アイロスの得難さ
食後は、夜の仕込みに従事した。
アイロスはいきいきとパウロをさばき、炙り焼きにしている。
俺はまず、汁物料理から作ることにした。
野菜は、タマネギのごときカペラと、ニンジンのごときメイリグ、キャベツのごときノーマとキノコだ。
具材を切り分けて、鍋に入れ、水を注ぐ。
そこにトマトのごときイノッサをざく切りにしたものを入れて、煮込んでいく。
煮込んでいる間に、ホウレンソウのごときテーペを湯がき、水気を切る。
それを乳脂で炒めていく。
ダビとルルイエもナポリタンの仕込みだ。
ダビは野菜を刻んで、ルルイエはケチャップ作りだ。
蒸し器でパウロを蒸すアイロスは、蒲焼きのタレを作っている。
お互いの邪魔にならないように、配慮しながら作業を進めていく。
しばらく時間が過ぎて、午後4時半にダビとルルイエは出発していった。
ナポリタンを200食とチョコバナナパイを200個である。
単純計算で、パスタが青銅貨600枚、菓子が青銅貨100枚の売り上げである。
ここから材料費や人件費、必要経費を抜かなければならないが、たいしたものであろう。
そして午後5時、開店の刻限である。
並んでいたお客がなだれ込んで来て、アイロスは、早速パウロをタレにくぐらせて、炙り焼きにし始めた。
俺は鉄鍋にガシュの油を引いて、切り分けておいた牛肉とピーマンのごときファン、ナスのごときビトーを投じる。
強火で炒めていき、醤油のごときユーカンを回しかけ、果実酒を振りかける。
木べらで攪拌しながら炒めて、火が通ったら木皿に半人前ずつ盛り付けていく。
注文が雨のように降り注ぐ。
俺は肉料理を盛り付けた後、汁物料理を注ぐ。
後は、輪切りにしたフランスパンを添えて、出来上がりだ。
アイロスのパウロの蒲焼きもしっかり乗っている。
「1番から6番、上がったよ!」
「はーいっ!」
俺はガシュの油を引いて、牛肉とファンと、ビトーを投じる。
アイロスは、ひたすら炙り焼きだ。
しばらくは、戦場のような騒ぎである。
「3番テーブルの菓子が上がったよ!」
「は、はいっ」
本日の菓子は、あんまんだ。
サフアを水で練った生地にこしあんを包み、蒸し器で蒸し上げた一品である。
今日が初の御披露目であるが、今のところ反応は上々である。
「キョウスケ! この菓子を10個売ってくれって言われたんだけど、どう?」
「いいよ。じゃあ、1個半銭を頂くって、伝えてね。いま包むから、待っていてね」
俺は紙袋を取り出して、あんまんを詰めていった。
「お待たせ。これをどうぞ」
「ありがとー!」
プリムは大喜びで走って行ったが、追加のあんまんを作る必要がある。
「アイロス、俺は追加のあんまんを作らなきゃいけない。少しの間、牛肉の炒め物も担当して貰えるかい? いま、見本を焼いてみせるからね」
「わかった」
俺はガシュの油を引き、牛肉とピーマンのごときファン、ナスのごときビトーを投じる。
強火で炒めていき、醤油のごときユーカンを回しかけ、果実酒を振りかける。
木べらで攪拌しながら炒めて、火が通ったら木皿に半人前ずつ盛り付けていく。
「どうだい? 作ってみてくれ」
次にアイロスが同じように作っていく。
俺は汁物料理を注ぎながら、見守った。
やがて出来上がった炒め物を、少し味見する。
「うん、十分だね。それじゃあ少しの間、ここを頼むよ」
「わかった」
俺は大急ぎでサフアを練り、作り置きのこしあんを包んでいった。
出来上がったあんまんを蒸し器に並べて、火にかける。
砂時計で時間を計り、ふかしていく。
時間にして、半刻程だろうか。
俺はかまどに戻り、アイロスと交代した。
「お待たせ。何も困らなかったかい?」
「ああ。問題ない。注文は4件残っている」
「わかった。肉を炒めるよ。アイロスがいて、助かったよ」
アイロスは薄く微笑み、頷くのだった。
午後8時半、ダビとルルイエが帰還した。
今日も全て売り切ったとのことで、清々しい笑顔だ。
「菓子がよく売れるから、最後の方の客には足りなくなっちまうんだよな」
「仕方ないよ……これ以上仕込みは増やせないもん……」
二人はそんな風に言っていた。
俺もそれはどうしようもないので、ルルイエに同意しておいた。
そして午後9時、閉店である。
お客はどんどんはけていき、最後の一人も帰っていった。
店に鍵をかけて、休憩時間だ。
「パウロは3枚余ったね。人数分に切り分けて、晩餐に出そう」
アイロスは頷いて、パウロの身をタレにくぐらせて、炙り焼きにし始めた。
俺は気分を変えて、マオマオの油を熱して、牛肉を投じ入れた。
色が変わってきたら、味噌のごときトーテムを投じ入れ、木べらで攪拌する。
火が通ったら、木皿に盛り付ける。
付け合わせは、ホウレンソウのごときテーペの乳脂焼きと、素揚げにしたジャガイモのごときフォンディに塩を振ったものである。
汁物料理は、イノッサの具沢山スープ。
これに、輪切りにしたフランスパンを添えて、完成だ。
「お待たせ。菓子はあんまんを用意しているからね。さあ、召し上がれ」
皆で突き匙を手に取り、食べ始める。
俺はまず牛肉の味噌焼きを口に入れた。
ふくよかな塩気とトーテムの風味が牛肉の旨みと混ざり合い、実に美味であった。
切り分けられたパウロの蒲焼きも過不足のない味わいだ。
汁物料理をすすりながら、フランスパンを千切って口に放り入れる。
「この肉の味付けってトーテムだっけ? 馴染みがないけど、ほっとする味わいだよな」
「そうね……。すごく美味しいわ……」
ダビとルルイエはそのように言っていた。
「客がパウロだなんて信じられないと騒いでおったぞ。美味いなら良かろうと言ってやった」
「そうだね。お客も不味いパウロしか食べたことないんだろうね。気持ちはわかるなぁ」
リーズヘッグとプリムはパウロの反応を良く聞いていたようだ。
「ぱ、パウロ売りのお子さんが、露店を出すと言っていたようですけれど……」
「ああ、朝の仕入れの時にパウロ売りの男に会ったぞ。パウロの蒲焼きのサフア巻きは、毎日200食、完売してるそうだ。初めはあまり売れないと思って、50食程度しか仕込まなかったらしいが、大売れで驚いたそうだ」
「じゃ、じゃあ、良かったですね。料理帳を買った甲斐がありましたね」
ジュレはあの幼い子達のことを案じていたのだろう。
俺も興味深く聞かせて頂いた。
「アイロスはわけがわからないよね。実は、パウロ売りの男性に頼まれて、パウロの蒲焼きの料理帳を売ったんだ。作るのはお子さんが頑張っていたんだよ。露店を開いてパウロの印象を良くしたいのと、お金稼ぎが目的みたいだ」
「なるほど……パウロ売りにとって、パウロの蒲焼きは見逃せない料理だったんだな」
「そういう事だね。じゃあそろそろ、菓子を出すよ」
俺は席を立ち、蒸し器からあんまんを木皿に盛っていく。
配膳はジュレがしてくれた。
皆であんまんの美味しさを堪能しながら、夜はゆっくり更けていく。
俺はとても充実した日々を送っている。
料理に集中できる今の環境がとても大事だ。
アイロスという後輩も出来たし、ますます楽しそうじゃないかと、俺はそう思うのだった。




