《ゲネローペ》のカレー
炒め物の味は、無難といったところだ。
この調味料はしょっぱくて、独特の風味を有しているのである。
俺としては異国的な味わいだなぁと思うばかりで、自分で使いたいと思う事はなかった。
そして、カレーである。
そのカレーは、甘かった。
基本的な作り方は、サフア屋より伝授されるはずである。
飴色に炒めたタマネギのごときカペラも、リンゴのごときケイルも、倍量以上入ってそうだ。
もしかしたら、砂糖も入れているかもしれない。
とにかくこのカレーは、超甘口であった。
「このカレーは、甘口だね。リリアの口には、合わなかったかな?」
「ううん、美味しい。カレーが甘いと、こんな味になるんだね。わたしはね、辛ければ美味ってわけでもないの……とにかく、カレーが好き」
「そっか。俺もカレーが好きだから、このカレーも美味しいよ。俺だったらここまで甘くせずに、中辛に味を整えそうだけどね」
「……美味しそう。いつか、作ってね?」
「うん。店で出しているのよりも、少し辛みは強めに作りたいかな。あとは、キノコも入れたいところだね」
「うふふ。キョウスケも、楽しみにしててね?」
「う、うん。勿論だよ」
何だろう。
俺が料理を振る舞うって話だったのに、なんだかリリアの様子が思わせぶりだ。
何か他に意味があるのか?
リーズヘッグに聞けば、わかるだろうか。
料理は順調に減っていき、しばらくして全て平らげた。
俺は給仕に菓子を頼み、届いた菓子を見てびっくりした。
「これは……団子か?」
「ええ。ポッカを煮詰めて皮に使った団子でございます。どうぞごゆっくり」
俺は、その団子をよく観察してみた。
見た目は、何の変哲もない団子である。
俺は団子をつまんでみた。
どうやら中に、餡が包まれているようである。
俺は期待を胸に、団子をかじり取った。
中身は、果実のジャムであった。
団子には砂糖が振りかけられており、とても甘い。
果実は、梨だろうか。
印象としては、梨とリンゴを合わせたような味であった。
そして肝心の皮は、もちもちとしていて、ほのかな甘みが感じられる。
まるで餅米のような食感に、俺は胸が沸き立つのを感じた。
「この団子っていう菓子は美味ね。もう二つ食べ終えてしまったわ」
「この団子みたいな菓子は、一般的なのかな?」
「うーん。さっき、ポッカって言ってたよね。ポッカの豆はすぐ粘ついちゃうから、こんな形にしているのは見たことがないわ。丸のまま茹でて食べられてたと思う」
「そっか。俺も、俺なりの団子を作ってみたくなったよ。故郷では、こういう団子も珍しくなかったんだ」
俺も最後の一つを口に頬張り、ゆっくり咀嚼した。
美味しいけれど、異国的な味わいだ。
俺はこくりと飲み下し、お茶を飲んだ。
「キョウスケがどんな団子を作るのか、興味がある。またお店に食べに行くからね」
「うん。昼間はエリマのクッキーしか出してないけど、夜は立派な菓子を出しているからさ。良かったら食べに来ておくれよ」
「うんっ! わかった!」
「それで、帰りは店まで送ってくれるかい? お土産にケイルパイを焼いておいたから、お仲間と食べておくれよ」
「うん……嬉しい。仲間も喜ぶ」
リリアは、とびっきりの笑顔で笑ってくれた。
店を出て、30分程は雑談をしながら歩いた。
いくら話していても、話題は尽きることがない。
ふとした沈黙の時間さえ心地よく感じられた。
《竜の跳ね鳥亭》に到着した後は、厨房に置いておいたケイルパイを持ち出す。
「お待たせ、これがお土産だよ。宿屋まで送っていきたいんだけど、道があやふやだから、ここまででいいかい?」
「うん。お土産、ありがとう。……ねえ、わたしは、キョウスケの彼女だよね?」
「ああ、勿論さ。リリアは俺の彼女だよ。……すごく大事にするから、末永く宜しくね」
「ん。ちょっと目をつぶって?」
俺は言われたとおり、目をつぶる。
すると、唇にチュッと柔らかい何かが触れた。
俺は目を開けると、赤いお顔のリリアがそこにいた。
「浮気したら許さない。……じゃあ、またね」
「あ、ああ。俺はリリア一筋だよ。嬉しかった。またね」
リリアが手を振ってくれたので、俺も手を振り返す。
しばらくしてリリアが見えなくなって、俺は自分の部屋ではなく、リーズヘッグの部屋に直行した。
「おかえり。逢い引きは楽しかったか?」
「ああ。とっても楽しかった。聞いてくれよ、俺はリリアと付き合う事になったんだ!」
「おう、めでてえな。まぁ、お前は器量も悪くねえし、優しげな性格だし、なにより料理がうまい。いくら財宝漁りといえども、お前の魅力にはかなわなかったって事だな!」
「それでさ、今度料理を振る舞うよって言ったんだけど、何か雰囲気がおかしくてさ。何か心当たりがあるかい?」
「そりゃあアレだよ。要は、てめえの家に誘ったって事だろう? それはつまり、泊まっていけっていう事なのさ」
俺はごくりとつばを飲み込んだ。
「と、泊まりっていうことは……」
「つまり身体を重ねるわけだな。まんざらでもねぇ態度だったんだろ? なら心配要らねえよ。必要なのは、度胸と避妊の軟膏位なものさ」
「避妊の軟膏って?」
「財宝漁りしてんのに、まだガキをこさえるわけにいかないだろ? 避妊の軟膏は女が使うもんなんだ。まあ、ちょっと高値だが、お前さんは心配なかろう」
「そ、そうなんだな。なんだか夢みたいだよ」
「お前みたいな男は争奪戦だ。リリアはうまくやったものだな」
「俺はこの年だから、俺の方こそ幸運極まりないさ。あとな、タペとポッカっていう食材を明日買ってきて欲しいのと、突き匙の導入についてなんだけど……」
俺は幸福を胸に、意欲に燃えていた。
リリアに美味しい料理を届けたい。
俺は心からそう願っているのだった。




