パウロの調理
その翌日──12月8日の事である。
朝食を済ませた俺とダビとルルイエは、料理の仕込みに没頭していた。
イチゴ大福のごときガル大福の作り方は早朝に伝授し、既に400個が完成している。
味見用に6個多めに作って貰い、朝食で食べたが、実に美味しいガル大福であった。
ダビとルルイエも気に入った様子だったので、一安心といったところだろう。
今日のパスタは、ミートソースだが、野菜も速やかに刻み終えているし、ルルイエもイノッサを茹でるのはお手の物だ。
ダビの手際が特に見事なので、安心して任せられる。
「パスタは、3種類売ってみたけど、どれも満遍なく人気がある感じだな!」
「そうね……毎日来る常連客も……結構いたように思うわ……。後は菓子を何個も買っていくお客もちらほらいたわね……」
「菓子は、美味いからいっぱい食いたい気持ちはわかるよ。今日こそ、菓子も売り切りてぇよなぁ」
「まずは、パスタを売り切りましょう……。お客に菓子をすすめるのは、わたしに任せておいて……」
ダビとルルイエはやる気に満ちているようで、淀みない動きでパスタを仕込んでいく。
俺も昼の仕込みをしながら、熱いディスカッションを聞いていた。
やがて、午前10時半に、パスタと菓子を200食ずつ持って、ダビとルルイエは、出発していった。
「やれやれ。露店を開くだけで大変な騒ぎだ。こんな大変な時に持ち出す話じゃないことは、重々わきまえとるんだが……これを見てくれるか」
リーズヘッグが桶を差し出して来て、それを覗き込む。
中を見ると、うねうねとした鰻のような魚が蠢いていた。
「これはパウロという川で獲れる魚だ。野菜屋のとなりで、店主が暗い顔をして売っておってな。こいつは骨があって食べづらく、不人気な食材なんだ。年間通して獲れる魚なのに、あんまり食われていない。それをどうにかしたいらしくてな。異国の料理人がいるうちなら食べられるものに出来るかもしれないと願われて、押しつけられた」
「うん。故郷に似た魚がいたよ。俺もさばいたことはないから聞きかじりだけど、美味しく食べられていたはずだね」
「そうか。作ってみてくれるか?」
「あ、このパウロと同じ長さの木のまな板と、千枚通しが必要なんだけど……」
俺は千枚通しの形状を詳しく伝えた。
「わかった。まな板と千枚通しだな。ちょっと細工屋まで行ってくる」
リーズヘッグは足早に店を出ていった。
それからしばらくして、午前11時の鐘が鳴る。
《竜の跳ね鳥亭》の開店だ。
「いらっしゃいませ! 《竜の跳ね鳥亭》へようこそ!」
店内はあっという間に満席になり、飛ぶように日替わりが売れていく。
今日のサンドイッチは、レタスのごときイルマと乾酪と、兎肉のソテーを挟み込んだ一品だ。
付け合わせは、マッシュ・ポテトのごときマッシュ・フォンディと、カボチャのごときエリマを練り込んだクッキー。
汁物料理は、兎肉のカレーである。
俺は次から次へと、兎肉のソテーを焼き続けた。
それからしばらくして、リーズヘッグが戻ってきた。
「待たせたな。細工屋が急いで加工してくれたんで、持ち帰ってきたぞ。まな板と千枚通しはこれで良いか?」
「ああ、ばっちりだよ。時間が空いたら、試作してみようと思うよ」
「よろしく頼む。この辺の川は水は綺麗なんだが、食える魚が少ない。パウロは、食える数少ない魚なんだ」
「わかった。頑張ってみるよ」
日替わりを仕上げながら、俺は鰻の調理方法を思案する。
欲を言えば米が欲しいが、今のところ、見つかっていない。
鰻の蒲焼きがうまく出来たところで、お客さんは満足するだろうか?
肉のボリューム感を求めるお客さんには、物足りないかもしれない。
考える事は山積みであったが、現在は営業中である。
常連客の他に、女性のお客さんも見かけるようになったわが店だ。
あと、フードをかぶったお客さんもそこそこいる。
暇な時間がないくらい、ひっきりなしにお客さんは来てくれている。
それは大変、ありがたいと思う。
俺は出来ることをやっていくべく、フランスパンを掴み取るのだった。
午後2時半に、ダビとルルイエが戻ってきた。
今日も大いに売れたとのことである。
二人には皿洗いを手伝って貰い、店内は熱気に満ちあふれていた。
そして午後3時、閉店の時間である。
最後に残ったお客さんもはけていき、俺達の休憩時間だ。
俺は昼食の仕込みを始め、プリムとジュレは店内の清掃だ。
リーズヘッグはダビとルルイエをねぎらっていた。
今日の昼食兼夜の献立は、牛肉の薄切りと野菜の肉野菜炒めと、トマトのごときイノッサとチコの実を使ったピリ辛トマトスープである。
そこに、フランスパンを添えて、完成だ。
「お待たせしたね。さぁ、食べようか」
皆で突き匙を取り上げ、食べ始める。
疲れた身体に染み渡る塩気が心地良い。
すると、ジュレが俺を見つめて語りかけてきた。
「お、美味しいです。味付けは、塩のみなんですか?」
「うん。ちょっぴり味の粉も使っているけど、基本は塩のみだね」
「ぼ、僕は……身柄を預かって貰っている間、塩気の強い軽食ばかり食べていました。正直、美味しくなかったんです」
「そっか。塩も適量を使うと十分に美味しいよね。午後も忙しいだろうから、ゆっくり休んでね」
「は。はい。ありがとうございます」
皆の皿が空いた頃に、菓子の準備をする。
今日の菓子は、チョコバナナクレープだ。
見た目は普通のサフア巻きなので、ジュレもいぶかしがる事なく口に運んだ。
「す、すごく美味しいです。ヨーデルの苦みと香ばしさが、エーファの甘みと調和しています」
「美味しいよねーっ! チョコバナナクレープは、お客さんにも人気なんだよっ!」
「うむ。プリンも根強い人気があるから、1番かはわからぬがな」
「本当に美味いよなっ! これなら、いくつでも食えるぜ!」
「至福の時間ね……」
「こ、こんな美味しい菓子を食べれて僕は幸せです。僕は酒をたしなまないので、甘い菓子を好んでいるんです」
「そっか。これからも、色んな菓子を作るつもりだから、味見を宜しくね」
「はいっ、お任せ下さいっ!」
食事が終わったら、夜の仕込みである。
ダビとルルイエもパスタの仕込みを始めるので、邪魔にならないように気を付ける。
そうして、俺は鰻を一匹さばいてみた。
おっかなびっくり千枚通しを頭に刺して、包丁を入れた。
そして鰻を開き、内臓と骨と身を切り分ける。
同じように数匹さばいて、身を水でよく洗う。
身に串を刺して、炙り焼きにする。
それと、蒸し器の用意もしておく。




