アイロスの参戦
そして午後9時の鐘が鳴り、閉店の刻限である。
お客はどんどんはけていき、最後の一人も帰っていった。
店に鍵をかけて、俺達は休憩だ。
「今日もお疲れ様ーっ! 料理番が増えてからは、提供も早くなっていたね! これで祝福祭も乗り越えられるよ!」
プリムが明るい声で皆に呼びかける。
すると、リーズヘッグがアイロスに話しかけた。
「ご苦労だったな、アイロス。今夜はあと晩餐を取るだけだから、今日は帰って良い。明日は午前8時に集合だ。朝食を皆で食べるから、お前さんもそのつもりでいてくれ」
「わかった」
「今日は助かったよ、アイロス。明日からも宜しくね」
アイロスは頷いて、リーズヘッグの案内で裏口から帰っていった。
俺は晩餐の仕込みをしつつ、店内を見回す。
プリムとジュレは店内の清掃で、ダビとルルイエは、皿洗いだ。
俺はリーズヘッグに尋ねてみた。
「アイロスに聞きそびれちゃったけど、今の仕事はすぐに辞められるのかな?」
「今は日雇いで、荷運びをしとったそうだ。すぐに辞められる仕事だから、安心せい」
「そっか。なら、いいんだ。明日はパウロの蒲焼きを夜に出したいから、アイロスの存在はありがたいね」
「ふん。お前は料理長として、よく教えてやると良い。明日も忙しいだろうから、すぐに見つかったのは僥倖だったな」
俺は兎肉と野菜を炒めながら、リーズヘッグに笑いかけた。
「アイロスの手際はさすが手慣れたもんだったぞ。明日からが楽しみだな」
「うむ。せいぜいこき使ってやれ」
やがて料理が仕上がり、木皿に盛り付けていく。
汁物料理を取り分けて、カウンターに並べる。
輪切りにしたフランスパンを添えて、完成だ。
配膳はジュレがしてくれた。
「お待たせしたね。さぁ、食べようか」
皆で突き匙を手にして、食べ始める。
兎肉の肉野菜炒めは、醬油のごときユーカンの風味が豊かで、とても美味しい。
汁物料理は、クリームシチューで、優しい飲み口である。
フランスパンを千切って口の中に放り入れる。
皆も満足そうに食べてくれているので、俺も満足だ。
俺はじっくり晩餐を味わい、今日の終わりを締めくくるのであった。
翌日、12月16日。
午前6時から集まったダビとルルイエは、チョコバナナパイを400個仕上げ、順次焼いていた。
俺は朝食の仕込みを頑張った。
今日の献立は、汁物料理がコンソメスープ。
サンドイッチは、レタスのごときイルマと乾酪と、兎肉のソテーを挟んでいる。
付け合わせは、マッシュ・ポテトのごときマッシュ・フォンディと、カボチャのごときエリマを練り込んだクッキーだ。
さて、午前8時の鐘が鳴る。
そして、従業員が集まった。
新入りのアイロスも顔を出し、全員集合である。
配膳はジュレ、お茶はプリムが入れてくれた。
「皆に紹介しておこう。新入りのアイロスだ。料理番として雇った。今日から仲間として宜しく頼む」
「アイロスだ。宜しく頼む」
「あたしはプリムっ! 宜しくねっ!」
「ぼ、僕はジュレ。宜しくお願いします」
「俺はダビ。一緒に頑張ろうぜ!」
「わたしは……ルルイエ」
「俺が店主のリーズヘッグだ」
「俺が料理長のキョウスケだよ。宜しくね。じゃあ、朝食を食べようか」
俺達は一斉に食べ始めた。
「これは、昼の日替わりの内容か?」
アイロスの問いかけに、俺が答える。
「うん。朝食は昼の日替わり、昼食は夜の日替わり、晩餐はまかないを出しているよ」
「わかった。この乾酪の入ったサンドイッチは、俺も気に入っている」
「そうなんだ? 塩気が足りないと思わない?」
「初めて食べた時は、薄味なんだな、と思ったが……食材の味わいが豊かで、妙にクセになる味わいだった。食べ慣れた現在では、美味いと思える」
「そっか。気に入って貰えて光栄だよ。あ、そうだ。リーズヘッグ、1月7日はアイロスも連れて行くよね?」
「ああ、そうだな。カトリーヌに一報入れておかねばならん。アイロス、1月7日は空いとるか。休業日なんだが、サフア屋から晩餐会の料理番の依頼があって、出向かねばならんのだ」
「ほう。では6種の料理を出すのか?」
「そうだ。それに同行して貰えるか?」
「是非もない。予定などないから、俺も連れて行ってくれ」
「決まりだな。キョウスケはその内試作するだろうから、それも手伝ってやってくれ」
「了解した」
その後は穏やかに食事を進めて、食後は皆の自由時間だ。
俺とアイロスは昼の仕込み、ダビとルルイエは、ナポリタンの仕込みだ。
それぞれが邪魔にならないように、配慮しながら動くようにする。
「まずはマッシュ・フォンディと、エリマのクッキーの作り方を覚えて貰おうかな」
「わかった」
「じゃあ、マッシュ・フォンディからね。フォンディの皮を剥いた後、たっぷりのお湯で茹でる。茹で上がったら、すりこぎで潰すんだ」
「わかった」
アイロスは飲み込みが早いので、安心して見ていられる。
フォンディをたっぷりのお湯で茹で上げるアイロスは、心持ち楽しそうに見えたのだった。




