祝福祭前日
午後2時半、ダビとルルイエが帰ってきた。
「ただいまーっ! 今日も全部売り切ったぜ!」
「菓子が足りなくて……不満を言うお客もいたわ……。それ位、菓子は喜ばれているの……」
「パスタの評判は勿論良いぜ? ただ、菓子は足りなくなっちまうんだよなぁ」
「そうなのかい。お疲れ様。菓子の仕込みはこれ以上増やせないから、お断りするほかないと思うよ」
俺がそう言うと、ダビとルルイエは頷いた。
「俺もわかってんだけどさ。あの菓子は美味いから、食べて欲しいなって思っちまうんだ」
「ダビは優しいものね……。さぁ、皿洗いを手伝いましょう……?」
ルルイエに導かれ、ダビが皿洗いを始める。
俺は注文をさばく為、油にコロッケを投じるのだった。
午後3時の鐘が鳴る。
閉店の刻限だ。
「ありがとうございました!」
お客さんが次々に帰っていき、最後の一人も帰ったら、休憩時間だ。
俺とアイロスは昼食の仕込みである。
「昼食の献立は、ウルドゥを使った汁物料理と、トーテムを使った兎肉の煮物。付け合わせにナッセの酢の物と、フォンディのグラタン。それにフランスパンと、菓子にペリルのパウンドケーキだ。まずはこのスライサーで、ナッセを薄切りにしておくれ」
「スライサー?」
「うん。細工屋で作って貰ったんだよ。見ててね。こうやって刃のところで交差させると、下に薄切りになったナッセが落ちる。やってみて」
アイロスは頷いて、スライサーを持って、ナッセを交差させた。
「これは……随分薄く切れるのだな」
「うん。簡単だろう?」
「わかった。薄切りにした後は、どうする?」
「塩もみをして、水気をしぼる。ワリアの酢、ユーカン、砂糖を加えて和える。それで完成だよ」
「わかった」
俺は分量を告げてから、汁物料理に取り掛かる。
野菜はタマネギのごときカペラ、キャベツのごときノーマ、ナスのごときビトー、ネギのごときポーロを使用する。
切り分けた具材を煮込みながら、兎肉の煮物の野菜を切り分ける。
野菜は、ニンジンのごときメイリグと、ダイコンのごときヨグリを兎肉と一緒に煮込む。
火が通ったら、汁物料理の鍋に豆板醤のごときウルドゥと砂糖と塩を加えて煮る。
肉料理の鍋もトーテムを溶かし入れ、じっくり煮込む。
アイロスの手が空いたようなので、グラタンの作り方を教えていく。
「フォンディの皮を剥いて、輪切りにする。それを牛の乳で煮ていく。煮詰まってきたら塩、黒胡椒を振りかけ、味を整える」
「わかった」
「次は耐熱容器に、ダッキの切り口をこすりつけ、乳脂を塗る。さっき煮詰めた鍋の中身を煮汁ごと入れて表面を平らにする。その上に乾酪を削ったものをかける。石窯を予熱し、4半刻焼いて出来上がりだ」
アイロスは頷いて、切り分けたフォンディを牛の乳で煮ていく。
その間に耐熱容器の準備をするようだ。
この耐熱容器も、細工屋に頼んだ特注品である。
細工屋にはお世話になっている。
いつかご挨拶をしようと思っているのだが、中々機会が訪れない。
俺はパウンドケーキの準備を始めた。
乳脂と砂糖をまず泡立て器で混ぜ合わせ、卵を入れてまた混ぜる。
その後にふるったサフアを少しずつ加えていき、粉っぽさがなくなるまでよく混ぜる。
出来上がった生地に、ブルーベリーのごときペリルを混ぜ合わせる。
これを型に入れ、予熱した石窯で半刻程焼き上げる。
アイロスが石窯を使い終わった後、俺はパウンドケーキの型を鉄板に並べて、焼き始めた。
砂時計をひっくり返し、半刻を計る。
火加減を調節して、汁物料理と、肉料理の鍋の様子を見る。
味を見て調味料を加減し、仕上げていく。
俺はフランスパンを輪切りにする。
さてそろそろかな、という具合でパウンドケーキが焼き上がった。
粗熱を取ってから型から外しておく。
アイロスは付け合わせのナッセの酢の物と、フォンディのグラタンを盛り付けてくれた。
俺は兎肉の煮物を盛りつけ、汁物料理を取り分けた。
輪切りにしたフランスパンを添えて、完成だ。
お茶の準備はプリム、配膳はジュレがやってくれた。
俺とアイロスも着席する。
「お待たせしたね。ウルドゥを使った汁物料理と、トーテムを使った兎肉の煮物。付け合わせにナッセの酢の物と、フォンディのグラタン。それにフランスパンと、菓子にペリルのパウンドケーキだ。さぁ、召し上がれ」
皆で木匙を取り上げ、食べ始める。
「真っ赤な汁物料理だな。……まあ、見た目ほど辛くはないようだ」
リーズヘッグが慎重な感想を述べる。
すると、ジュレがびっくり眼で声を上げた。
「お、美味しいですね。具材と味付けが合っていると思います」
「兎肉の煮物も美味しいよーっ! トーテムって煮物にも合うんだねっ!」
「この乾酪のかかったフォンディも美味いな。酸っぱいナッセもさっぱりして良い」
「わたしも……美味しいわ……。この少し辛い汁物料理が特に好みよ……」
プリム、ダビ、ルルイエの順に感想を述べていく。
「どの料理も美味だ」
アイロスは満足げである。
俺も美味しいと言って貰えて、嬉しかった。
兎肉の煮物のダイコンのごときヨグリは、初めて使ったが、成功したようだ。
柔らかく煮込まれた兎肉と、トーテムの風味に染まったニンジンのごときメイリグと、ダイコンのごときヨグリは、素晴らしく調和していた。
その後、全員の皿が空いた頃に菓子を配った。
「へー、ペリルを練り込んであるんだねっ!」
「うん。お口に合うかな?」
「どれどれ……うん、美味しいよ! ペリルの酸味と甘さがサフアの生地と合ってるみたい!」
プリムが明るい声でそう言った。
「これは、サフアと乳脂と卵と砂糖だな? 配合が見事だ」
アイロスが美味そうに食べている。
俺も美味しく頂きながら、お茶を飲む。
皆満足げに食してくれたので、満足だ。
明日は祝福祭初日である。
どんな騒ぎになるのか、予想もつかないが、きっと楽しい1日になることだろう。
ついでに、リリアに会えるのを楽しみにして、俺は雑談に加わるのだった。




