心地良い充実感
「じゃあ、頂こうか。ウルドゥを使った汁物料理と、牛肉のサンドイッチだよ。あとは菓子が、スイート・ダイナを用意しているよ」
俺達は皆で一斉に食べ始めた。
サンドイッチは、たっぷり挟まった牛肉とタマネギのごときカペラが、実に美味しそうである。
一口かじると、甘辛い肉とフランスパンが混じり合い、得難い美味しさに溢れている。
汁物料理をすすると、はっきりとした辛さが舌の上に跳ね上がった。
具材を噛みながら、豊かな旨みと辛さを堪能する。
俺にとっては美味いと思える辛さである。
「結構辛く作ったけど、お味はどうだい? プリム、アイロス」
「辛くて美味しいよ! 具材もばっちりだね!」
「辛いが、辛すぎることはない。美味だ」
「そっか。それなら良かったよ。さて、ちょっと早いけど菓子を出すね」
俺は立ち上がり、まず旅芸人の5人に菓子を配膳した。
「お待たせしました。菓子のスイート・ダイナです。ごゆっくりどうぞ」
俺は仲間達にも配膳し、料理の続きを食べた。
食べ終えた後、スイート・ダイナに口を付ける。
ダイナの滑らかな美味しさと乳脂の風味がたまらない一品である。
「この菓子は新作で、ダイナを使ってみたんだ。甘さ控え目に作ったけど、お味はどうかな?」
「すっごく美味しい! ダイナってあんまり食べない野菜だけど、菓子に合うんだね!」
「あ、甘さは十分だと思います。滑らかな舌触りが心地良い菓子ですね」
「焼き菓子にしては重量もあって、満足度も高かろう。美味い」
プリム、ジュレ、リーズヘッグの順に感想を述べてくれた。
「美味いよ。これ、来週の菓子にしようぜ!」
「良い考えね……持ち運びも難しくなさそうだし……どうかしら、キョウスケ……」
「良いよ。じゃあ、来週の菓子はこれにしよう。しっかり作り方を教えるからね」
ダビとルルイエは良い提案をしてくれた。
「美味い。ダイナは肉とイマイチ合わないから不人気なんだが、菓子には合うようだ」
アイロスもそう言ってくれた。
「では、来週から山ほどダイナを仕入れなければならんな。野菜屋に明日言っておく」
頼もしいリーズヘッグが、仕入れを約束してくれた。
そこに、藍色の髪の小柄な少女がやってきた。
「お代を持ってきましたよぉ。汁物料理は辛みがきいていて、美味でしたよぉ。サフア料理も肉がたっぷりで、たまらない美味しさだったさぁ。そして菓子は食べたことのない味だったよぉ。これで青銅貨5枚なんて、大満足さぁ」
リーズヘッグがお代を受け取っているのを見て、俺は話しかけた。
「ご満足頂けたようで、何よりです。辛みの加減は如何でしたか?」
「ああ、もっと辛いと舌が痛くなるからさぁ。辛さは丁度良かったよぉ。明日からも期待させて頂きますよぉ。そぉそぉ、あたしはナターシャって言いますんでねぇ、ひとつ宜しくお願いしますよぉ」
ナターシャは赤いワンピースの裾をひるがえし、4人の大男を連れて帰っていった。
俺達も食事を終えて、おのおのの仕事である。
俺とアイロスは昼の仕込み、ダビとルルイエはナポリタンの仕込みである。
アイロスに付け合わせの作成は任せて、俺は牛肉とタマネギのごときカペラの薄切りをする。
その後はピリ辛の汁物料理を作成し、スイート・ダイナを作る。
忙しなく作業を進めていき、汁物料理のアク取りをする。
俺がスイート・ダイナを焼いていると、午前10時半に、ダビとルルイエが出発していった。
焼いている間に、フランスパンに切り込みを入れ、マヨネーズとマスタードに似た香草、すりおろしニンニクのごときすりおろしダッキを混ぜておいたものを、塗っていく。
この作業はアイロスも手伝ってくれて、効率よく進める事が出来た。
午前11時、開店の刻限である。
並んでいたお客が怒濤のように押し寄せてくる。
プリムが注文を取り、ジュレがお茶を運んでいく。
「1番から6番に1つずつね!」
「あいよ!」
「1番テーブルに4つです!」
「あいよ!」
俺は牛肉とタマネギのごときカペラを掴み取り、鉄鍋に投じる。
火が通ったら果実酒、醬油のごときユーカン、砂糖を入れてたまに混ぜながら煮詰めていく。
汁気がなくなり味が馴染んだら、フランスパンにたっぷり挟み、完成だ。
汁物料理の取り分けと、付け合わせの盛り付けは、アイロスの担当だ。
俺は日替わりをカウンターに並べた。
「1番から6番、上がったよ!」
「は、はい!」
注文は次々に入ってきている。
俺は牛肉とタマネギのごときカペラを掴み取り、鉄鍋に投じる。
木べらで攪拌しながら店内を見回すと、笑顔のお客さんが見える。
「おい、今日のサンドイッチは新作だな?」
「は、はい。そうです。お口に合いましたか?」
「合った。すげえ美味かった。サンドイッチだけ持ち帰りたいんだが、注文は出来たよな?」
「は、はい。大丈夫です。1つ青銅貨1枚と半銭を頂きますが、宜しいですか?」
「おうよ! じゃあ3つ包んでくれ!」
「は、はい。少々お待ちください」
ジュレがカウンターで注文する。
「8番、サンドイッチ3つお持ち帰りです!」
「あいよ!」
その後も持ち帰りの注文が相次いで、肉を焼く手を止められない。
「8番、持ち帰りのサンドイッチ3つ、上がったよ!」
「は、はい!」
「お次は10番から12番の1つずつ、上がったよ!」
「はーい!」
今日も店内は満員御礼、熱い熱気が渦巻いている。
俺は心地良い充実感と共に、肉を焼き続けるのだった。




