借金取りの男
午前10時半、ナポリタンのパスタを200食と、ガトーショコラを多めの200人分、荷車に乗せて、ダビとルルイエが出発した。
俺は昼の仕込みの最中であったが、手は振らせて貰った。
店の前に行列が出来はじめ、仕込みももうすぐ終わりである。
今日の献立は、汁物料理がカレーで、サンドイッチは、キャベツのごときノーマの千切りに、兎肉のカツを挟んだものだ。
カツにはとんかつソースをかけているが、欲を言えばレモンのごときレィモンの絞り汁もかけたい一品である。
レィモンの在庫が心許なかったので、本日は使用しない。
午前11時の鐘が鳴り響き、お客がぞろぞろと入ってくる。
俺は鉄鍋に火を入れて、マオマオの油を熱する。
すぐに注文が入り、カツを揚げ始める。
店内は、戦場だ。
プリムがどんどん注文を入れてくる。
俺は薪を追加しながら、火力を調整し、カツを揚げ続けるのだった。
「昨日は露店でパスタを食ったぞ! 食いづらいが、実に美味だった。これから、一日おきで食おうと思っとるんだ!」
「へえ、露店で売ってる料理はそんなに美味なのかい? 俺は塩辛い料理しか、露店で食ったことがないよ」
「看板の所に料理屋の名前が書いてあるんだ。この《竜の跳ね鳥亭》の露店なら、まず間違いはないさ。料理番の兄ちゃん、確か露店で売ってる料理は、毎日味が違うんだよな?」
「はい。今日はナポリタンっていう、イノッサを使った酸味のあるパスタです。明日は、卵を使ったカルボナーラというパスタですよ。お味は、保証致します」
「そうか……じゃあ、明日は露店に行ってみるかなぁ」
「結構な行列になっとるが、4半刻もすれば順番が来る。俺はおすすめだ」
「へえ、俺も行ってみるかな」
そのようにして、店内は露店の話題でいっぱいだった。
ありがたいことに、露店に行ってみようとするお客がたくさんいた。
ダビとルルイエの頑張りが形になったように見えて、俺は感無量だった。
それから時間は流れすぎ、午後2時半に、ダビとルルイエが帰ってきた。
「ただいまーっ! 夜の仕込みを始めるぜ!」
「お疲れ様。良ければ昼食を用意するけど、どうする?」
「俺達もキョウスケと一緒でいい。それまでは、野菜を切ってる!」
「今日もすごい勢いで……パスタは売り切って……菓子は、185食分、売れました……お客さんに、たくさん褒めて貰えましたよ……」
ルルイエはケチャップを作るようで、イノッサを手に取っている。
俺は改めてお礼を伝えることにした。
「ありがとうね。改めてお疲れ様。じゃあ、昼食は閉店まで待っていてね」
俺はひっきりなしに日替わりを仕上げて、カウンターに並べていく。
「12番、あがったよーっ!」
「はーいっ、お待たせしましたーっ!」
店内はプリム、リーズヘッグは皿洗いだ。
俺達はお客をさばくべく、力を尽くすのだった。
そして、閉店の時間である。
お客さんもすっかりはけて、俺は昼食の仕込みを始めた。
「多めに仕込んでたカツが全部なくなったよ。お客はどんどん増えているみたいだな」
「そりゃあ、12月だからな。うちの塩辛い料理でも、12月は大入りだった。お前の料理ならば、どこまで客が増えるか未知数だな」
「そりゃあ光栄だな。せいぜいたくさん仕込みをしておくさ」
「でもでも、18日を境にお客はぐーっと増えると思うんだよね。今でさえ手一杯なのに、さばききれるかなぁ?」
「客席が足りねえんだ。考えはあるが、今年の祝福祭はこれで通すしかないだろうな」
「そっか。わかった。うだうだ言ってもしょうがないもんね。出来ることを精一杯頑張るよ!」
プリムは瞳をやる気で燃やしているようだ。
俺は出来上がった昼食を配膳した。
「汁物料理は、コンソメスープ。肉料理はビーフシチューに、フランスパンを添えて、完成だ。ダビとルルイエも、お疲れ様。昼食にしよう」
「うわぁ、すげえ豪華。肉がゴロゴロ入ってるし、野菜もたっぷりだ。これに菓子がつくのか?」
「うん。ケイルを使ったケイルパイだね。今日は常連客の奥さんが誕生日なんだって。それで、うちで食事をしてくれるそうだよ」
「へえ! だから豪華なんだな。納得した。ああ、美味そう!」
「誕生日にこんな料理を食べれたら……素敵ね……」
皆で突き匙を手にして、食べ始める。
ビーフシチューもうまく出来ているし、コンソメスープも過不足のない味わいだ。
ダビとルルイエは一心に食べ続けている。
リーズヘッグとプリムは、いつもの調子でゆったり食事を続けていた。
皆の皿が空いた頃に、菓子を準備する。
「うわぁ、ケイルパイの良い香り。冷えても美味しいけど、焼きたてはたまらない美味しさだねっ!」
「うむ。この菓子は美味だ」
プリムとリーズヘッグは一度食べたことがあるので、順当なコメントだ。
一方、初めて食べたダビとルルイエは、うっとり虚空を見つめながら、恍惚としていた。
「昨日の菓子も美味しかったけど……これもすっごく美味しい……。サクサクの生地の中に、甘く煮たケイルが入っているんだね……」
「すげえ美味い。ビーフシチューってのも無茶苦茶美味かったし、本当にキョウスケって、料理上手だよな!」
「ありがとう。お口に合ったなら、良かったよ」
俺もケイルパイを食べながら、ほっと息をつく。
美味しい料理を作ることと、食べることが、俺にとってすごく大事な事なんだ。
俺は料理番をしているのだから、当たり前だと思われるかもしれない。
しかし、大事なことなのだ。
当たり前のことを当たり前と思わずに、これからも力を尽くそう。
そう心に決めて、席を立つ。
夜の仕込みの時間だ。
ダビとルルイエも作業の続き、リーズヘッグは洗い物、プリムは店内の清掃だ。
プリムは鼻歌を歌いながら、清掃を始めている。
そこに、からりと扉を開けて入ってきたのは──柄物のシャツを着て、ぎらぎらと光る飾り物を身につけた薄笑いの男であった。
「ごめんくださいよォ」
「お前は、借金取りか。俺にもう用はないはずだろう」
剣呑な声をあげたのは、リーズヘッグだった。
頭を油でなでつけた薄笑いの男は、カウンターに腰掛けて、どかりと足を組んだ。




