賛辞の拍手
「これは……美味だな。本当にこれがサフアなのか?」
近くのテーブルの男性に声をかけられたので、笑顔で応対する。
「はい。サフアとテルマを混ぜて作っています」
「テルマだと! あんな貧乏たらしいものが、こんな料理に化けるのか……」
「でも、とても美味ですわ。テルマはボソボソとしていて、美味らしからぬと聞いていましたけれど、このパスタという料理は美味です」
「この煮汁も美味ですわ。チコの実を使うなんて、東の国のようですわ」
数あるパスタソースの中から、トマトのごときイノッサの煮汁を選んだのは、チコの実の味付けをもっと広く知らしめたいと思ったからだ。
厳密には、似た味の煮汁でサンドイッチを作って出した事もあるのだが──ビトーを使うのは初めてであるし、主眼はパスタのお披露目なので、大目に見ることにした。
本当はカルボナーラにしようと考えていたのだが、そうすると汁物料理とかぶってしまうので、やめたのだ。
しばらくして、次の料理が運ばれてくる。
次は、野菜料理だ。
「野菜料理は、テーペのキッシュになります」
ホウレンソウのごときテーペのキッシュは、丸く焼き上げた後、ケーキのように6分割にしている。
付け合わせは、ニンジンのごときメイリグのマリネを添えている。
俺は最近酢のようなワリアという調味料と出会う事が出来た。
俺は酢が欲しかったので、調味料屋でリーズヘッグに探してきて貰ったのである。
「まぁ、優しいお味ね。とても美味しいわ」
「こっちのメイリグは酸っぱいぞ。ううむ、さっぱりすると言えばそうだが……」
「次は汁物料理ね。どれも新しい味わいばかりで、楽しいわ」
おおむね、好評を頂けているようである。
皿がだいたい空いたタイミングで、汁物料理の登場だ。
「汁物料理は、クリームシチューとなります。肉は兎の肉を使用しています」
もったりしたクリームシチューは、タマネギのごときカペラ、ニンジンのごときメイリグ、ジャガイモのごときフォンディを入れている。
王道のクリームシチューだが、反応はどうであろうか。
俺は胸を高鳴らせて、会場を見回した。
「こんな汁物料理は初めてだわ。飲み口が柔らかくって……とても美味だわ」
「本当に美味しいわ。ただ牛の乳を入れた汁物料理とも違うようだわ。何か秘訣があるの?」
尋ねられたようなので、お答えさせて頂く。
「乳脂とサフアをじっくり炒めて、そこに牛の乳を加えています。そうして作ったホワイトソースをもとにして作った汁物料理となります」
ホワイトソースの他には、味の粉と呼ばれるコンソメキューブのような食材が大活躍している。
味の粉は、卵を産むリューカの骨を煮込んで作った調味料だ。
リューカ自体は肉質が固く、大味の為、食用に適さないとされている。
汁物料理が終わり、いよいよ肉料理だ。
配膳が済んだ頃、俺は声を上げた。
「肉料理は、ミートパイとなります。肉は牛を使用しています。お熱いので気を付けてお召し上がり下さい」
焼き上げは、ウラハに任せている。
ミートパイは丸く焼き上げて、これもケーキのように6分割にしている。
これらの型は使用人を通じて、細工屋に発注して貰ったのだが、膨大な量の型が届いていた。
今後、これらの型をどう活用していくのか謎である。
「まぁ。こちらは外側がサクサクしているわ」
「本当ね。パリパリしていて、初めての食感よ」
「ええ。とても美味しいわね」
サフアに乳脂を練り込んで、何度も折りたたんだ生地を外側に使用している。
焼く前に卵液を塗っているから、色艶もばっちりだ。
この生地は、サフア屋に作って貰おうか悩んだのだが……ホルエン料理長が忙しそうだったし、特別に何かを使うわけじゃなかったので、自作することにした。
肉料理の皿が空いたら、締めくくりの菓子である。
配膳された皿を見て、数人は首を傾げている。
「これは……酒杯ね」
「なんとも色味が美しいわね……頂いてみましょう」
ざわめきをかき分けるようにして、俺は声を上げた。
「菓子は、ネレボロのゼリーになります。匙ですくってお召し上がり下さい」
ネレボロとは、ピンクグレープフルーツのような果実である。
果汁をイラと呼ばれる海藻の粉で煮溶かして固めたものだ。
上部には果肉を敷き詰めてあり、硝子の酒杯が透き通った美しさを伝えてくれるはずである。
俺は硝子の器が必要だと述べたのだが、食器用の硝子の器は希少品で在庫が足りないと言われ、やむなく酒杯を使ったわけである。
「甘くて酸味があって……とっても美味しいわ」
「果汁をそのまま固めてあるようね。すごく面妖だわ」
「さっぱりして美味しいわ」
皆が食べ終わった頃合いで、エリカがまた俺の隣にまで歩いてきた。
マイクのようなものを渡すと、にこりと微笑み、前を向いた。
「お集まりの皆さん、料理は如何だったかしら。こんなに不思議で、こんなに美味しい料理はいつぶりかわからないくらいだわ。美味しい料理をありがとう、キョウスケ。皆さん、《竜の跳ね鳥亭》のキョウスケに拍手を捧げましょう」
俺は慌てて一礼し、拍手を受け取った。
エリカは元の席に戻り、談笑を始めた。
俺は小姓に呼ばれて、調理場へ舞い戻る。
ウラハ達は、丁度味見の真っ最中のようだ。
「おお、キョウスケ。どれも不思議で美味い料理だな! 俺は肉料理が気に入ったぞ!」
「そうかい。それは嬉しいな」
「キョウスケの分も残してあるぞ。おおい、誰かキョウスケの分のパスタを茹でてくれ!」
「はい、ウラハ料理長!」
数十人の料理番が交代で味見をしているようだ。
俺の前に、まず前菜が置かれた。
人数の関係上、半人前である。
俺はまず茶を飲んでから、木匙を取り上げた。
前菜は、兎肉とレバーのパテである。
これは実に美味しく出来ている。
俺はあっという間に食べ終えた。
その後、パスタ、テーペのキッシュ、クリームシチュー、ミートパイ、ネレボロのゼリーと、次々と食べていった。
お腹が空いていたし、どれもとても美味だった。




