ウルドゥの料理
四角い褐色に焼けた菓子である。
俺達は手掴みで頂くことにした。
パイをかじると、サクサクした生地の食感を伝えてくる。
そして中身のエーファとヨーデルの甘さが絡み合い、えも言われぬ味わいを実現していた。
「こりゃあ、美味えな。ヨーデルの苦みとエーファの甘さがぴったり合ってるよ」
「甘さも……丁度良いみたいね……とっても美味しいわ……」
「俺も美味しいと思ったよ。このサクサクした生地がたまらないよね」
「よぉしっ! 仕込みの続きをやるぞぉっ!」
「頑張りましょうね、ダビ……」
俺達は仕込みの仕事に戻ることにした。
俺は朝食の仕込みである。
今日の献立から、俺は豆板醤のごときウルドゥを使うことにしたのだ。
新しい献立は心躍る。
俺は鼻歌混じりに仕込みを続けるのであった。
午前8時の鐘が鳴り、皆が降りてきた。
俺は汁物料理を取り分けて、カウンターに並べていく。
プリムがお茶の準備をして、ジュレが配膳をする。
リーズヘッグは席に着き、配膳されたサンドイッチを見て、眉を寄せた。
「今日は辛い料理なのか」
「うん。兎肉のチリソース炒めだよ。辛さは抑え気味だから、大丈夫だって」
今日の献立は、味噌のごときトーテムの汁物料理と、豆板醤のごときウルドゥを使った兎肉のチリソース炒めのサンドイッチだ。
付け合わせは、マッシュ・ポテトのごときマッシュ・フォンディと、カボチャのごときエリマを練り込んだクッキーである。
俺も席に着いて、皆と一緒に食べ始める。
まずサンドイッチを手に取った俺は、思い切りかぶりついた。
辛さは、控え目である。
しかし、豆板醤のごときウルドゥの風味と相まって、実に美味であった。
「うん、とても美味しいよ。皆は、どうだった?」
「食べたことない味だけど、美味しいねっ! あたしはもう少し辛くても良いなぁ」
「馬鹿を言え。これ以上辛くては舌が痛くなってしまうわ。……これは美味だが、辛さはこのままにしろ」
「ぼ、僕も初めて食べましたが、美味でした」
リーズヘッグ、プリム、ジュレの順に感想を述べ立てた。
そしてダビがサンドイッチを食べながら、声をかけてくる。
「俺も美味いと思ったよ。これなら人気が出るんじゃねえかなぁ」
「ちょっと辛い料理ってあんまり見かけないから……とっても美味しいわ……」
「へえ。ピリ辛の料理って珍しいんだね。わかった、参考にさせて貰うよ」
ダビとルルイエにも好評を頂けたので、安心してサンドイッチにかぶりつく。
汁物料理をすすり、マッシュ・フォンディを木匙ですくって食べる。
皆の皿が空になった頃、俺はチョコバナナパイを運んできた。
「今日から露店で売り出す、チョコバナナパイだ。味見をどうぞ」
皆は喜んでチョコバナナパイを食べてくれた。
反応は大絶賛だった。
「ううむ、美味い。クレープと味は似ているが、このサクサクした食感がたまらんな」
「ほ、本当に美味しいです。焼いたエーファがとろとろで甘くて、ヨーデルの苦さと調和しています」
リーズヘッグとジュレは興奮気味にそう答えてくれた。
他の皆も恍惚としながら食べてくれたので、俺は満足である。
食事が済んだら、俺とダビとルルイエは、仕込みの続きだ。
ダビは野菜を刻み、ルルイエはイノッサを茹でる。
役割分担がはっきりしていて、動きもスムーズだ。
俺は二人に負けないよう、昼の仕込みを頑張るのだった。
午前10時半、ダビとルルイエが出発していった。
外は行列が出来はじめ、昼の仕込みももう一息だ。
俺は新しい献立が、お客に受け入れられるのかを心配していた。
「お前さんはなぜ不安そうな顔をしとるんだ。あのウルドゥの料理は美味かった。どんと構えておれ」
「ありがとう、リーズヘッグ。気合いを入れるよ」
「ふん。さて、そろそろ開店時間だぞ。仕込みは間に合ったか?」
「うん、ばっちりさ。お客さんが喜んでくれると良いね」
そして、午前11時の鐘が鳴る。
開店の刻限だ。
「いらっしゃいませ、《竜の跳ね鳥亭》へようこそ!」
お客はなだれ込むようにして、店内に入ってきた。
プリムが注文を取り、ジュレが茶を配る。
「1番から6番まで日替わり1つずつ! 1番と2番テーブルは4つずつね!」
「あいよ!」
俺は豆板醤のごときウルドゥに漬けておいた兎肉を掴み取り、6人前を鉄鍋に投じた。
とたんにウルドゥの香りが店内に立ち込める。
「今日は嗅ぎ慣れない匂いだな。新作かい?」
「ああ。ウルドゥという調味料を使ったピリ辛の料理だ。今日から出す新作だぞ」
「そりゃあ楽しみだ! 美味い料理を頼むぜ、兄ちゃん」
「はい。お楽しみ頂ければ幸いです」
俺は焼き上がった兎肉を、乳脂を塗ったフランスパンに挟み込む。
汁物料理を取り分けて、カウンターに並べていく。
「1番から6番、あがったよ!」
俺は次の注文をさばくべく、兎肉を掴み取った。
プリムが次々に注文を読み上げる。
俺はそれを受諾しながら、お客さんの反応を待った。
「1番テーブルの4つ、あがったよ!」
「はーいっ!」
そこでカウンターのお客が、リーズヘッグに話しかけた。
「これは美味いじゃねえか! こんな料理、食ったことねえよ!」
「俺も美味いと思うぜ! 朝から並んだ甲斐があったさ!」
「そうそう! ここの料理は絶品だからな!」
お客は満足そうに笑っていた。
俺は嬉しい気持ちでいっぱいになりながら、兎肉を焼き続けるのだった。




