プリムの参戦
「お待たせしましたーっ! プリム、参上ですっ!」
その夜はいつも以上の客入りだったので、プリムの参戦が心よりありがたかった。
俺は調理場から、プリムの奮戦を見守ることにした。
「2階に荷物は置いてきたか?」
「はいっ! まずは何からやりましょうか?」
「うちの献立は日替わりの一種類しかない。あとは酒だな。茶は無料で一杯配っている。日替わりは青銅貨5枚、酒は果実酒1本青銅貨1枚だ。今日は干しワズルで割ってる。まずはあの客の注文を取ってきてくれ」
「はーいっ! お待たせしましたぁ!」
「日替わり一つ頼むよ。あと、酒を頼む」
「かしこまりましたぁ!」
戻ってきたプリムが俺の前で注文を読み上げる。
酒はあらかじめ用意してあるので、それをお盆に乗せて渡す。
プリムは、すぐにお客さんにお酒を届けて、舞い戻ってくる。
「はい、奥の4番テーブルの4人前、上がったよ」
「はいっ!」
「次はカウンターの12番席!」
「はいっ!」
「これは2番テーブルの菓子だよ」
「はいっ!」
俺は次々に料理を仕上げていく。
プリムは軽やかにお客との間をいったりきたりしており、その顔は実に楽しそうな笑顔であった。
プリムは物覚えも良く、失敗らしい失敗もない。
そして鐘8つが鳴る頃は満員御礼、お客も実に楽しそうな面持ちだ。
その中の強面のお客さんが、プリムを呼びつけた。
「お前、なかなかの美人じゃねえか。今夜お前を一晩買ってやろうか?」
男はにやにやとしており、存分に酔っ払っているようだった。
俺が慌てて客席まで出ようとしたとき、プリムの毅然とした声が響いた。
「ごめんね、あたし自身は売ってないんだ。お詫びに、一曲歌わせてよ。せめて楽しい気持ちで酔っ払ってちょーだい!」
プリムはリーズヘッグの許可を取ってから、客席で立ったまま歌い始めた。
俺にとっては、異郷の歌である。
それは労働で疲れ果てた男が美しい女と一曲踊ってぐるぐる回る、愉快な曲であった。
プリムの声は高く清らかで、店中に響き渡った。
お客は手拍子や口笛ではやしたてている。
俺も皿を洗いながら拝聴させて頂いた。
耳にすうっと入ってくる、気持ちの良い歌声である。
やがて歌が止み、プリムが一礼すると、拍手が爆発した。
「いやぁ、いい歌いっぷりだったぞ!」
「酒を一杯奢ってやるよ!」
「他にも歌えるのか?!」
お客は大興奮でプリムに声をかける。
俺は菓子を並べながら、プリムに合図した。
「そろそろ菓子をお出しするので、歌はここまでです! また明日、聞きに来て下さいっ! お酒は、お店を閉めた後、頂きます!」
プリムを買おうとした客も、楽しそうに酔っ払っている。
俺は改めてプリムの得難さを思い知ったのだった。
やがて、午後9時の鐘が鳴り、閉店である。
最後のお客が出て行くのを待って、店の鍵を閉める。
「お疲れ様、プリム。お腹がすいたろう? 今とんかつを揚げるから、少し待っていてね」
「はーいっ! とんかつって、今日の日替わりでしょ? お客さんが美味しそうに食べてたから、すっごい気になってたんだーっ!」
「うん。これからは、朝食にお昼に出す日替わり、昼食に夜に出す日替わり、夜はまかないってかんじの献立になるよ。うちで出す料理の味を知ってほしいからね」
「了解でーすっ! じゃあ、お二人はとんかつじゃないの?」
「うん。ちょっとした炒め物を作るつもりだよ」
「ここの料理って、うちの宿屋でも評判になってたよ! あたし、料理の美味しいお店で働きたいーって思ってたから、すっごく嬉しかったんだーっ!」
にこにこと嬉しそうなプリムの前に、お客が奢ってくれた酒を置き、とんかつとフランスパン、汁物料理を置いた。
「あと、菓子のプリンがあるからね。お先にどうぞ」
「ありがとうございまーす! おなかぺこぺこですっ!」
プリムは木匙を取り上げて、まずとんかつを口に入れた。
入念に咀嚼したあと、ごくんと飲み下す。
俺は兎肉の炒め物を作りながら、プリムの反応を待った。
「何これっ! こんなの食べた事なーいっ! キョウスケ、すっごく美味しいっ!」
「そっか、お口に合って良かったよ」
俺は焼き上がった炒め物を皿に乗せて、カウンターに並べていく。
汁物料理を取り分け、フランスパンを添えたら完成だ。
リーズヘッグの隣に腰を下ろして、食べ始める。
「そうだ、リーズヘッグ。明日の日替わりに、チコの実を使おうと思うんだけど、許可を貰えるか?」
「チコの実って、あの辛い実のことだろう。あんなもんを使って、美味い料理が作れるのか?」
「まずは朝食の時に作って見せるから、それで判断しておくれよ。辛い料理は、好まれないものなのかい?」
「いや、東の方ではもっと辛みの強い料理が主流だと聞く。この町でも、辛い料理を出す料理屋はあるはずだ」
リーズヘッグがそう答えた後、プリムが、お酒を飲みながらにこやかに付け足した。
「でも、辛い料理に免疫のある人間ばっかりじゃないから……辛さは抑えめにした方がいいと思うよ? あたしは東の国も行ったことがあるんで、辛くても平気だけどね!」
「そっか。十分に注意して作ろうと思うよ」
俺もフランスパンを口に放り入れて、明日の献立を思案する。
この国は香草が豊富のようだから、ひょっとしたらカレーを作れるかもしれないと、そのように念じていたのである。
でも、そんなに辛みに免疫がないならば、需要はないだろうか。
それでもリーズヘッグには、香草を買い込んできて貰おうと思う。
カレーのスパイスを炒めてカレーを作ったことは、一度だけある。
俺は料理が趣味であったから、何でも自作にチャレンジしていたのだ。
明日は、香草の準備を始めよう。
俺は胸が沸き立つのを感じながら、お茶をぐいっと飲み干した。




