表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/82

《ロッカミレイ》のカレー

 それから雑談をしていると、しばらくして料理が届いた。

 カレーも肉料理も、真っ赤である。

 平べったいサフアのみ、クリーム色だ。


「これは辛そうだ」


「ん。とても美味しそう」


 俺は木匙を取り上げて、まずはカレーに挑むことにした。

 赤唐辛子のごときチコの実がたっぷりかかっている。

 木匙ですくってみると、乾酪が顔を出した。

 カレーのスープをチコの実と乾酪ごとすくい、口に入れる。

 カレーは辛口よりも尚辛く、舌が痛くなるほどだ。

 乾酪はチコの実と一体化しており、ひりつく辛さである。

 しかし、このカレーは美味であった。

 兎肉の旨みがぎゅっと濃縮されている。

 そんな印象を受ける。

 多分出汁に秘訣があるのだろう。

 野菜は基本の3種と、ホウレンソウのごときテーペ、ブロッコリーのごときセルル、ネギのごときポーロが使われていた。


 次は肉料理に挑戦である。

 サフアの生地に真っ赤な肉を乗せて、くるくる巻いてかじり取る。

 まずチコの実の辛さがガツンと来て、出汁の旨みと兎肉の旨みが折り重なって襲ってくる。

 随分と辛みの強い料理だ。

 俺だったらこうは作らないだろうな、と思うくらいで、異国的な味わいだ。


「……随分辛みが強いけど、平気?」


「わたしでも辛いと思う。でも、美味しい。特にカレーが美味」


「そうだね。カレーは俺も美味しいと思ったよ。肉の旨みが濃縮されているよね」


「うん。全部食べられそう?」


「うん。俺にとっては随分辛いけど、ぎりぎり許容範囲だね」


「ふふ。これが食べられるなら、東の国でも生きていける」


「そっか。東の国って、言葉が違うんじゃないのかい?」


「言葉が違うのは一部の民なの。だいたいは通じるわ」


「へえ、そうなんだね」


 俺は料理をなんとか完食した。

 リリアは俺より早く、全て食べ終えていた。

 すると給仕が、菓子を持ってきた。

 真っ白いマシュマロのような菓子である。

 口に入れると、くしゅっと潰れて、優しい甘さが口に広がった。

 察するに、メレンゲクッキーのようなものなのだろう。

 

「菓子は辛くなくて、ほっとしたよ」


「うん。美味しかったね」


 刺激的な味わいの後には、素朴な味わいの菓子が合うのかもしれない。

 それに、リリアがここまで辛みを得意にしているなんて、新発見だ。

 リリアに振る舞いたい料理が増えていく。

 まず、辛口カレーは必要だ。

 あと、肉料理も辛みを強める必要があるだろう。

 あとは、サフア料理も辛みの強いパスタにしよう。

 うん、あとは前菜と野菜料理だから、この位で良いだろう。

 菓子はちょっと考え所だな。


「リリアに料理を振る舞う日が楽しみだよ。きっと美味しい料理を作るからね」


「うん!」


 俺達は店を出て、帰路に着いた。

 

「カレーはどっちの店も美味しかったね。リリアの好みは、《ロッカミレイ》かな?」


「うーん……食べ比べをした経験で言うと、《鯨空亭》が一番だった。《ロッカミレイ》は、チコの実を入れすぎ」


「なるほどね。俺はね、自分で作った辛口カレーが一番かな、と思うよ。でも、どの店も美味しかったね」


「ん。カレーは至高」


 夜道をてくてく歩きながら、夜空を見上げる。

 空に月が出ていて、俺達を照らしている。

 俺達はぽつりぽつりと会話をしながら歩いて行き、4半刻ほどで、《竜の跳ね鳥亭》に到着した。

 俺は速やかにお土産を取ってきた。


「はい、これがお土産ね。ペリルのパウンドケーキだよ。2本入っているから、適当な大きさに切り分けてね」


「ありがとう。とっても嬉しい」


「リリア……目を閉じてくれるかい?」


 するとリリアは、目を閉じてくれた。

 俺はそっと屈んで、リリアの唇に口づけした。

 俺が離れると、リリアは俺を見上げてきた。

 胸が痛いほど沸き立っている。

 リリアは可憐で、可愛かった。


「今日も楽しかった。じゃあまた……18日に」


「うん、またね」


 俺はリリアに手を振り、ゆっくりと自分の部屋へ戻った。





 翌日、12月15日のことである。

 午前6時に集まったダビとルルイエに、新しい菓子の作り方を伝授する。


「ルルイエはエーファを、輪切りにして。ダビは、ヨーデルの焙煎だ。焙煎後に乳脂と砂糖と牛の乳を合わせて練り上げるのは、前と同じだ」


「おう!」


「準備が出来たら次に行くぞ。これがパイ生地だ。これをめん棒で伸ばして、薄く広げる」


「おう! ルルイエは具材を乗っける係な」


「わかったわ……」


「生地を四角くこれ位の大きさに切り分けて、輪切りにしたエーファを、適量並べる。その上にヨーデルの煮汁を適量垂らす」


「よし、生地をどんどん作っていくからな!」


「具材を乗っけていくわね……」


「ある程度出来たら同じ四角い生地で蓋をする。これに卵液を塗って焼き上げれば、チョコバナナパイの完成だ。サフア屋の売っている菓子と似ているが、中身が違うからね」


「よし、焼くぜ! それにしても、一個が小さいよな」


「サフア屋は1個青銅貨1枚だからね……。ウチは半銭だから、小さく作ってるのよ……」


「なるほどな。じゃあ、焼いてる間に次のチョコバナナパイを仕込むぞっ! 俺はヨーデルの焙煎だ!」


「わたしはエーファを、輪切りにしていくわ……」


 それから半刻ほどで、チョコバナナパイが焼き上がった。

 次の生地を石窯に入れてから、粗熱を取ったチョコバナナパイを皿に乗っける。


「次の仕込みの前に、味見をしようか」


「おう! どんな出来映えなのか、気になるぜ!」


「美味しそうな香り……」


 俺達はカウンターに座って、皿に向き合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ