新作の菓子
「6番テーブルの4つと、3番と4番の1つずつ、揚がったよ!」
「は、はいっ」
一段落ついた所で、リーズヘッグに呼ばれた。
「あの団体さんは商団なんだそうだ。挨拶をしたいと言っているが、抜けれるか?」
「うん、少しなら平気さ。アイロス、少し抜けるね」
俺は1番テーブルの前に導かれ、挨拶をした。
「俺は料理長のキョウスケです。皆さん、《竜の跳ね鳥亭》へようこそ。料理のお味は如何でしたか?」
左端に座っていた男性がフードをはねのける。
肌は褐色、髪は金色で、瞳は緑色だ。
俺よりも年上かもしれない。
その男性はにっこり笑った。
「料理、とても美味でした。特に香草の料理、最高でした」
「ありがとうございます。汁物料理のカレーはあちこちの料理屋で売っていますけど、ご存じですか?」
「それは知りませんでした。どこで売っているか、教えて頂くことは出来ますか?」
「良いですよ。《鯨空亭》、《ゲネローペ》、《弁天亭》、《ロッカミレイ》の4つの料理屋になります。毎日カレーを出しているかは、こちらでもわかりかねるのですが……」
「構いません。その4つの料理屋とここを祝福祭の間、回りたいと思います。あなたの親切に、感謝します」
「いえいえ、お越し頂き、ありがとうございました。じゃあ、俺は失礼しますね」
「はい。必ずまた来ます。私は、商団フォールンの団長、ジーンと言います。では、また」
俺はジーンと笑顔でお別れし、調理場へ舞い戻った。
「注文が2件、入っているぞ」
「わかった!」
俺は鉄鍋に火を入れ、温まるのを待つ。
そして温まったら、カツを揚げていく。
サンドイッチを仕上げて、カウンターに並べる。
「10番と12番。それと5番から8番まで、上がったよ!」
「はーいっ!」
気付けば、ジーンの商団がお会計をしていた。
そして、30人が帰っていく。
すると、待っていたお客さんがなだれ込んできた。
プリムが注文を取りに行く。
ジュレが茶を運んでいく。
「1番テーブル4つ、2番テーブル6つ、3番テーブル5つ、4番テーブル2つ、5番テーブル4つ、お願いね!」
「あいよ!」
俺は二つの鉄鍋でカツを揚げ始めた。
お客の多くは酒を注文し、陽気に騒いでいる。
アイロスは次々と汁物料理を取り分け、付け合わせを盛り付ける。
俺はフランスパンにノーマを挟み、揚がったカツを挟み込んで、とんかつソースをかける。
「1番テーブルの4つと、2番テーブルの6つ、上がったよ!」
「はーいっ!」
俺は次々に注文をさばいていったが、客足が止まる事はなかった。
いつも以上の大入りである。
お酒を楽しむお客が多いので、回転率は下がっているはずだが、勢いが衰えない。
俺はカツを揚げ続け、この状況を乗り切るのだった。
午後2時半、ダビとルルイエが帰還した。
今日も全部売り切ったと報告したダビは、少しぐったりしていた。
「今日もパスタが完売したんだけどな。食えなかった酔客が騒いで、衛兵を呼ばれちまったんだ。パスタはサフア屋も売り切れてたし、打つ手なしさ」
「衛兵は酔客の仲裁をして、戻っていったわ……」
「そうか。大変だったね。お疲れ様」
俺がダビとルルイエをねぎらうと、二人は笑って皿洗いを手伝ってくれた。
そして午後3時の鐘が鳴る。
閉店の刻限だ。
お客がどんどんはけていき、最後の一人も帰ったら、休憩時間だ。
「さて、俺とアロイスは昼食の仕込みだね。汁物料理は兎肉のカレー、肉料理は兎肉の竜田揚げだよ。付け合わせは、ノーマの千切りにユーカンのドレッシングをかけて、レィモンを添える。それに輪切りにしたフランスパンと、菓子はミルフィーユだね。今日は、カレーの作り方を覚えてもらおうか」
「わかった」
「まずは野菜を切り分ける。カペラとメイリグとフォンディを一口大に切って、兎肉も一口大に切る。その後、鉄鍋にマオマオの油を敷いて、兎肉を炒める。表面に焼き色がついたら、野菜を投入する。ある程度炒めたら水を加えて、煮込む。アクを取りながら、半刻程じっくりと煮込む」
「わかった」
「その後は、このカレー粉とケイルのすりおろしを入れて、また少し煮込んで完成だ。とりあえず、作ってみてよ」
アイロスはまず、膨大な量の野菜の切り分けから始めた。
俺は竜田揚げの兎肉を切り分けていき、調味料に漬けていく。
片栗粉は以前、作ったことがあったので、粉屋に売り込んで、作って貰った。
新しい粉なので、名付けをさせて貰えた。
片栗粉は、今後カタクリの粉と呼ばれるようになる。
さて、次はミルフィーユのカスタードクリームの作成だ。
卵黄、砂糖を器に入れ、白っぽくなるまで泡立て器で混ぜる。
そこにサフアを加えて、さっと混ぜる。
鍋に牛の乳を入れて火にかけ、鍋肌からフツフツと泡が出てきたら火を消す。
温めた牛乳を一度に入れると卵黄が固まってしまうため、少しずつ加えながら混ぜていく。
バニラのような香りの香草を粉にして、少量加える。
鍋に移して中火にかける。
木べらで絶えず混ぜながらとろみをつけ、なめらかなクリームにする。
「よし、カスタードクリームは完成だ」
俺は器にカスタードクリームを移し入れ、次の工程に進むのだった。
俺はサフア屋から買ったパイシートをめん棒で伸ばし、石窯で4半刻焼き上げる。
一度取り出して、パイシートに天板をのせて上から押さえる。
ふくらみをつぶすことで、平らなパイ生地になるのだ。
天板を乗せたまま、4半刻焼く。
天板を取り外し、砂糖を全体に薄くかけて、4半刻焼き上げる。
砂糖がとけて表面がツヤっとしたら、石窯から取り出す。
そのまま天板ごとおいて冷ましていく。
次の工程だ。
ホイップした生クリームをカスタードクリームの器に2回に分けて加え、よく混ぜ合わせる。
混ぜ終えたら丸口金を付けた絞り袋に入れておく。
ミルフィーユを組み立てていく。
パイ生地を1枚おき、その上にディプロマットクリームを端まで絞る。
半分に切ったイチゴのごときガルを全体に並べる。
その上にさらにディプロマットクリームを絞る。
パイ生地をのせて、上からかるく押さえる。
この作業をもう一度繰り返して二段にする。
横からはみ出たクリームは木べらできれいにならす。
食べやすい大きさに切り、完成だ。




