《ファーナード》のカレー
店の中に入り、給仕の案内によって奥のテーブルに着席する。
「あの、菓子のコンテストで出していた菓子が食べたいんですが、売っていますか?」
「ああ、野菜の団子汁ですねぇ。売っていますよ。青銅貨3枚ですね」
「じゃあ、それを2つと、お茶を2つ、お願いします」
「かしこまりました」
給仕はお茶を置いて下がっていく。
「ねえ、リリア。7月の逢い引きはいつがいい? 21日と28日なら、どっちが良いかな?」
「28日が良い。特別な日じゃないけど、泊まっていい?」
「勿論、歓迎するよ。二人で過ごそう」
リリアは嬉しそうに笑ってくれた。
「お待たせしました」
菓子が届いた。
黒い煮汁が器に満たされている。
煮汁には粒が浮かんでおり、美味しそうだ。
煮汁を飲んでみると、鮮烈な甘さが舌の上に広がる。
小豆のごときタペを使った煮汁である。
団子は、野菜が練り込まれている。
ホウレンソウのごときテーペ、ニンジンのごときメイリグ、サツマイモのごときダイナの3種類の団子だ。
それぞれの野菜の味が煮汁の甘さと相まって、菓子の味を成立させている。
「とても美味しいね。俺はダイナの団子が好きだな」
「とても美味しい。メイリグの団子が好き」
それにしても、これで青銅貨3枚は高いよな。
600円相当と思えば妥当なのかもしれないが、俺のヨーデルパフェはいくらで売られるんだろう。
カトリーヌに確認しなきゃいけないな。
店を出て、広場まで歩く。
広場に着いたら、椅子に座ってお喋りだ。
「今日は何のおとぎ話?」
「今日は、浦島太郎のお話だよ。昔々あるところに、青年がいました……」
リリアはじっくり聞いている。
俺が話し終えると、リリアは涙目であった。
「浦島太郎が可哀想」
「ごめんね。こういう話なんだよ」
リリアのご機嫌はなかなか回復しなかったが、雑談をするうちに、笑顔を見せるようになった。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
気付けば午後5時の鐘が鳴っていた。
俺達は腰を上げ、料理屋に向かった。
その店には、20分程で到着した。
「ここが、《ファーナード》」
店に入り、給仕の案内によって奥のテーブルに着席した。
「カレーと肉料理と……あっ、菓子が食べたい。頼んで良い?」
「勿論。俺の分も頼んでくれよ」
「わかった。すいませーん、カレー2つと、兎肉の細切り炒め2つと、菓子のガル飴を2つ、お願いします!」
「かしこまりました」
給仕はお茶を置いて下がっていく。
「カレー、すごく楽しみ」
「俺もだよ。美味しいと良いね」
しばらくして、料理が到着した。
カレーは、普通の色である。
煮汁をすすってみると、驚くほど甘かった。
具材は煮るのではなく、黒胡椒をきかせて炒めたもののようで、面白い試みだなぁと感じる。
具材は基本の3種類で、スパイシーな味わいだ。
煮汁の甘さと具材の辛さが溶け合う美味しさは、珍しいものだ。
「カレーは、なんだか、面白い味わいだね」
「ん。カレーは全部美味しい。カレーは至高」
リリアはご機嫌であった。
お次は、肉料理である。
野菜はホウレンソウのごときテーペで、肉も野菜も細切りにされている。
口に入れると、複数の香草で炒められているらしく、けっこう辛めだ。
肉の旨みと相まって、結構美味しい。
「美味しいね」
「ん。辛くて美味しい」
リリアが上機嫌で、嬉しい。
俺達の皿が空いた頃合いで、菓子が届いた。
イチゴのごときガルがつやつやと輝いており、皿に3つ乗せられている。
俺は木匙ですくい上げ、口に運んだ。
しゃりっとする歯ごたえがあり、甘いガルの美味しさが口いっぱいに広がる。
これは飴でガルをコーティングした菓子であるようだ。
「美味しいね」
「ん。とっても美味しい」
俺とリリアは、ゆっくり菓子を味わった。
食後に店を出て、手をつないで歩く。
「今日のカレーも美味しかった! でも、全部行き終わっちゃったね」
「そうだね。カトリーヌにまた聞いておくよ」
「ん。出来れば、カレーを食べに行きたい」
「わかった。後は《アフロディーテ》のプレオープンも楽しみだ。きっと素敵なお店になるよ」
「ん。とても楽しみ」
空には月が浮かんでいる。
俺はリリアと過ごす時間が、とても楽しい。
やがて、《竜の跳ね鳥亭》へ到着した。
俺の部屋に入り、ベッドに腰掛ける。
「シャワーを借りたい」
「いいよ。場所は覚えてるかな?」
「ん。大丈夫。行ってくるね」
リリアは荷物を持って出ていった。
俺は胸が沸き立つのを押さえられなかった。
半刻程経って、リリアが戻ってきた。
洗い髪が色っぽい。
「じゃあ、俺もシャワーを浴びてくるね」
俺はゆっくりシャワーを浴びた。
リリアの事が愛おしい。
お泊まりしてくれるのが嬉しい。
誕生日をリリアが祝ってくれることが、とても嬉しかった。
シャワーを終えて、部屋に戻る。
リリアの隣に座って、リリアを見る。
「キョウスケ、誕生日おめでとう。来年も、その先も、ずーっと一緒にいてね」
「うん。約束する。リリアに祝って貰えるのが、一番嬉しいよ」
俺はリリアを抱きしめて、口づけをした。
そっとリリアの身体を押し倒す。
リリアは俺を抱きしめ返してくれた。
こうして、俺の誕生日祝いの日は終わっていく。
リリアを抱きしめられる今が幸せでたまらない。
来年も、その先も、ずっとリリアと過ごしたい。
俺はそう願うのだった。




