《弁天亭》のカレー
翌日の12月10日から12月13日は、トラブルもなく、お客も大入りで過ぎ去っていった。
ただ一点、サフア屋から、料理番の依頼が来た。
日付は、1月7日の休業日である。
その晩餐会に、リリアを参席させて欲しいと俺は願った。
それは無事に受け入れられたので、後はリリアの都合だけだ。
そして本日は12月14日の休業日。
リリアとの逢い引きの日である。
俺は朝からリリアに渡す為のお土産を作っていた。
あとは帰る前に渡すだけである。
午前11時の鐘が鳴って少ししてから、からりと扉が開いて、リリアが入ってきた。
リリアは相変わらず意思の強そうな紫の瞳を輝かせていた。
今日の装いは、白いシャツに、朱色の巻きスカートである。
「お待たせ。今日もカレーを食べに行くのよね?」
「うん、そのつもりだよ。まずは《弁天亭》に向かおうか」
「うん。まずは左に歩いて行って。二つ目の角を右に曲がる」
「うん、了解したよ。リリアは道に詳しくて頼りになるね」
「このへんは随分歩いたから」
「そっか。俺もたくさん歩けば覚えられるかな」
「わたしがいる。だから、焦らなくて良い」
「そうだね。ありがとう、リリア」
俺の彼女は優しいなぁと思いながら、右に曲がる。
「今日の装いも可愛いね。すごく似合っているよ」
「ん。出来るだけお洒落してきた」
本当に、リリアが可愛い。
ぎゅっと抱きしめてしまいたいくらいだ。
それからしばらく歩いて、リリアは立ち止まった。
「到着。ここが、《弁天亭》」
そのお店は、小さめな料理店だった。
二人で入ると、男性の給仕がテーブル席に案内してくれた。
「うちは日替わりのみだよ。それでいいかい?」
「あの、カレーは食べられますか?」
「ああ、汁物料理がそのサフア屋から買ったカレーさ。うちの人気料理だから、期待してくれていいぜ」
「わかりました。では、日替わりを2つお願いします」
お茶が配膳されたので、口をつける。
うちの店でも出している、ワナの茶だ。
「リリアは、ここ最近どうしてた?」
「ごめんなさい。先週はお店に食べに行けなかった」
「いや、いいんだよ。店には時間のあるときに来てくれれば十分さ」
「少し希少な素材が取れたから、競売にかけていたの。その受け渡しが忙しかっただけ。来週はきっと行くから!」
「無理はしなくていいけど、祝福祭がもうすぐ始まるだろう? そんな時にリリアに会えたら嬉しいなって、思ったんだよね。勿論いつ会えても嬉しいことに変わりはないんだけどね」
「……絶対に行く。財宝漁りは3日おきに休みを入れているの。多分、18日に行く」
「そっか。期待して待っているね」
そこで、料理が届いた。
カレーと、肉野菜炒めと、平べったいサフアである。
「どうぞごゆっくり」
給仕の男性はそう言って、下がっていった。
俺達は木匙を取り上げて、カレーを賞味した。
カレーは中辛程度の辛さで、キノコがたくさん入っている。
ほとんど基本の味そのままだったので、美味しく頂くことが出来た。
リリアを見習って、平べったいサフアを手に取り、肉野菜炒めを乗っける。
そしてくるくる巻いて、齧り付く。
お味の方は、はっきりと塩辛かった。
巷で流行している塩辛い味付けである。
俺はお茶を飲みながら、ようよう完食した。
「肉野菜炒めのほうは、塩辛かったね」
「うん。こういう味の店は、とても多い。流行している。でも、カレーは美味しかった」
「うん。カレーは美味しかったね」
俺達は少し雑談してから、店を出た。
「じゃあ、次は菓子を食べに行く。右にまっすぐ進んで。そうだ、お土産に貰った菓子が凄く美味しかった。仲間も感動してた」
「うん、菓子は楽しみだ。お土産はケイルパイだったね。喜んで貰えて嬉しいよ」
「今日もお土産を用意してくれたの?」
「うん。帰りに渡す予定だよ」
「ありがとう。仲間も、少し期待していたの」
リリアは上機嫌に俺の前を歩いた。
まっすぐに切り揃えられた前髪と、背中まである黒い髪。
挑むような眼差しのリリアが、俺は好きだった。
「あ、ここだよ。《黒子亭》っていうお店だね」
そのお店は、そこそこ大きいお店だった。
「あっちの入り口は、持ち帰り用なの。さあ、行きましょう」
店に入ると、女性の給仕がテーブル席に案内してくれた。
「献立は私のおすすめで良い?」
「うん。どんな菓子か、楽しみだ」
「すいませーん! カテラッセの卵を2つと、お茶を2つお願いします」
「かしこまりました」
給仕が下がった後、すぐに菓子とお茶が届けられた。




