菓子を売りたい!
閉店後、晩餐を取りながらダビの相談を聞いた。
「あのさ、菓子を売って欲しいって、すごく聞かれるんだ。この店の常連は、この店の菓子が美味い事を知ってるんだろう。どうか、俺に菓子の作り方を伝授してくれ!」
「それは構わないけどさ、今日よりも仕事が増えることになるよ? 売るのは勿論、仕込みだって大変だと思うよ」
「朝、早めに来て、昼と夜の分をいっぺんに作っちまいたいんだ。それなら、労力も少なくて済むと思う。あと、冷たいまんま渡せる菓子がいい。無茶を言うようだけど、宜しく頼むよ」
「ダビは……頼まれると燃える性格をしているの……好んで苦労してるから……気にしないで良い……わたしも、お客の喜ぶ顔が見たい……」
「そうか、わかった。じゃあ、ヨーデルを使った冷たい菓子を伝授しよう。明日は午前6時に、店に来ておくれよ」
「やったぁ! きっちり売り切って見せるから、300人前は用意しておくれよ。木皿は余裕があるから、新しく借りなくても大丈夫だ。木匙も突き匙もあるし、あとは明日、頑張るよ!」
「うん、頑張ってね。じゃあ、また明日ね」
手を振って親愛を示し、菓子を配膳する。
俺達は一日の疲れを癒やしながら、菓子を味わうのだった。
12月2日、早朝午前6時の鐘が鳴った。
ダビとルルイエが二人してやってきて、手を清める。
俺は数ある中から、チョコレートのごときヨーデルの菓子を選んだ。
チョコレートケーキは、何度も作ったことがある。
しかし、俺はどっしりとしたチョコレートケーキが好きだったので、ヨーデルとサフアの比率を研究していたのだ。
そして、出来上がったのがガトーショコラである。
ガトーショコラであれば、普通の半分の量で充分のはずだ。
冷たいまま渡してもいいし、型崩れもしない。
理想的な菓子だと言えよう。
「粉をふるう係と、ヨーデルを焙煎する係があるけど、どうする?」
「火を使う方を俺がやるよ。ルルイエは粉をふるってくれ」
「わかったわ……」
俺は段取りを説明していく。
「ヨーデルが焙煎できたら、鉄鍋に火を入れて、乳脂と牛の乳を加えてよく混ぜる。ルルイエは、卵を割って白身と黄身を分けてくれ」
「おう!」
「はい……」
「卵黄と砂糖を混ぜて、白っぽくなるまでよくかき混ぜる。そこにダビの作ったヨーデルソースを入れてよく混ぜる。混ざったら、振るったサフアを入れて混ぜる」
「おう!」
「はい……」
「別の器に卵白、塩を入れてピンとツノが立つまで混ぜてメレンゲを作る。これは、ダビに頼もう。出来上がったら、ヨーデル生地の器に1/3量ずつ加えてその都度切るように混ぜる」
「おう!」
「はい……」
「後はケーキ型に流し込んで、石窯を予熱し、30分程焼く。粗熱を取ったら型から外して、切り分ければ出来上がりだよ」
「よし、焼くぞ! これ一個で何人前なんだ?」
「これは味が強いから、1台12人前の換算だね。それでお値段は半銭を頂く予定だよ」
「じゃあ、25個も焼く必要があるんだな。もう5個焼いてるからあと4回焼けば良いわけだ」
「そうだね。でも余裕を持って、あと5個焼こうか。午後8時に朝食にするから、それまで頑張っておくれよ。じゃあ、次のガトーショコラを作ろうか」
「おうよ! ルルイエは粉をふるって、卵を割って白身と黄身を分けてくれ」
「わかったわ……」
鉄鍋に火を入れて、ヨーデルを焙煎するダビ。
その頼りがいのある姿を見つつ、俺は朝食の仕込みを始めた。
やがてはじめに焼いたガトーショコラが焼き上がったので、粗熱を取ってからケーキ型を外した。
「まず3等分に切って、あとは指2本分ずつ、切ってくれ」
「へえー。小さく切り分けるんだな」
切り分けられたガトーショコラを一個ずつ皿に乗せて、二人に差し出す。
「味を見てくれるかい?」
二人は頷いて、ガトーショコラの皿を受け取った。
俺も一切れつまんで、口に放り入れる。
ものすごく、甘い菓子だ。
舌にねっとりと絡みつくようなこの重さを、俺は求めていたのだ。
「すげえ甘い菓子だな。砂糖を舐めたって、ここまで甘いことはなさそうだ」
「でも、美味しいね……確かにこの位の量で丁度良いのかも……。苦さと香ばしさが、甘みを引き立てて、今までにない味だよ」
「この菓子は冷たいまま渡しても問題ないし、運ぶときに型崩れもしないと思うよ」
「おう! 張り切って売ってやるぜ!」
「ふふ……今日の露店が楽しみね……」
二人にはお茶を進呈して、俺は朝食の仕込みだ。
俺達は午後8時の鐘がなるまで、賢明に働いた。
朝食の後、ガトーショコラを味見したリーズヘッグとプリムは、それぞれ嬉しいコメントを言ってくれた。
「ううむ、甘い。だが、ヨーデルが苦いから丁度良いように思えるな」
「すっごく美味しい! 以前のチョコレートケーキより美味しいかも! もっといっぱい食べたい所だけど、味が強いから、胸が悪くなっちゃうかな?」
「うん。ガトーショコラは重い菓子だからね。少量で充分だと思うんだ。とりあえず一週間は、ガトーショコラを売り続けるつもりだよ」
「へへっ! 一週間後には、違う菓子を教えて貰えるんだろ? 今からワクワクしちまうぜ!」
「わたしも……頑張るわ……」
まだまだ、祝福祭は始まってもいないのだ。
しかし、客入りは増えているような気がする。
これ以上客が増えてもさばききれない気がするのだが、どうするんだろうか。
とりあえず、フランスパンの発注は250本に増えたので、まだお客は増えるのだろう。
俺は俺でやれる事を全うする為に、昼の仕込みを始めるのだった。




