第一騎士団の団長
9月15日から9月20日まで、平穏に営業する事が出来た。
露店も全て売り切っており、順調である。
ダビとルルイエ、リリアと仲間達、アーロン率いる第一騎士団の騎士達や、リオン率いる第二騎士団の騎士達、ローガン率いる第三騎士団の騎士達などの常連も、食べに来てくれた。
ある日のこと、第一騎士団の団長が、来店した。
今までは副隊長のアーロンが中心に、食べに来てくれていたのである。
「キョウスケ、ちょっと来いや」
そんな言葉で俺を呼びつけたのは、アーロンであった。
行ってみると、実に美しい女性がいた。
紫色の生地に金色の刺繍の制服。
第一騎士団だ。
髪は紫色で、瞳は青色。
プロポーションは抜群で、整った容姿をしている。
彼女は酒を飲んでいたようだが、キリッとした面持ちで俺を見た。
「第一騎士団、団長カナリアだ。いつもアーロンが迷惑をかけていると聞いている。わたしは領主様に食事に呼ばれる事が多いのでな。今まで挨拶できずに申し訳なかった。これからも、アーロンとうちの騎士達を宜しく頼みたい」
「いえいえ、アーロンにはいつもお世話になっています。ご贔屓にして下さって、感謝しております。ご挨拶ありがとうございます、カナリア」
「この店には第一騎士団だけでなく、第二騎士団や第三騎士団まで通っているそうだな。確かに城下町の流儀とは違う料理だったが、美味だった。わたしはあまり城を離れられぬ為、時折、こちらに寄らせて貰う」
「はい。料理を気に入って下さって、ありがとうございます。どうぞお気軽に《竜の跳ね鳥亭》へお越し下さい。本日はご来店、ありがとうございました」
カナリアは綺麗な顔で微笑んでいた。
「時に、キョウスケよ。お主は菓子のコンテストで優勝したそうだな。《アフロディーテ》にて、それを味わえると聞く。個室があり、予約も出来るそうだな」
「ええ、そうです。貴族の方がご来店することもあると聞いています」
「うむ。沢山の姫君に同伴を願われている。正直、団子は食べ飽きているのだ。新しい菓子が味わえると聞いて、わたしはとても期待している。わたしは菓子に目がなくてな」
「そうですか。ご期待に添えれば幸いに思います」
「ではまたな、キョウスケ。また会える日を楽しみにしているぞ」
カナリアはそう言って、部下の騎士達と帰っていった。
「俺は迷惑なんてかけてないっすよ~、団長」
「黙れ。部下から報告は上がってきている。お前の憎まれ口は誰にでも理解されるとは限らんのだぞ。ちょっとは殊勝に振る舞え」
アーロンはカナリアに頭が上がらないらしい。
見ていて面白かったが、黙っておいた。
沈黙は金なり、である。
9月21日。
今日の休日は、カトリーヌが視察と称して遊びに来る日である。
午前11時。
俺とリーズヘッグは、藤色のワンピースを着たカトリーヌを迎え入れた。
「ご機嫌よう、リーズヘッグとキョウスケ。今日はお世話になるわ」
「良く来たな、カトリーヌ。元気そうで何よりだ。ゆっくりしていってくれ」
「いらっしゃい、カトリーヌ。色々話を聞かせておくれよ」
リーズヘッグと俺がそう言った。
さっそく1番テーブルに案内して、お茶を配膳する。
もうすぐ昼食なので、お茶請けは小さなジャムクッキーだ。
「ありがとう、キョウスケ。じゃあ、何から話しましょうか」
「気が早いお前のことだ。2号店の計画か?」
「違うわ。問題は《竜の跳ね鳥亭》の本店、ここよ。行列の出来るお店って素敵だけど、ちっとも席が足りてないじゃない。《竜の跳ね鳥亭》を、改築するべきよ」
「それは俺も考えていた。隣の家を買い取る算段は、随分前から整えてある。資金もある。だが、そんなに大きな店には出来んぞ。増築を考えていたんだが、せいぜい100席足らずが限度だ」
「個室を2階に作って、3階建てにしましょう。従業員用の寮は3階ね。これで随分多くのお客を入れられるようになるわ」
「従業員が随分必要になるな」
「人材屋を頼りましょうよ。キョウスケは何か意見はある?」
「1階に調理場を作るなら、2階にはどうやって運ぶんだい?」
「カートを運べるような道を作るか、調理場も2階に作るかね。わたしは調理場を作った方が良いと思うわ。あと、献立も出来れば選べた方が良いわ。今は日替わりのみだけど、大きな店はだいたい複数の料理を置いているの。料理人も増やさないといけないわね」
「随分な大工事になりそうだけど、お金は足りるのかい?」
「銀貨50枚程度で店は建てられる。内装を凝っても、銀貨60枚で足りるだろう。キョウスケ、お前の稼いだ金は大金なんだ。金の心配はしなくて良い」
銀貨60枚というと、一千二百万円程度で大きな店が建つという事だ。
確かに料理帳を売って、リーズヘッグは大金を得ている。
それが有意義に使われると言うのなら、俺は黙って待つだけであった。
「料理人は何人雇うんだい? 1階と2階で分かれるんだろう?」
「キョウスケとアイロスを入れて8名、余裕を見て10名ね。キョウスケは1階にいるだろうから、2階はアイロスに任せたら?」
「それぞれ4名ずつが助手になるわけだね。日替わりじゃないとしたら、相当混乱しそうだなぁ」
「店を作るなら、一度取り壊さないといけないわ。1ヶ月は休む必要があるわね。その間は、サフア屋の2階の調理場を使って、料理番に料理帳を叩き込むと良いわ」
カトリーヌはアイディアが次々出て来る。
さすが商売人の娘だ。
「アイロスにも相談しなきゃな。給仕は何人必要だろう?」
「2階は12人席の個室を10個、作るわ。1階は、カウンターが12席。6人がけのテーブルが、20個。カウンターと合わせて、合計252名入ることになるわね。二階は、予約か6名様以上のお客のみ入れましょう。テーブル料は青銅貨5枚頂戴するわ。1階に6名、2階に6名で、12名の給仕が必要ね」
「随分な増員だね。あと10人も給仕が増えるのか。接客や、料理名、質疑応答なんかも覚えて貰わないとね」
「接客を叩き込むのはプリムやジュレにも手伝って貰って、サフア屋で承るわよ。献立については、あらかじめ決めておいて貰いたいわ。来月、10月7日は空いていて?」
「うん、空いているよ」
「じゃあ、10月7日に、またわたしが《竜の跳ね鳥亭》へ来るから、料理名や説明なんかを、口頭で言って頂戴。わたしが書面にしたためるわ。あとは、エミューの車を停められるといいんだけど、無理かしら」
「場所が余っとらんぞ。駐車場は諦めろ」
「そうよねぇ。《アフロディーテ》に貴族が来るとき、みんなエミューの車に乗ってやってくるのよ。駐車場はないから、また時間を置いて迎えに来るの。それでやるしかないわね」
カトリーヌは残念そうに呟いた。




