の支度を始めた。
俺は兎肉とタマネギのごときカペラを切り分け、醤油のごときユーカンで炒める。
付け合わせの盛り付けと、汁物料理の取り分けは、アイロスの担当だ
出来上がった晩餐をカウンターに並べていく。
配膳はジュレ、お茶の準備はプリムがしてくれた。
「お待たせしたね。汁物料理は、イリュームと卵の中華風スープ。肉料理は、ユーカンを使った炒め物。付け合わせは、イノッサとナッセの中華風サラダと、ヨグリと細かく裂いたテテトをマヨネーズで和えたもの。菓子は、ガルのジャムを添えたスコーンを準備しているよ。さぁ、召し上がれ」
俺達は突き匙を取り上げ、一斉に食べ始めた。
どの料理もとても美味しい。
ゆっくり食事を進めていき、みんなの皿が空いた頃合いで、菓子を配膳した。
「やっぱりスコーンは美味しいなーっ!」
「お、美味しいです。ガルのジャムが合っていますね」
「うむ。美味い」
プリム、ジュレ、リーズヘッグの順に感想を述べてくれた。
「サフアの菓子って色んなのがあるんだね!」
「本当に美味しいですね。これからも楽しみです」
「普通のサフアの菓子は平べったいからな。キョウスケの菓子は一風変わっているが、美味い」
ファナとアディスはそのように感想を述べてくれた。
アイロスの言うことにも一理ある。
プリンも面妖と言われたし、俺は一風変わった菓子を作っている。
しかし、美味しいは正義だ。
俺は自分が美味いと思う菓子を作り続けていく。
俺はそう思うのだった。
翌日、1月2日から6日まで、無難に過ごすことが出来た。
露店は毎日完売で、すごい行列らしい。
そして1月7日、休日である。
ファナとアディスはお休みで、それ以外のプリム、ジュレ、リーズヘッグ、アイロスが顔を揃えている。
午前8時の鐘が鳴り、リリアもやって来た。
リリアはレースのワンピース姿で、大変愛らしい。
「リリア、いらっしゃーい。ここ、あたしの隣に座って!」
「ん。皆さん、お邪魔します。今日は宜しくお願いします」
「今日も可愛いね、リリア。今日は来てくれてありがとう。じゃあ、朝食にしようか」
朝食が並べられ、みんなで一斉に食べ始める。
「リリア。キョウスケは一日調理でほとんど一緒にいないから、一緒におしゃべりしよーね!」
「ん。わかった。キョウスケの料理を楽しみにしてきた」
「6種の料理が出されるから、ご馳走だよ! あ、でも辛い料理はないよねー?」
「うん。辛くない味付けだね」
「いいの。キョウスケの料理が、わたしは好き。菓子も、楽しみ」
「きっと美味しい料理を出すからね。楽しみにしていてね」
プリムとリリアと話をしながら、食事を進めていく。
やがて食べ終えたら、お茶を飲んで支度をする。
午前8時半。
迎えのエミューの車が到着した。
順番にみんなで乗り込み、雑談を楽しむ。
半刻程車に揺られて、サフア屋のお屋敷に到着した。
小姓に案内され、俺とアイロスは調理場。
リーズヘッグ達はカトリーヌの元へ案内されていく。
俺とアイロスは、調理場の隣の小部屋で、調理服に着替えた。
そして調理場に入ると、ホルエン料理長が応対してくれた。
「よく来たな、キョウスケ。今日は美味い料理を期待しているぞ!」
「ホルエン料理長、今日は宜しくお願いします。彼は、アイロス。本日の助手です」
「そうか。では、二手に別れよう。おーい、副料理長。このアイロスと共に野菜料理を頼む」
「わかりました。こちらへどうぞ」
アイロスは向こうの卓で指示をするようだ。
「じゃあ、前菜に取りかかりましょうか。タピは水で戻してありますか?」
「おう。ここにあるぜ」
「では、まずキノコを切ります。手の空いている人は、ダッキとチコの実のみじん切りをお願いします」
そうして俺達は、料理に没頭した。
前菜、野菜料理、フワノ料理、汁物料理、肉料理、菓子。
順番に作っていくうちに、時間が過ぎ去っていく。
昼食はまかないを頂いた。
肉料理の準備が終わり、菓子の作成に入る。
「まず、きな粉を作りましょうか。マオマオの粉を炒って、砂糖を混ぜます」
「わかった」
「次にカタクリの粉と砂糖、水を混ぜて鍋に入れ、弱火で熱し、透明になるまで混ぜ続けます。そして火からおろし、30秒ほど混ぜる。そうしたら水に入れて冷やし、一口大にちぎります」
「よし、次はそれを作ろう」
「150名分を千切るのは、結構大変ですね」
「あっはっは! 量を作るのは俺達に任せておけ! そろそろ時間なんじゃないか?」
「あ、小姓が呼んでますね。後は宜しくお願いします」
「任せておけ。カトリーヌ様に宜しくな」
俺は小姓について、階段を上がった。
そして部屋に着き、ノックをする。
「キョウスケ様をお連れ致しました」
「入って頂戴」
扉が開かれ、俺は部屋の中に進み出る。
カトリーヌの横にリーズヘッグが座っており、向かいのソファにプリム、リリア、ジュレが座っていた。
「どうぞかけて頂戴。久しぶりね、キョウスケ」
「今日はお呼び頂き、ありがとうございました。お久しぶりです、カトリーヌ。晩餐会に呼んで貰えるなんて、光栄です」
「うふふ。キョウスケの料理はとっても評判が良いわ。フランスパンに続いて、パスタ、カレー。たくさんの人があなたを熱望しているの。今日はリリアの御披露目にぴったりよ。あなたを狙う女狐に釘を刺してやりましょう」
「ん。頑張る」
「そ、そうですか。リリアを宜しくお願いします」
「弟に縁談を用意するって言ったこと、覚えているかしら? それでね、今日はお相手の女性のご一家も招待しているの。きっと素敵な晩餐会になるわ」
「そうですか。ご希望の女性が見つかったんですね」
「ご兄弟が5人もおられて、面倒見の良い、素敵な女性よ。優秀で金銭感覚がしっかりしていて、向上心に溢れているの。絵画の含蓄はないけれど、理解はある方よ」
「そりゃあ理想的ですね。良い縁談になることを祈っています」
「弟も彼女を気に入ったみたいなの。この機会を逃さずに婚約までこぎ着けてみせるわ」
カトリーヌは、強い意志のこもった瞳で、そう宣言したのだった。




