逢い引きの約束
まる一日、つきっきりで面倒を見たかいあって、ダビは3種類のパスタソースの作り方を、覚えてくれた。
ミートソース、ナポリタン、カルボナーラ。
この3種類を、日替わりで売っていく算段なのである。
「露店の出し方は、俺も調べてきた。露店屋で露店を借りて、場所代と貸出料で、一週間黒銅貨2枚。火元は火鉢で、露店の中だけで燃やすように言われた。あ、でも火元は一つだったな。パスタは火元が二つ必要だろう?」
「ダビの言うとおりだ。火元は二つ必要だな。あと大量の木皿と、木匙が必要だな。確か貸し出しをしとったはずだ」
「木皿は木匙もついて、100皿で一週間黒銅貨1枚だったよ。俺達は一日にどれ位売るんだい?」
「キョウスケ。お前はどう考える?」
「そうだね。一日200食を売り切れれば、十分じゃないかな。お皿は洗う必要があるよね?」
「皿洗いは孤児のガキの仕事だよ。共同の青空食堂の利用料が、一週間黒銅貨1枚だってさ。洗った皿も、露店まで持ってきてくれるぜ」
「そうか。お皿は多めに、250組借りることにしよう。火元の確認は、ダビに任せて良いかい?」
「ああ、任せとけ!」
そんなわけで、火元の確認は、ダビに一任されることになった。
ルルイエも必要経費の計算などで、色々力になってくれている。
俺は改めて祝福祭に対する意気込みを、新たにするのだった。
翌日からの営業は、大入りのお客さんが入り、大盛況だった。
特に今日はカレーの日だ。
すでにサフア屋からカレー粉を買い付けており、カレーを出す料理屋もいくつか教えて貰っている。
次の休日には食べに行くつもりなので、今から楽しみだ。
カレーと、肉料理は牛肉のハンバーグを出している。
お客の評判は上々で、俺は嬉しい気持ちでいっぱいだった。
そこに、リリア達がやってきた。
プリムは大喜びで、奥のテーブルに案内した。
リリアは、俺の気になる女の子だ。
まっすぐに切り揃えられた前髪に、背中まである艶やかな黒髪。
背丈は小柄で、紫色の瞳をしている。
容姿も可愛らしいが、何よりも意思の強そうな瞳が気に入っていた。
お近づきになる方法はないものかと、俺はハンバーグを焼きながら考えあぐねていたが──調理場に入ってきたプリムの一言によって、憂鬱は一気に晴らされた。
「ねえ、キョウスケ。今度の休みに《鯨空亭》のカレーを食べに行くんでしょ? それにリリアがついて行きたいんだって!」
「へえ、リリアが?」
「うん、他の皆は行きたい店があるんだって。別にいいよねー?」
「勿論、歓迎するよ。昼食か夕食か、どっちだかわかるかな?」
「キョウスケは、どうするつもりだった?」
「俺は昼に《鯨空亭》に行って、夜はサフア屋に教えて貰った《ゲネローペ》っていうお店に行ってみようと思っていたよ。つまり、食べ比べだね」
「それ、すっごく良いね! リリアにそう伝えとくよ! 午前11時にこの店で待ち合わせで良いかな?」
「うん。それで良いよ。宜しく頼むよ」
「りょうかーいっ! じゃあ、リリアに伝えてくるねーっ!」
声は裏返ってなかっただろうか。
リリアと、食事に行ける。
俺は注文の入った日替わりをこしらえながら、叫びたい気持ちを押し殺すしかなかった。
やったぜ、プリム、ナイス!
リリアの退店時、俺は心を込めて「またね」と言った。
「うん……また28日に」
言葉少なに、リリア達は帰ってしまった。
俺はいつも以上に奮起して、ハンバーグを焼いた。
リリアは俺のこと、どう思っているんだろう。
少しは好感を持ってくれていれば良いなと、ため息をひとつ。
気分は晴れやかで、澄み渡っていた。
露店は2メートルほどの木造でできた四角い躯体であり、真ん中に天板が乗せられるようになっている。
天板の下には火鉢が入れられており、小さな小部屋になっていた。
火鉢を二つにする許可はすぐに取れたが、天板は火元がひとつ用の細工がされている。
よって、二つの火元用の天板を、細工屋に特注する事になった。
それは翌日には納品されたので、これで火元の心配はなくなった。
薪は町から購入する資源であるそうで、リーズヘッグは、たくさんの薪を購入していた。
12月1日に露店街まで荷物を運ぶのには、リーズヘッグの荷車を使う事になった。
それは手押しの荷車であり、リーズヘッグが市場へ行くときに使っているものである。
とにかく、下準備は出来た。
12月1日の早朝、ダビとルルイエは店に来て、パスタソースを仕込んでくれる事になっている。
さてさて、やって来ました、28日。
店の休業日であり、リリアと食事に行く日だ。
俺はリーズヘッグに、女性と食事に行くのにこの格好は適切か、聞いてみた。
いつもの格好は、無地の半袖のシャツ、紺色のズボンである。
リーズヘッグの返事は、正装でなければ十分である、との事だった。
良かった、リリアに恥をかかせないで済む。
そして俺は無一文なので、給料の前借りをする事になった。
黒銅貨300枚も貰ったけれど、なくすと怖いので、半分だけ持って行くことにする。
あとは、時間を見つけて焼いたアップルパイのぎときケイルパイをわんさか焼いた。
これは、帰りにお土産として渡す為の菓子である。
味見と称して、リーズヘッグとプリムには食べて貰った。
大絶賛を頂いたので、問題ないだろう。
時間は丁度午前11時の鐘が鳴ったところである。
俺ははやる胸をおさえて、リリアの到着を待った。
ほどなくして、店の扉が開き、黒髪を揺らして、リリアが入ってきた。
「お待たせ、キョウスケ。さあ、行きましょう」
リリアはいつもズボンをはいていたように記憶している。
それは剣をふるう為であったのだと思われるが──今日は可憐なワンピース姿であった。
フードもかぶってないし、剣も下げていない。
黒髪の長髪に紫色の瞳の、とても可愛い女の子だ。
「今日の装いも似合っているね。綺麗だよ」
するっと言葉が滑り落ちて、俺は若干慌ててしまった。
これでは、まるでリリアが俺を意識してワンピースを着てきてくれたかのようではないか。
リリアは若干頬を染めて、上目遣いに俺を睨みつけた。




