《ロッカミレイ》のカレー
それから雑談をしていると、しばらくして料理が届いた。
カレーも肉料理も、真っ赤である。
平べったいサフアのみ、クリーム色だ。
「これは辛そうだ」
「ん。とても美味しそう」
俺は木匙を取り上げて、まずはカレーに挑むことにした。
赤唐辛子のごときチコの実がたっぷりかかっている。
木匙ですくってみると、乾酪が顔を出した。
カレーのスープをチコの実と乾酪ごとすくい、口に入れる。
カレーは辛口よりも尚辛く、舌が痛くなるほどだ。
乾酪はチコの実と一体化しており、ひりつく辛さである。
しかし、このカレーは美味であった。
兎肉の旨みがぎゅっと濃縮されている。
そんな印象を受ける。
多分出汁に秘訣があるのだろう。
野菜は基本の3種と、ホウレンソウのごときテーペ、ブロッコリーのごときセルル、ネギのごときポーロが使われていた。
次は肉料理に挑戦である。
サフアの生地に真っ赤な肉を乗せて、くるくる巻いてかじり取る。
まずチコの実の辛さがガツンと来て、出汁の旨みと兎肉の旨みが折り重なって襲ってくる。
随分と辛みの強い料理だ。
俺だったらこうは作らないだろうな、と思うくらいで、異国的な味わいだ。
「……随分辛みが強いけど、平気?」
「わたしでも辛いと思う。でも、美味しい。特にカレーが美味」
「そうだね。カレーは俺も美味しいと思ったよ。肉の旨みが濃縮されているよね」
「うん。全部食べられそう?」
「うん。俺にとっては随分辛いけど、ぎりぎり許容範囲だね」
「ふふ。これが食べられるなら、東の国でも生きていける」
「そっか。東の国って、言葉が違うんじゃないのかい?」
「言葉が違うのは一部の民なの。だいたいは通じるわ」
「へえ、そうなんだね」
俺は料理をなんとか完食した。
リリアは俺より早く、全て食べ終えていた。
すると給仕が、菓子を持ってきた。
真っ白いマシュマロのような菓子である。
口に入れると、くしゅっと潰れて、優しい甘さが口に広がった。
察するに、メレンゲクッキーのようなものなのだろう。
「菓子は辛くなくて、ほっとしたよ」
「うん。美味しかったね」
刺激的な味わいの後には、素朴な味わいの菓子が合うのかもしれない。
それに、リリアがここまで辛みを得意にしているなんて、新発見だ。
リリアに振る舞いたい料理が増えていく。
まず、辛口カレーは必要だ。
あと、肉料理も辛みを強める必要があるだろう。
あとは、サフア料理も辛みの強いパスタにしよう。
うん、あとは前菜と野菜料理だから、この位で良いだろう。
菓子はちょっと考え所だな。
「リリアに料理を振る舞う日が楽しみだよ。きっと美味しい料理を作るからね」
「うん!」
俺達は店を出て、帰路に着いた。
「カレーはどっちの店も美味しかったね。リリアの好みは、《ロッカミレイ》かな?」
「うーん……食べ比べをした経験で言うと、《鯨空亭》が一番だった。《ロッカミレイ》は、チコの実を入れすぎ」
「なるほどね。俺はね、自分で作った辛口カレーが一番かな、と思うよ。でも、どの店も美味しかったね」
「ん。カレーは至高」
夜道をてくてく歩きながら、夜空を見上げる。
空に月が出ていて、俺達を照らしている。
俺達はぽつりぽつりと会話をしながら歩いて行き、4半刻ほどで、《竜の跳ね鳥亭》に到着した。
俺は速やかにお土産を取ってきた。
「はい、これがお土産ね。ペリルのパウンドケーキだよ。2本入っているから、適当な大きさに切り分けてね」
「ありがとう。とっても嬉しい」
「リリア……目を閉じてくれるかい?」
するとリリアは、目を閉じてくれた。
俺はそっと屈んで、リリアの唇に口づけした。
俺が離れると、リリアは俺を見上げてきた。
胸が痛いほど沸き立っている。
リリアは可憐で、可愛かった。
「今日も楽しかった。じゃあまた……18日に」
「うん、またね」
俺はリリアに手を振り、ゆっくりと自分の部屋へ戻った。
翌日、12月15日のことである。
午前6時に集まったダビとルルイエに、新しい菓子の作り方を伝授する。
「ルルイエはエーファを、輪切りにして。ダビは、ヨーデルの焙煎だ。焙煎後に乳脂と砂糖と牛の乳を合わせて練り上げるのは、前と同じだ」
「おう!」
「準備が出来たら次に行くぞ。これがパイ生地だ。これをめん棒で伸ばして、薄く広げる」
「おう! ルルイエは具材を乗っける係な」
「わかったわ……」
「生地を四角くこれ位の大きさに切り分けて、輪切りにしたエーファを、適量並べる。その上にヨーデルの煮汁を適量垂らす」
「よし、生地をどんどん作っていくからな!」
「具材を乗っけていくわね……」
「ある程度出来たら同じ四角い生地で蓋をする。これに卵液を塗って焼き上げれば、チョコバナナパイの完成だ。サフア屋の売っている菓子と似ているが、中身が違うからね」
「よし、焼くぜ! それにしても、一個が小さいよな」
「サフア屋は1個青銅貨1枚だからね……。ウチは半銭だから、小さく作ってるのよ……」
「なるほどな。じゃあ、焼いてる間に次のチョコバナナパイを仕込むぞっ! 俺はヨーデルの焙煎だ!」
「わたしはエーファを、輪切りにしていくわ……」
それから半刻ほどで、チョコバナナパイが焼き上がった。
次の生地を石窯に入れてから、粗熱を取ったチョコバナナパイを皿に乗っける。
「次の仕込みの前に、味見をしようか」
「おう! どんな出来映えなのか、気になるぜ!」
「美味しそうな香り……」
俺達はカウンターに座って、皿に向き合った。




