タペとポッカの菓子を出す
そして少し時間が過ぎて、ダビがやってきた。
「リーズヘッグ! 勝手に野菜を買ってきてごめん。でもお客がさぁ……」
「理由はルルイエから聞いた。夜間も店を開いてくれるそうだな。俺に異存はない。まずは昼食を食え。仕込みはそれからでも遅くなかろう。キョウスケ、日替わりを2つくれ!」
「わかった。少し待っていてね」
焼き上げた兎肉のソテーにピリ辛のソースをまぶし、乳脂を塗ったフランスパンに挟む。
汁物料理を取り分けて、お盆に乗せた。
「おまちどうさま。店内は満席だから、奥の部屋でゆっくり食べて来なよ」
「うわぁ、うまそう。朝は干し肉だけだったから、すげえありがたいよ。食ったら働くから、少し待っていてくれよな。ルルイエ、行くぞ」
「うん……わたしは、お茶を運んでいくね……」
二人は仲良さそうに、奥の部屋に引っ込んでいった。
もうすぐ閉店の刻限だ。
表に並ぶお客さんも数を減じていく。
そして、午後3時の鐘が聞こえてきた。
リーズヘッグが並んでる客を店内に案内し、注文をかける。
俺はあとひと踏ん張りと踏んで、兎肉をつかみ取るのだった。
お客がはけて、店に鍵をかけた後。
俺達は晩餐を済ませて、ひと休みしたら、夜の仕込みを始めた。
今夜の献立は、兎肉の唐揚げに、トマトのごときイノッサ風味の汁物料理である。
菓子は、初めてのお披露目となる、タペの団子だ。
皮は餅米のごときポッカを粒がなくなるまで煮込み、成形したものである。
タペとは、小豆のような食材だ。
俺はゆでこぼしで渋みを抜いたポッカを、たっぷりの砂糖で練り上げた。
一人二つの見当で小さく作っているが、リーズヘッグなどは、あっという間に完食してしまった。
「実に美味い。茶に合うな」
「タペってこんなに美味しかったんだね! ポッカなんて、こんなふうになっているのは、初めて食べるよ。すっごく美味しい!」
二人の口にも合ったようで、まずまずである。
ついでにダビとルルイエに団子だけ食べてみて貰ったら、大絶賛だった。
「すっげー美味い!」
「この皮がもちもちしてて……中身の甘さと合っていると思う……。すごく美味しいです……」
俺は自信を持って、数百個にも及ぶ団子をこしらえるのだった。
午後4時半、ダビとルルイエが夜営業に出発した。
用意したパスタは、200食。
午後5時に開店して、午後8時に閉店する予定である。
いっぺんに6人前ずつ茹でられるので、お客がたくさん来るようなら、もっと閉店時間は早まるかもしれない。
どちらにせよ、売り切るまでは帰らないと言い置いて、ダビは荷車を押していった。
ルルイエは、売り上げを両替屋で両替してから帰る、と言っていた。
「それにしても、1日400食も売れたら、凄いじゃないか。結構良い稼ぎになるんだろう?」
「ああ。サフア屋には念の為、倍の量のパスタを注文せねばならんな。祝福祭が終わるまでは気が抜けんが、幸先は良かろう」
「パスタがお客さんに受け入れられるようなら、来月からサンドイッチとパスタを交互に出すようにしたいんだけど、どうだろう?」
「うむ。良いかもしれんな。ただ、今月はサンドイッチで良かろう」
「うん。ダビ達が頑張ってくれているもんな」
そして午後5時の鐘が鳴り響く。
《竜の跳ね鳥亭》、開店である。
ありがたい事に、並んでくれていたお客さんで店内は満席だ。
うちの店は人気店なんだなあ、と嬉しい気持ちを噛みしめる。
俺はひっきりなしに唐揚げを揚げて、日替わりを仕上げていった。
「リーズヘッグ! 俺は露店でパスタを食ってみたぞ! 多少食いづらいが、美味だった。しかし、行列が凄くてたまらんな。しかし、明日は違う味を出すと言うし、明日も並ぼうかと思っとるんだ」
「口に合ったなら何よりだ。パスタは3種類を用意しとる。毎日食っても飽きないはずだ」
「じゃあ、明日と明後日はパスタを食うかなぁ。サフア屋も似たようなパスタを売りに出してたが、やっぱり行列が凄かったぞ」
やんややんやと話しているうちに、菓子を出した。
うちで初のお披露目となる、団子である。
「何だこれ! すげえ美味えよ! 中身は甘くて、皮はもちもちだ。こんな菓子は、食ったことがねえ!」
「本当だ、すげえ美味い……。姉ちゃんもこいつを食ったかい?」
「うん、味見をしたよ! 中身はタペを甘く煮たもので、皮はポッカだね。美味しいから、あたしは、大好きだよ!」
団子の評判は上々のようで、俺はほっとした。
粒あんかこしあんで悩んだが、今日は粒あんで仕上げている。
あとは、イチゴに似た果実はないだろうか。
イチゴ大福、大好きだったんだよな。
いつか作ると決意しながら、俺は次の注文に取りかかることにした。
ダビとルルイエが帰ってきたのは、午後8時の鐘が鳴ってすぐの事だった。
「ただいま、200食、売り切ってきたぜ!」
「おかえり。日替わりで良ければ晩餐にどうだい?」
「ありがたく頂くよ。それとさぁ、キョウスケに頼みたい事があるんだけど……」
「ちゃんと聞くけど、今は手が離せないから、まずはゆっくり食事をしておいでよ。ほら、唐揚げが揚がったよ」
俺は唐揚げを皿に盛り、汁物料理を取り分けた。
輪切りにしたフランスパンを添えて、お盆に乗せる。
「わかった。じゃあ、食ってくる。じゃあ、また後でな」
お茶はルルイエが持って行くようだ。
二人が奥の部屋に消えた後も、店内は熱気の渦が満ち満ちていた。
「プリム! そろそろ一曲歌ってくれよ!」
「そうだそうだ! 俺は『女神アウローシアの旅立ち』が良いな!」
「歌え! 歌え!」
そうして歌のコールが始まるのも、この店では恒例となっていた。
プリムが高らかに歌い上げるのは、女神アウローシアが地上に降り立ち、奇跡を起こす調べだった。
女神アウローシアは成すべき事を終えて旅立っていく。
勇壮で、どこか寂しげな旋律が、店内に響き渡る。
俺は唐揚げを揚げながら、じっくりと聞き入った。
プリムの歌は俺も大好きである。
配膳はリーズヘッグに任せて、夜はゆっくりと更けていった。




