パウロ売りの決意
翌日の、12月9日の事である。
今日も今日とて、元気に営業中だ。
店の前には常に行列が出来ており、お客は期待に満ちている。
今日の昼営業の献立は、汁物料理はコンソメスープで、サンドイッチには、レタスのごときイルマと、唐揚げを挟みこんでいる。
付け合わせは、マッシュ・ポテトのごときマッシュ・フォンディと、カボチャのごときエリマを練り込んだクッキーだ。
ダビとルルイエは、10時半に、ナポリタンとイチゴ大福のごときガル大福を200食ずつ持って、出発していった。
日を追うごとに作業もこなれていくようである。
二人は、今日も完売を目指すと言って、意欲に燃えていた。
俺はひっきりなしに唐揚げを揚げ続け、サンドイッチを作り続けた。
ちなみに、昨日ジュレが言っていた調味料は、調味料屋で見当がついたようである。
ただ在庫は切らしているので、入荷待ちと言われている。
もう一つの捜し物、赤い発酵調味料は、在庫があった。
名前は、ウルドゥというらしい。
味見をしてみたが、豆板醤そっくりである。
これでチリソースが簡単に作れる。
俺は胸が沸き立つのを堪える事が出来なかった。
午後2時半、ダビとルルイエが帰ってきた。
今日はパスタは完売して、菓子は2つ残ったとのことである。
その2つは夜に持ち越して貰って、ダビとルルイエはいつものように、皿洗いを手伝ってくれた。
そして午後3時の鐘が鳴り、閉店の時刻である。
お客がはけたので、休憩だ。
俺は昼食の仕込みを始めることにした。
しばらくして、からりと扉が開いて、男性が二人、入ってきた。
リーズヘッグが飛んできて、相対してくれる。
「なんだ、調味料屋とパウロ売りじゃないか。どうしたんだ?」
「俺は調味料が入荷したから持ってきてやったんだよ。パウロ売りとはそこで行き会ってね」
「おう。俺は後でいいよ」
「あの調味料が入荷したのか。そりゃあ是非とも買わせて欲しい」
「荷車で在庫は全部持ってきた。まずは、吟味してくれ。そら、こいつだよ」
俺はリーズヘッグに渡された調味料を味見してみることにした。
色は茶色くて、ペースト状の食材が木箱にたっぷり入っている。
木匙で少しすくって、舐めてみる。
すると、たちまち味噌のような塩気と豆の風味、若干の香ばしさが舌の上に広がった。
「リーズヘッグ。俺が欲しかったのはこれだ。出来れば多めに買ってくれると嬉しいよ」
「ふん。在庫はいくつある?」
「この箱で30箱だね。こいつは半年もつって話だよ」
「全て貰おう。倉庫に運び込むんで、パウロ売りはもう少し待っていてくれ」
「構わねえよ。ゆっくりやってくれ」
俺は味噌の箱を棚にしまいながら、調味料売りに質問した。
「あの、これは何と呼ばれているのですか?」
「こいつは、トーテムと呼ばれてるよ。しょっぱすぎて売れないから仕入れを渋ってたんだけどねぇ。兄さんはこれで美味い料理が作れるのかい?」
「簡単な汁物料理で使ってみますから、良かったら試食していってください。俺達はこれから昼食なので、仕上げちゃいますね」
丁度汁物料理の味付けをするところだったので、味噌のごときトーテムを溶かし入れた。
味見をしてみるが、具だくさんの味噌汁そのままの味である。
鰻のごときパウロも蒸し上がったので、タレにくぐらせて、炙り焼きにする。
後は、牛肉を薄切りにして、焼肉を作れば完成だ。
付け合わせは、ニンジンのごときメイリグと、ブロッコリーのごときセルルとキノコだ。
それに輪切りにしたフランスパンを添えれば、完成だ。
「お待ちどおさまでした。全員分用意したんで、良かったら感想をお願い致します。今日から新しく出す献立で、トーテムの汁物料理と、パウロの蒲焼きと牛肉の焼肉になります」
調味料屋は、興味深そうに木匙を手に取った。
汁物料理をすすり込み、目を見開く。
「こりゃあ……美味だね。これは簡単に作れるのかい?」
「はい。適量を溶かし込むだけで作れますよ。この調味料は、定期的に買わせて頂きたいですね。焼き物や煮物にも合いますし、作り方を間違えなければ、人気が出ると思いますよ」
「ふむ……今までは調味料を入れすぎだったんだねぇ。わかった、売り方を工夫してみるよ。祝福祭ではウチも露店を出してるんだ。それをトーテムの汁物料理にすりゃあ、いいわけだね」
すると、黙っていたパウロ売りの男性が、声を上げた。
「この、柔らかくて美味い料理が、本当にパウロなのかい? 骨も見当たらないようだし、信じられないよ」
「パウロは、さばき方も調理方法も一工夫しているんです。骨ははじめに取り除いて、串を打って炙り焼きにします。その後じっくり蒸してから、タレにくぐらせて、炙り焼きにしました」
「ひええ……色々やらなきゃいけないんだねぇ」
「パウロ売りは何か相談があったんじゃないのかい? 表に子供らを待たせてるだろう」
調味料屋の言葉に、パウロ売りが意を決したように、話し出した。
「俺は……パウロの露店を開きたいんだ。ただ、料理が思いつかなくってさ。良ければこの料理をサフア巻きにして売りに出したいんだが、どうだろう?」
「料理帳は安くはないぞ。それを買おうと言うのだな?」
「ああ。ただ、かみさんに3人目の子供ができちまってさ。色々と入り用だから、月に銀貨1枚の返済で勘弁して欲しいんだ。リーズヘッグ、頼むよ」
「料理帳は銀貨30枚だ。正式な証文を交わす気があるなら、構わんぞ」
「ありがとう、リーズヘッグ! それでさ、調理は息子達にやらせようと思うんだけど、良いかな? 13歳と10歳なんだが、読み書きと計算は出来るよ」
「調理はこちらでお教えできます。どうぞ入って貰ってください」
「ありがとうな。おおい、入ってこい!」
「お邪魔しまーす」
「おじゃまします」
入ってきたのは、まだ幼い少年達であった。
元気が有り余ってそうな、2人の少年である。
「センシ、あのお兄さんに調理を教えて貰えるからな。一度で覚えられるように頑張れよ」
「わかった」
「ルークは座って見ていろ。わかったな?」
「うん。とうさん」
それから、パウロの蒲焼きの作り方講座が始まった。




