《天上の花》のカレー
「着いた。ここが《天上の花》」
そこは小洒落た小さめのお店だった。
中に入ると、給仕に案内されて、奥のテーブルに案内された。
「献立は日替わりのみって書いてある。聞いてみよう」
「うん」
「すいません。今日はカレーを出していますか?」
「ええ。カレーは人気がありすぎて、毎日出しておりますよぉ」
「じゃあ、日替わり2つでお願いします」
「かしこまりましたぁ」
給仕がお茶を配膳してくれた。
俺はお茶に口を付けて、喉を潤す。
「毎日出すなんて、さすがカレーは人気だね」
「ん。とても嬉しい」
「今日は俺も特別なカレーを用意しているよ。ここのカレーと食べ比べて貰えれば、嬉しいよ」
「すっごく楽しみ。期待で胸がいっぱい」
「今日はリリアにとって、最高の1日になると良いね」
「ん。3月10日に仲間に祝って貰えたから、十分幸せだけど、今日も楽しい」
「それは良かったよ」
そこで、料理が届いた。
カレーにはアスパラガスのごときジェランが真ん中に乗っている。
カレーと一緒にすくって食べてみると、アスパラガスのごときジェランは、蜜漬けにしていたもののようだった。
カレーは辛口で、甘い香草がふわりと香る。
辛口のカレーと、甘いアスパラガスのごときジェランで、調和が保たれている。
具材は基本の3種類が使用されているようだ。
「これは美味しいね。甘いジェランと辛いカレーが合っているよ」
「ん。とっても美味しい」
俺は肉料理を見てみた。
赤い香辛料のかかった兎肉に、野菜はジャガイモのごときフォンディ、ニンジンのごときメイリグ。
平べったいサフアがついている。
俺は具材をサフアで巻いて、口に運んだ。
味は、はっきりと辛い。
しかし、兎肉に合った味付けだ。
野菜は柔らかく甘めに煮付けられており、辛い肉の味と調和している。
これは結構好きな味だ。
「肉料理も美味しいね。野菜が甘くて、肉が辛い。楽しい味わいだ」
「ん。とっても美味しい。城下町の料理も、野菜を甘く煮る事が多かったよね」
「そうだね。俺もメイリグは甘く煮るんだけど、セルルやジェランを甘く煮たりしないな。俺はこのあたりでは、ちょっと珍しい料理番なんだよね」
「キョウスケの料理は、風変わり。でも食べやすくて、とても美味しい」
「ありがとう。ここの料理も、美味しかったね」
「ん。カレーは至高。来月、《コキュートス》に行ける?」
「うん。今から日付を決めて置こうか。4月で空いている日はいつ?」
「4月14日はどうかな」
「いいよ。じゃあ、次は4月14日に会おう」
リリアは嬉しそうに微笑んでくれた。
食後に店を出て、リリアが宣言した。
「甘味屋に行こう!」
「うん。今日は何処に連れて行ってくれるんだい?」
「今日はね、《兎の長耳亭》っていうお店!」
「そっか。とても楽しみだよ」
20分程歩いて、《兎の長耳亭》へ到着。
けっこう大きなお店だった。
中に入ると、すぐにテーブル席へ案内された。
「じゃあ、わたしのおすすめを注文するね!」
「うん。宜しく頼むよ」
「すいませーん! イノッサのサフア焼きを2つと、お茶を2つ、お願いします!」
「かしこまりました」
給仕が下がっていく。
「菓子にイノッサを使うのは珍しいね」
「でしょう? でもね、甘くて美味しいんだよ」
「そいつは楽しみだ」
しばらくして、菓子とお茶が運ばれてきた。
菓子は、カップケーキのような焼き菓子である。
二つに割ってみると、中に餡が詰め込まれている。
片方を口に入れると、イノッサの酸味と蜂蜜のような蜜の甘さが舌の上に広がった。
このふんわりした食感の生地からは、ヤマイモのごときマロイモの風味がする。
野菜の味が豊かで、美味しい菓子だった。
「とても美味しいよ。甘いイノッサも悪くないね」
「ん。とても美味しい」
お茶を飲みながら、ゆっくり菓子を堪能する。
リリアのおすすめは、ハズレがないから、安心だ。
食後は、店を出て広場を目指す。
広場に着いたら椅子に座って、雑談を楽しむ。
「この間、仲間と行った料理屋がね、潰れそうだったの。料理はね、塩辛くて、菓子も美味しくなかった。でもね、店主が困り切ってたから、カレーの話をしたの。カレー粉がサフア屋から買えるから、駄目元で作ってみたら? ってね。来週、またそのお店に行ってみるつもりなんだよ」
「へえ。それでお客が呼べるようであれば、何よりだね」
「肝心の肉料理もなんとかすべき。勿論菓子もそう。そう言ったらね、料理の腕に自信がないって、泣いちゃうの。こういう時は高名な料理人の料理帳を買って、お店のテコ入れをするのが普通なんだって」
「なるほど。それは費用がかかるね」
「問い詰めたら、3つ、買える貯金を持ってた。3つの料理を日替わりで出すの。良い考えでしょ? キョウスケがその店主に教えるとしたら、どんな料理にする?」
「俺が選ぶなら、焼き料理、揚げ物料理、煮込み料理。その3種類だね。まずは適切な塩加減からだ」
料理の話ならどんと来いだ。
俺は楽しい気持ちで、料理を思案する。




