幸福な未来予想図
見た目はマドレーヌのような焼き菓子である。
マドレーヌと違うのは、とても丸っこい形をしていること。
まるで、卵のような形状だ。
俺はそれを2つに割ってみた。
中央に、とろりとした餡が封入されている。
俺は片方を口に放り入れた。
途端に、クルミのごときカテラッセの風味が口内に広がった。
蜂蜜のような蜜と甘い香りの香草が使われているようだ。
とても甘くて、美味しい菓子だ。
俺はもう片方も口に放り入れ、じっくり味わった。
「美味しい菓子だね。確かに持ち帰りで買っていくのに良さそうな菓子だ」
「でしょ? 探索に持っていく事もあるのよ」
リリアはとっくに食べ終えており、瞳を強く輝かせていた。
「そうだ、リリア。相談があるんだけど、1月7日は空いてるかな?」
「うん、空いてる」
「その日に俺は、サフア屋の依頼で晩餐会の料理番を務めることになったんだ。その席に、俺の恋人として、招待させてくれないか?」
「晩餐会に……わたしを?」
「俺は料理番だから、食事の時に隣にはいれない。だけど行き帰りは一緒だし……帰りはエミューの車で送り届けて貰うからさ。なにより俺が、リリアを見せびらかしたいんだ」
「……いいよ。行く」
「来てくれるかい?」
「……きっと綺麗な女性がいっぱいいるんだろうね」
「うーん……俺を取り込みたい一派がいるって聞いちゃったんだよ。だから余計、恋人がいることを表明しておきたいんだ」
「……負けない。キョウスケに近づこうとする女性なんて、許せない」
「まあ、俺の作る料理を食べて貰える絶好の機会だしな」
「うん、でも……家にも招いてくれるんだよね?」
「ああ、勿論さ。リリアの気持ちが固まったら、休業日に6種の料理でおもてなしするよ」
「そしたら……」
「うん?」
「そしたら……キョウスケの彼女だった人より、キョウスケに近づける?」
「……うん。それは、絶対だ」
「楽しみにしててくれる?」
「当然だろう。俺はね、リリアを……お嫁さんにしたいくらい、大好きなんだ」
「えへへ……それって、婚姻の約束?」
「うん。リリアさえ良ければ、俺達婚約しよう」
「婚約する! これでキョウスケはわたしのもの」
「俺ははじめからリリアのものだよ。でも、すごく嬉しいよ。これからずっと一緒にいようね」
「うん!」
その後は店を出て、広場を目指した。
離れがたい気持ちだったし、まだまだリリアと話し足りないと思ったからだ。
俺達は広場で様々な事を話した。
やっぱり、虹色の羽を見つけるまでは、婚姻出来ないという気持ちらしい。
その分たまにお泊まりしたいというのが、リリアの希望だ。
俺はリリアが愛おしくてたまらなかった。
俺はその分、リリアに優しくしようと、決意した。
俺はリリアが大好きだ。
虹色の羽が見つからずとも、婚姻したいくらいである。
意外なことに、リリアは俺の嫁になったら、《竜の跳ね鳥亭》で働くつもりであるそうなのだ。
リリアは剣士の先生とかになりそうだ。
そう言ったら、今でも似たような事はしている、と返事が返ってきた。
リリアも通ったような、町の有志が教える、剣の教室。
そこに、一ヶ月に一度、教師として招かれているそうだ。
リリアは小柄だし女性なので、女性の生徒に喜ばれているそうだ。
「……子を孕むまでは、教師を続けてもよさそう。すごいね。わたしが母親になるなんて、夢みたい」
「うん。実現できるように、お互い頑張ろうね」
幸せな未来予想図を話し合うのは、とんでもなく幸せであった。
俺は、本気でリリアを嫁に欲しかった。
子供を作って、リリアと暮らす。
それだけで、目眩がするほど幸せだ。
気付けば暗くなってきたので、《ロッカミレイ》へと向かう。
リリアは上機嫌で、俺の横を歩いていた。
「ここが、《ロッカミレイ》。ここは辛い料理を出すお店。注意して食べるべき」
「了解。どんな料理なのか、楽しみだね」
俺達は店に入り、女性の給仕にテーブル席に案内された。
献立を見たリリアが、笑顔で言いつのってくる。
「カレーと、何か肉料理よね。わたしとおなじもので良い?」
「うん。お任せするよ」
「すいませーん! 兎肉のリョーチン炒めと、カレーを2つずつお願いします」
「かしこまりました」
給仕がお茶を持ってきた。
これは、リーネのお茶だ。
「ねえ、次に会えるのは、18日でしょ。その次は晩餐会になるのかな?」
「そうだね。リリアにも予定があるだろうから、それ以降は決めないでおこうか。最低でも月に一度は会いたいな」
「うん。わたしもお店に寄るようにするから」
「わかった。腕によりをかけて、料理を作るよ」
リリアは、とても嬉しそうに微笑んだ。




