アイロスの奮闘
「俺は料理が好きだ。日雇いじゃなく、料理番として働きたかったが、料理番を募集している店は、なかなかない。昨日の張り紙を見たとき、俺は運命だと思った。俺はこの店の味を守ってみせる」
「そうか。とてもありがたいし、頼もしいよ。わからないことがあったら、何でも聞いてくれ。どうか末永く宜しく頼むよ」
アイロスは頷いて、木皿を掴み取った。
俺も負けてはいられない。
鉄鍋に肉を投じて、焼き始める。
注文は途切れず、次々と日替わりは仕上がっていく。
「6番テーブルの6つ、上がったよ!」
「は、はい!」
今日もお客は大入り、店内は満席だ。
外には行列が出来ている。
俺は肉をひっくり返しながら、アイロスの参戦を心強く思うのだった。
午後2時半、ダビとルルイエが帰還した。
今日も全て売り切ったとのことである。
やりきった顔の二人は洗い物を手伝ってくれた。
午後3時の鐘が鳴り、閉店の刻限である。
お客が次々と帰っていき、最後の一人まで帰ったら、やっと休憩時間である。
「お疲れ様。これで休憩時間だけど、俺達の昼食兼夜の献立の仕込みを始めるよ」
アイロスは頷き、空になった鍋を洗い場に置いた。
「アイロスには、パウロの蒲焼きを習得して欲しい。パウロは、知っているかい?」
「うむ。骨が細かくて食べづらい。俺も食べた料理が不味かったんで、パウロを好んで食べることはないな」
「じゃあ、この料理はどうだろうね。まずはさばき方からいくよ? この千枚通しで頭を貫いて、まな板に縫い付ける。この専用のまな板を使ってね。そして、こうして包丁を入れる」
「ふむ。やってみよう」
アイロスは慎重に千枚通しを突き立て、ゆっくりと包丁を入れた。
「うん、上手だね。そしてこうやって開く。内臓と骨を取り除いて、これ位の切り身にする」
「ふむ。骨も綺麗に取れるんだな」
「うん。そして身を水で綺麗に洗う。ここまで、やってみようか。この桶の分は全部さばいちゃって良いよ」
「わかった」
俺はそのうちに、付け合わせのホウレンソウのごときテーペの乳脂炒めを作ることにした。
まずはたっぷりのお湯でテーペを茹でる。
茹でたテーペは水を切り、乳脂を溶かした鉄鍋に入れる。
炒め終えたら、完成だ。
「料理長。水で洗うところまで完了した」
「じゃあ、次は串を打つよ。この串をこうやって、1枚につき3本打つ。やってみて」
アイロスは頷いて、串を打ち始めた。
5枚程度でコツを掴んだようで、すいすい串を打っていく。
全部出来たら、次の工程だ。
「次は、かまどで炙り焼きにする。まずはお手本を見せるね」
俺は1枚のパウロを、炙り焼きにして見せた。
「少し焼き目がつく位が目安だよ。じゃあ、やってみようか」
アイロスは頷いて、炙り焼きを始めた。
俺はフォンディの皮を剥き、くし切りにしていく。
切り終わったら、鉄鍋にマオマオの油を熱して、素揚げにしていく。
揚がったら、塩を振りかける。
「炙り焼きは全て終わったぞ」
「じゃあ、次はそれを蒸していく。蒸し器に身を並べて、火にかける。蒸し器の経験はあるかな? 時間はこの砂時計で計ってね」
「ああ。わかった」
アイロスが蒸し器に身を並べていき、蓋をして、火を付ける。
火加減も心得ているようで、心強い限りだ。
俺は牛肉を薄切りにしていく。
その後は、ピーマンのごときファンと、ナスのごときビトーを切り分ける。
「パウロを蒸している間に、蒲焼きのタレを作ろう。まず鉄鍋に果実酒を注ぐ。強火で熱して、アルコールを飛ばす。その後、弱火にして砂糖とユーカンを加える。一煮立ちしたら火を止め、冷めたら出来上がりだ」
「わかった。作ってみる」
「うん。宜しく頼むよ」
アイロスは頷いて、出来上がったタレを壺に移し、鉄鍋を洗って戻ってきた。
かまどに火を入れて、果実酒を注ぎ入れる。
火は強火で、申し分ない。
俺はしばらくアイロスを眺めていたが、不備はなかった。
パウロが蒸し上がった。
アイロスは火を消して、俺に向き直った。
「次は身をタレにくぐらせて、もう一度炙り焼きにするよ。見本で1枚焼いて見せるね」
俺はパウロの身をタレにくぐらせて、もう一度炙り焼きにして見せた。
「焼き上がったら、串を外して、この香草の粉を振りかける。これで完成だ」
「わかった。やってみよう」
アイロスは蒸し器からパウロの身を取り出し、タレにくぐらせて、炙り焼きにした。
焼き上がった炙り焼きから串を外し、皿に乗せる。
後はそれを繰り返して貰うだけだ。
俺は鉄鍋にガシュの油を引いて、牛肉とピーマンのごときファンと、ナスのごときビトーを投じる。
強火で炒めていき、醤油のごときユーカンを回しかけ、果実酒を振りかける。
木べらで攪拌しながら炒めて、火が通ったら木皿に半人前ずつ盛り付けていく。
全員分盛り付けが終わり、汁物料理を取り分ける。
配膳はジュレ、茶の用意はプリムがしてくれた。
「じゃあ、お待たせしたね。汁物料理は、イノッサの具沢山スープ、肉料理は、魚料理と半々だ。パウロの蒲焼きと、牛肉の炒め物だよ。フランスパンを添えて、召し上がれ」
皆で木匙を取り上げ、食べ始める。
「今日も美味しいねっ! パウロはとろけるような舌触りで、甘いタレとすっごい合う!」
「ぼ、僕も美味しいです」
「ふん。新入りも頑張っているようだな」
プリム、ジュレ、リーズヘッグが声を上げた。
そして、アイロスは、絞り出すような声で、評価をしてくれた。
「美味い……パウロを焼いて蒸してまた焼くという工程も謎だったが……この舌触りとこの味の為だったのだな……」
「パウロって不味い魚っていう印象だもんな。言われないとこの料理がパウロなんて、気付かないだろうぜ」
「とっても……美味しいわ……」
アイロスに続いて、ダビとルルイエも声を上げた。
皆に美味しいと言って貰えて、感無量の俺であった。




