《黒の拘束》のカレー
7月28日。
今日はリリアと逢い引きする日だ。
午前11時の鐘が鳴り、リリアが顔を出した。
無地のシャツに、朱色の巻きスカート。
胸には、俺の贈ったアミュレットが輝いている。
「キョウスケ、こんにちは。今日は、何処に行く?」
「今日も可愛いね、リリア。カトリーヌにカレーの取り扱い店を聞いておいたよ。《闇の拘束》、《笑顔亭》、《とさか亭》、《まろび猫》の4店舗だ。行ってみようか?」
「うん! じゃあまずは、《闇の拘束》から行ってみよう! しゅっぱーつ!」
俺とリリアは、手をつないで歩き出した。
「《アフロディーテ》がね、宿でも話題になっていたよ! 騎士が出入りしているから、女性客に、特に人気みたいだね」
「へえ、そうなんだね。ローガンやアーロンのおかげだね」
「特に菓子のコンテストで優勝した菓子が食べれるっていうのが、大きいみたい。キョウスケは凄いね。なんだか遠い人みたい」
「とんでもない。リリアがいてくれたから、優勝出来たんだよ。有名になっても、俺は俺さ」
「ん。キョウスケの隣には、いつもわたしがいるからね」
「うん。心強いよ」
15分程歩いて、料理屋に到着した。
中規模の店で、外観は普通だ。
「ここが、《黒の拘束》」
「外観は特に黒くないね」
「そうだね。料理が黒いのかも」
俺達は店に入り、給仕の案内で奥のテーブルに着席した。
「あ、献立にカレーがある。肉料理は適当に頼むよ?」
「うん。お願いね」
「すいませーん! カレーを2つと、兎肉の黒焼きを2つ、お願いします!」
「かしこまりました」
給仕がお茶を置いて下がっていく。
「料理、楽しみだね」
「うん。美味しいと良いな」
「そうだ。リリア、来月はいつ会おうか?」
「じゃあ、8月28日が良い。その日も、泊まっていく」
「了解。楽しみにしているね」
リリアが嬉しそうに微笑んだ。
それだけで、心が温かくなる。
好きだなぁ、と思うのだ。
しばらく待って、料理が届いた。
カレーは普通の色だ。
俺は煮汁をすくって、口に入れてみた。
辛さは、中辛程度である。
しかし、強い甘みも感じる。
少しアンバランスな印象だ。
具材は基本の3種と、ホウレンソウのごときテーペ、ナスのごときビトーである。
「カレーは、少し甘みが強いかな」
「ん。美味しい」
リリアが満足しているのなら、それでいい。
お次は、肉料理である。
丸い形状で、ごまのごときミロが表面を覆っている。
確かに外見は真っ暗だ。
それともう一種類、パプリカのごときディラーがみじん切りにされ、団子を覆っている。
黒と黄色と赤で、見た目はカラフルで綺麗だ。
ミロ団子のほうをかじる。
芳醇な肉の旨みと、中に隠されていた乾酪が混ざり合い、とても美味しい。
パプリカのごときディラーの団子も、食べてみる。
これは文句なしに美味しかった。
野菜の甘みと肉の旨み、トロリとした乾酪が、絶妙のハーモニーを奏でている。
少々塩気が強いかな、という位で、問題点も見当たらない。
「お団子、美味しいね」
「ん。とっても美味しい」
リリアの笑顔が可愛い。
俺はゆっくり料理を堪能するのであった。
食後に、店を出ると、リリアが宣言した。
「甘味屋に、行きます!」
「今日はどこに行くんだい?」
「《流浪の旅人》っていうところ。菓子のコンテストで優勝した事もあるんだよ!」
「へえ。そりゃあ凄い」
「最近は名前を聞かないけど、有名な店だよ。わたしも久しぶりに行くんだぁ」
「そっか。楽しみだよ」
「すっごく楽しみしててね!」
リリアと手をつなぎ、歩き出す。
リリアはご機嫌だ。
雑談をしながら、時間を過ごす。
20分程度歩いて、甘味屋に到着した。
「ここが、《流浪の旅人》」
店はそんなに大きくない。
綺麗な外観だ。
俺達は店に入り、給仕の案内で奥のテーブルに着席した。
「わたしのおすすめでいい?」
「良いよ。宜しくね」
「すいませーん! 星の輝きを2つと、お茶を2つ、お願いします!」
「かしこまりました」
給仕がお茶を置いて下がっていく。
「これはね、菓子のコンテストで優勝した菓子なの。その頃は珍しい手法だったんだよ」
「そっか。期待がふくらむね」
「これから、キョウスケみたいにヨーデルを使った菓子が増えるんだろうなぁ。優勝者の菓子って真似されるから」
「それはしょうがないと思うよ。美味しい菓子が増えるなら、大歓迎さ」
「キョウスケは心が広い」
「あはは。そうふくれなくても」
リリアの優しさの方が得難いのではないか。
俺はそう思うのだった。




