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リリアと旅芸人の少女

 それから半刻ほどして、リリア達がやってきた。


「あーっ! リリアもみんなも、いらっしゃい! ようこそ、《竜の跳ね鳥亭》へ! 奥のテーブルにどうぞーっ!」


 リリアとその仲間達はフードをかぶっており、皆パンツスタイルのようだった。

 

「キョウスケ、リリアが来たよっ! 4番テーブル、日替わり4つねーっ!」


「あいよっ!」


 俺は肉を油に投じ入れ、細心の注意を払って、竜田揚げを揚げた。

 

「4番テーブルの4つ、上がったよ!」


「はーいっ!」


 それからしばらくして、プリムの歌が始まった。

 今日の選曲は『僕らの希望』。

 財宝漁りの少年がお宝を引き当てる、景気の良い曲であった。

 俺もプリムの歌に聴き惚れながら、肉を揚げる。

 それは心地良い節回しであった。


 リリアのいる4番テーブルに菓子を出してしばらく経ち、プリムに呼ばれた。

 俺はリリアの仲間に一礼して、にこやかに話しかけた。


「やあ、リリア。会えて嬉しいよ。仲間の皆様も、お久しぶりです」


「今日の料理も、美味だったわぁ……。特に菓子が、夢のように美味だったわねぇ……」


 この方は、紺色の髪をした、長身の女性である。

 間延びした話し方が、どこか色っぽい。


「今日は見事な菓子が食べたくて、夜に出向いてきたんだよね! さすがリリアの婚約者だね。ものすごく美味かったよ」


 元気いっぱいにそう言ったのは、褐色の肌の、緑色の髪の短髪の少女だ。


「あのぅ……カレーも、お肉も美味しかったんですけど……私達、菓子に目がなくって……」


 気弱げに話しかけてきたのは、茶色の髪を左右に三つ編みにした、そばかすの少女だ。


「カレーは至高。それと、ミルフィーユがとても気に入った。また、食べたい」


 前髪を真っ直ぐに切り揃えた、黒髪の少女。

 気の強そうな紫色の瞳を輝かせた、最高に可愛い俺のリリアだ。


「うん。また作るから、楽しみにしておいてくれよ」


「ん。また夜に来る。……わたしも会えて嬉しかった」


「うん、ありがとう。じゃあ俺は戻るね。皆さん、どうぞごゆっくり」


 俺は4人にぺこりと頭を下げてから、調理場に戻った。

 鉄鍋に火を入れ、油を熱していく。

 やがて肉を投じて、揚げていく。

 リリアに会えて、本当に嬉しかった。

 俺は気合いも新たに、力を尽くすのだった。


 午後8時半、ダビとルルイエが帰還した。

 今日もすべて売り切ったとのことである。

 二人はすみやかに皿洗いを手伝ってくれた。


 そしてあと閉店まで4半刻ほどになった時。

 その一団が入ってきた。

 藍色の髪の、小柄な少女が先頭に立ち、その後ろには、天を突くような大男が4人、立ち並んでいた。

 この一団は、全員真っ赤な服を着用していた。

 店内が一気にざわめく。

 彼らはそれ程異様な雰囲気を醸し出しているのである。


「すいませんねぇ、お騒がせしちまって。あたしらは《赤い爪》っていう、チンケな旅芸人ですよぉ。食事を取ったら、退散しますんで、少しだけお邪魔させて貰いますよぉ」


 その一団は奥のテーブルに案内され、すぐにプリムが注文を取ってくる。


「6番テーブルに、日替わりが5つねーっ!」


「あいよ!」


 俺は肉を掴み取り、油に投じる。

 揚がった竜田揚げを盛り付け、カウンターに並べていく。


「6番の5つ、上がったよ!」


「はーいっ!」


 店内は陽気な雰囲気に戻り、皆楽しそうに雑談している。

 あの異様な一団の事は、気にならなくなったらしい。


「7番と12番、日替わり1つずつです!」


「あいよっ!」


 油に肉を投じ入れていく。

 揚がった竜田揚げを盛り付け、日替わりをカウンターに並べていく。


「7番と12番、上がったよ!」


「は、はい!」


 それからしばらくして、午後9時の鐘が鳴った。

 閉店の刻限である。

 お客は酒を飲み、まだ騒いでいたが、少しずつ帰り始める。

 注文も落ち着いたところで、リーズヘッグに呼ばれた。

 あの《赤い爪》という旅芸人が、挨拶をしたいそうだ。

 俺は織布で汗をぬぐってから、旅芸人のいるテーブルに向かった。


「お待たせしました。《竜の跳ね鳥亭》へようこそ。俺が料理長のキョウスケです。今日の料理は如何でしたか?」


「あんたが異国の料理人かい。いやね、このあたりの料理屋は塩辛い料理ばっかりで嫌気が差してたんですよぉ。そしたら、宿でここの料理が話題に上がっていてねぇ。えらい行列で驚いたけど、料理にはもっと驚いたさ! 兄さん、どこの出身だい?」


「俺は日本という国の出身です」


「へーえ、知らない国だ。だけどねぇ、納得いったよぉ。どこでも食べたことのない味わいだったさぁ。特に香草の料理が絶品だったねぇ。それにあの菓子がまたとろけるようなうまさだったよ。あんたを連れ去りたい位さぁ」


 俺はどう答えたものかと口ごもった。


「あたしの軽口なんて、気にしないでいいさぁ。それでね、兄さん。うちはこのでかいのが4人と、背丈の小さいあたしと、5人の旅芸人なんだけどねぇ。あたしらは日中芸をするんで、昼は食べにこれないのさぁ。そこでさぁ、朝食を作って貰えないかと、そうお頼みしたいのさぁ」


 少女はにかっと笑い、更に言いつのった。


「こんな美味い料理があるって知ってるのに、干し肉をかじる気にはなれやしないねぇ。青銅貨なら何枚でも払うよぉ。そんで、出来れば菓子もつけて欲しいんだけど、どうだろうねぇ」


「味付けに希望はありますか? もっと辛い料理がいいとか、使って欲しい食材は、ありませんか?」


「全部おまかせ致しますよぉ。ただ、辛い料理なら、うんと辛くして欲しいですねぇ。あたしらは、東の国の料理も大好きなんでさぁ。そんで、明日っから毎日、祝福祭が終わるまでお世話になりたいんですが、どぉでしょうかねぇ?」


 俺はリーズヘッグを見て、頷いた。


「朝食なら本来青銅貨3枚と半銭だが、菓子をつけるなら、青銅貨5枚だな。そして、午前8時に集合だ。この条件なら、受けてやろう」


「了解だよぉ。ウスノロどもは口が重いんで、あたしが喋り倒してるんだけどさぁ。本当にあんたの料理は美味しいよ、キョウスケ。じゃあ、明日の朝8時にまた来ますよぉ。どうもありがとうねぇ」


 藍色の髪の少女は全員分の会計を支払うと、歌うような足取りで店を出て行った。

 店内のお客は全てはけたようだ。

 店に鍵をかけ、清掃を始める。

 料理も綺麗に売り切り、完売である。

 俺はまかないを作る為、ピーマンのごときファンと、ネギのごときポーロを切り分ける。

 牛肉を薄切りにして、野菜と炒める。

 味付けは、醬油のごときユーカンである。

 アイロスは汁物料理を取り分け、付け合わせを盛り付けてくれている。

 俺は仕上がった肉料理を盛り付けて、カウンターに並べていった。

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