元気な女の子
タマネギのごときカペラと、ニンジンのごときメイリグ、ジャガイモのごときフォンディ、キャベツのごときノーマと、牛の肉のスライスを煮込み、醬油のごときユーカンで味をつける。
カツには兎の肉を使う。
一枚肉を筋切りし、両面塩胡椒で下味をつける。
サフアを両面にまぶした後、溶き卵、パン粉の順にまんべんなくつける。
マオマオの油を鉄鍋に熱して、肉を揚げていく。
こんがりきつね色になったら油から引き上げて、油を切る。
つけあわせは、キャベツのごときノーマの千切りに、タマネギのごときカペラのみじん切りと、醬油のごときユーカン、マオマオの油で作ったドレッシングをかける。
レモンに相当する果実はまだ見つけられていないので、これで完成だ。
ちなみに、とんかつソースは自作することが叶ったので、とんかつにかけさせて頂いた。
とんかつは食べやすい大きさに切り分けて、皿に盛る。
フランスパンは輪切りにしたものを、横に添えた。
リーズヘッグと俺の分を、カウンターに並べて、椅子に腰掛けた。
「さあ、食べてみてくれ。兎肉のとんかつだ!」
「うむ」
俺も木匙を取り、とんかつの切り身を口に運ぶ。
サクッとした食感の後、兎肉の旨みが口いっぱいに広がった。
臭みはない。
肉汁は後から溢れてきて、肉も固すぎず、良い具合だ。
「これは……美味だな」
「そっか。リーズヘッグの口に合ったなら良かったよ。欲を言えば、ここに酸っぱい果実を添えたいところだね」
「酸っぱい果実? ううむ……では、レィモンであろうな。今夜は間に合わぬが、次の機会には買ってきてやろう」
「うん。それと……店員はもっと増やさないのかい? 今日もリーズヘッグだけじゃ、いっぱいいっぱいだったろう」
「ううむ。新しい従業員については、考えなくもない。ただ、人を派遣する人材屋で、昔二人の店員を雇っていたんだ。しかし遅刻はするし、態度は悪いしで、二人ともクビにしてやったんだ」
「ふむふむ。それはしょうがないんじゃないのかな?」
「しかし、俺も人材屋を信頼できなくなっちまってな。それ以来没交渉なんだ。信頼の置ける人材ってのは、どこでも引っ張りだこさ。うちみてえな小さな料理屋に来てくれるような人材は、どこか問題を抱えてるもんさ」
「うーん。でも言うほどこの店って小さくないよね? 店員は増やした方がいいと思うけどなぁ」
そこで、入り口が開いた。
お客さんが入ってきてしまったのかと思ったけれど、それは昼間の少女のようだった。
フードをはねのけた少女は、紫色にきらめく瞳で店内を見渡す。
「約束の金を持ってきた。これを受け取って欲しい」
リーズヘッグが相対し、金を受け取る。
「うむ。丁度受け取った。お前さんは義理堅いようだ」
「ただ食いはしない。この店の評判は、うちの宿でも人気だった。食べてみて、納得した。とても美味」
「ありがとさん。また気が向いたら食いに来てくれ」
「わかった。……先程、声が聞こえてた。この店、従業員を探しているの?」
「ああ。今のところ心当たりもねえがな」
「ちょっと待って。……プリム、入ってきて」
「はいは~い。あたしに何か用?」
入ってきた女性は、真っ赤な燃えるような髪をポニーテールにしており、大きなくりくりの瞳は桃色であった。
年の頃は、10代後半であろう。
起伏に富んだ抜群のプロポーションが、服の上からでも見て取れた。
「この店は従業員を探しているの。あなた、応募してみたら?」
「へえっ! こんな大きな店なのに、二人ぽっちしかいないの? じゃあじゃあ、あたしを雇ってみない? あたし、プリム! 18歳だよ!」
「お前さんは財宝漁りじゃねえのか?」
「ううん、財宝漁りをしてるよーっ! でもね、目的は達成しちゃったんだ! あたしは弟の病気を治す薬が欲しくて、財宝漁りをしてたの! でも、手に入って病気も治ったから、もう良いんだよねっ!」
「では、故郷に帰らなくていいのか?」
「家は弟が継ぐし、家に帰ると誰かと結婚させられちゃいそうでさぁ! あたしは剣士だけど、歌が好きなんだ! たまーにお店でも歌って良いなら、最高なんだけど!」
「ふむ。キョウスケはどう思う?」
「うん。プリムを雇わせて貰おうよ。夜なら歌を歌って貰っても、良いんじゃないか? 雇ってみて、問題があったらその都度話し合おうよ」
「わかった。プリム、俺が店主のリーズヘッグ、あっちが料理番のキョウスケだ。いつから働ける?」
「雇って貰えるの? わぁーい! じゃあ、今夜から働かせてくれる? あと、出来れば食事も出して欲しいんだよねーっ」
「食事はまかないを出すが、泊まるところは宿屋か?」
「うん。今はちょっと遠い宿屋に泊まってるから、近くの宿にしよっかなーって思ってるけど?」
「うちの2階に空き部屋があるが、住み込みで働くか? 男所帯だが、浴室もあるし、快適に過ごせるだろう。家賃は月に黒銅貨15枚でどうだ?」
「えーっ! あたし、住み込みで働く! 家賃が激安じゃん! リーズヘッグ、キョウスケ、これから末永く宜しくね!」
「うん、よろしく。これから宿屋に荷物を取りに行くんだろう? 午後5時から店を開くけど、今日は間に合わないだろうから、気にしないでね」
「わかった! じゃあ荷物を取ってくるね。いやー、リリアに着いてきただけなのに、得しちゃったなーっ!」
「君は、リリアって言うの?」
黒髪を揺らしたリリアは、俺をまっすぐ見つめてきた。
「わたしは、リリア。プリムの財宝漁りの仲間よ。わたしは財宝漁りを続けるから、たまに寄らせて頂くわ」
「わかった。ご来店をお待ちしています」
それでリリアとプリムが退店したので、俺は食べ終わった食器を片付けた。
俺は、リリアの意思の強そうな瞳が気に掛かっていた。
リリアは、財宝漁りを続けると言っていた。
彼女は、何を求めて財宝漁りをしているんだろう。
「財宝漁りか……」
「どうした? お前さんの故郷にはダンジョンはなかったか」
「うん。縁遠い職業だなぁって思ってさ。俺は荒事が苦手だから、余計にそう思うのかもしれないな」
「財宝漁りは公的に認められた職業だが、五体満足で望みを叶えた人間は少ない。プリムは随分頑張ったのだろうし……望むお宝を引き当てた事は、内緒にしておくべきだろう」
「うん、わかった。誰にも言わないよ」
俺は夜の仕込みをしながら、店内を見渡した。
カウンター席に16名座れて、奥に6人がけのテーブルが6つある。
今晩からは、プリムが給仕を手伝ってくれるのだから、いつも以上に忙しくなることだろう。
あんな元気いっぱいの女の子がうちの店で働くなんて、なんだか楽しい気持ちだ。
俺は浮き立つ気持ちのまま、薄く微笑むのだった。




