カレー粉の外注
「このカレー粉は、サフアと乳脂で固める必要があるんだ。これをたくさん作る必要があるんだけど、サフア屋としては、どうだろう?」
「サフアを使ってるなら、サフア屋としては黙っていられねえな。でも、味と言うよりは固める為に使ってるんだな。味の粉みてぇなもんか」
「うん、そうだね。サフア屋が作らないんなら、自分で作るけど」
「待て待て。まずはそれで作った料理を食わせてくれよ」
「わかった。料理名はカレーっていうんだ。サフア屋が色んな所に売り出してくれたら嬉しいよ」
俺は黙ってカレーを作り始めた。
じっくり煮込んだ肉と野菜に火が通ったら、リンゴのごときケイルのすりおろしを入れて、カレー粉を投入する。
そして少し煮込んだら、完成だ。
まだ昼には早いが、焼き上がったミートパイと、カレーを試食する。
カウンターに座ったホルエン料理長は、まず四角いミートパイに齧り付いた。
俺も四角いミートパイを手に取り、がぶりとかじりとる。
お味は、満足いくものだった。
ホルエン料理長が丸く焼き上げた方のミートパイを試食している間に、カレーの味を見る。
カレーは、文句なく美味い。
俺は一人前のカレーをぺろりと完食した。
「ミートパイは、納得の味わいで、美味だった。これは、兎の肉は合わんのか?」
「俺も作ってみたけど、牛の方が好みに合っただけなんだ。兎の肉で作っても美味しいよ」
「そうか。そしてカレーは……驚くほど美味だった。これが肉と野菜を煮てカレー粉を入れただけの料理とは思えぬ程だ。このカレーは、さっきのパイ生地にも合いそうだ」
「うん、そうだね。水気を少なくして作れば、カレーパイも作れるだろうね」
「あいわかった。ぜひサフア屋で販売出来るように、カトリーヌ様に進言しようと思う。まだ金を支払っておらぬが、香草の配合を教えて貰えるだろうか?」
「うん、それは良いけど……香草は、16種類もあるんだ。覚えきれるかい? 俺は香草の名前を知らないんだ」
「メモを取らせて貰おう。香草の名前は、俺が知っている。心配せずとも良い」
その後は時間いっぱいまで香草の種類と量を覚えて貰った。
それと、カレーを使ったいくつかの料理も伝授して、準備は完了だ。
迎えのエミューの車がやってきて、ホルエン料理長が帰った後は、ひたすら昼の営業だ。
今日もたくさんのお客さんが来てくれて、ありがたい限りである。
今日の昼の献立は、レタスのごときイルマと乾酪と、兎肉を挟んだサンドイッチだ。
ソースは醬油のごときユーカンを使っている。
汁物料理は味の粉を使ったコンソメスープだ。
持ち帰りのサンドイッチを望む声も多く、俺は次から次へと兎肉を焼き上げる事になった。
「いやぁ、ここの日替わりは美味いなぁ!」
「全くだ! もう塩辛い昼食を囓るのは勘弁だよ!」
「祝福祭のときには、この店も露店を出すのかよ、リーズヘッグ!」
常連さんに呼ばれて、皿洗いをしていたリーズヘッグが顔を出す。
「おう。露店は出す。売りに出すのは、サンドイッチじゃなくパスタって料理だけどな」
「へえ! パスタなんて聞いたこともねえや! そりゃあ、美味いのかい?」
「ああ。美味いぞ。日替わりで味を変えて売るつもりだ。良ければ食ってみてくれ」
「ああ! まずは食ってみなきゃな! 期待してるぜ、リーズヘッグ!」
常連のお客さんは愉快そうに笑っていた。
その後もせわしなく働き、午後3時の鐘が鳴る。
閉店の時間だ。
「じゃあな、リーズヘッグ! また来るぜ!」
「ありがとさん」
「キョウスケ! 今日も美味かったぞ!」
「ありがとうございました! またのご来店をお待ちしています!」
店内のお客がはけて、やっとひと息つく。
プリムは食器を抱えて、笑っていた。
「いやー、今日もすごい勢いだったねーっ!」
「うん。ありがたい事だね。今、昼食を作るよ」
俺は早速、野菜の切り分けを始めることにした。
今日の献立は、兎肉の唐揚げにキャベツのごときノーマの千切りを添えたものと、兎肉のカレーとフランスパンである。
出来上がった料理をカウンターに並べていくと、リーズヘッグとプリムも席に着いた。
俺も椅子に座り、皆と一緒に食べ始める。
唐揚げは醬油のごときユーカンの風味がたまらない。
カレーは思い出のカレーの味に酷似していて、とても美味しい。
「このカレーっていうやつは、食べるたびに美味く感じるようだ。これを夜の営業で出すんだろう?」
「うん。辛みは抑えているし、嫌がるお客がいないといいね」
リーズヘッグもカレーを気に入ってくれたようだ。
プリムはニコニコしながら、カレーをぱくついている。
俺は確かな手応えを感じながら、唐揚げを頬張った。
その夜の営業でカレーを出してみたが、評判は上々であった。
具材多めのとろりとしたカレーと唐揚げのコンビは、お客の心を掴んだようだ。
ひっきりなしに俺は唐揚げを揚げていたが、お客さんの熱気はすさまじかった。
「この香草の料理は実に美味いな、リーズヘッグ!」
「おお、持ち帰れないのが口惜しい程だ! こんな料理は食ったことがねえ!」
「この肉料理も実に美味いな!」
お客さんは笑顔で料理を食べてくれている。
俺は嬉しい気持ちでいっぱいになりながら、日替わりを仕上げるのだった。
そして、もうすぐ閉店の刻限かな、という頃合いで──新しいお客さんがやってきた。
そのお客さんは、真っ白な調理服を着ており、艶やかな黒髪の長髪をなびかせていた。
肌は褐色で、瞳は青色である。
そのお客さんは日替わりではなく、香草の料理だけを指定してきた。
「料金は日替わりと同じだけ払うよ。とにかく香草の料理を食わせろったら!」
目つきは鋭いし、長身だが、恐らく女性だ。
カウンターに座ったそのお客さんに、カレーとフランスパンを出した。
「ふうむ、香りはずいぶん香ばしいね……」
お客さんはスープをすくって、一口飲んだ。
その後は、無言である。
ぱくぱくとカレーを食べ続け、食べ終わると、リーズヘッグを呼んだ。




