《メロウの庭》の菓子
「お待たせ致しました。3色の団子汁です」
器に無数の団子が盛られている。
団子の色は、白、橙色、桃色。
スープの色は、無色だ。
俺はまず団子を食べてみた。
橙色の団子の中身の餡は、果実のジャムである。
果肉も混ぜてあるようで、しゃくしゃくと心地良い。
これはリンゴのごときケイルの餡だ。
器に満たされた汁は、果実の甘みが強い。
汁をすくって食べると、見事な調和が得られる。
白色の団子の餡は、ごまのごときミロ団子だ。
そして桃色は、オレンジのごときパーリーのジャムであった。
どの団子も美味しく、俺は汁まで完食した。
「いやぁ、美味しかったよ。特にパーリーの団子が好きだな」
「わたしは、ケイルの団子が好き。《月影亭》の前菜で、3色の煮豆が出たでしょう? そしたら、ここを思い浮かべたの。キョウスケと来ようって決めてたんだ!」
「嬉しいよ、リリア。さすが、色んなお店を知っているね」
「まあね。《銀の匙》が甘味屋を開くのも、楽しみにしてるんだよ? 美味しいって噂がなくても、わたし達は行ってみるんだよね。失敗することもあるけど、隠れた名店も探し出せるんだよ」
「そりゃあ、すごいや。《銀の匙》は、お客は来ると思う?」
「キョウスケの料理帳だもの。きっと大人気になるに間違いないわ。わたし達も行くしね!」
「そっか。それなら少しは安心かな」
リリアは少し思い悩んだ顔をした。
「キョウスケ……今度、誕生日のお祝いが終わった後でいいんだけど……仲間の相談に乗ってあげて欲しいの」
「俺で力になれることかな?」
「実は怪我が原因で、財宝漁りを引退した仲間がいるの。お金を貯めて、店を始めたかったそうなのよね。料理帳は1つしか買えない位しか、貯金はないんですって。それでも料理店をやる夢を諦められないそうなの」
「なるほど。怪我はどんな感じなの? 痛んだりしない?」
「怪我は走れない位で、完治しているの。痛むことはないって聞いたわ。要するに、料理帳一つで店を建てられる位、稼ぎたいわけなのよ。無茶を言っているけど、どうにか出来る?」
「そうだね。俺は露店を開くしかないように思うよ。露店の貸し出しは安価だし、初期費用も安く済む。荷車が押せるようなら、おすすめだよ」
「なるほど。露店は頭になかったわ」
「あとはその人が納得出来るような料理帳だよね。わかった。何か考えてみるよ。良ければ、3月28日に、一度《竜の跳ね鳥亭》へ連れてきて貰えないかな? リリアの仲間達も呼んでさ。料理の試食会を開こうよ」
リリアはびっくり眼で俺を見た。
「もう、料理を思いついたの?!」
「今、丁度面白い料理を考案中なんだよ。それがうまくまとまれば、ぴったりじゃないかな」
「キョウスケも忙しいのに……ありがとう。彼はウェルっていうの。今はうち沈んでるけど、3月28日は、きっと連れて行くから!」
「うん。ウェルが元気になると良いね」
試作する時間があまり取れないが、なんとかやりくりするしかないだろう。
3月7日は《まぼろし亭》へ訪問。
3月14日は、リリアの誕生日のお祝い。
3月21日は、《銀の匙》の面々に料理帳を伝授する日。
3月28日は、ウェルの為の料理の試食会。
予定が詰まっている。
一つずつ、こなしていくほかないだろう。
店を出て、広場まで歩いた。
広場では椅子に座って、雑談である。
お互いの初恋の人を語ったり、好きなぬいぐるみの話を聞いたり、話題には事欠かない。
楽しい時間が過ぎるのは、あっという間だ。
気付けば日が落ちて、午後5時の鐘が鳴った。
俺達は《時計亭》へ向かった。
「ねえ、キョウスケ。キョウスケの誕生日は、何をして欲しい? 欲しいものはない?」
「俺に料理を作らせて欲しいかな。それで夜も一緒にいてくれたら、嬉しいな」
「うん。叶える。欲しいものは?」
「特に思いつかないな。調理道具も充実してるしね。贈り物は、必要ないよ」
「ん。わかった。精一杯お祝いしてあげるからね」
「その気持ちだけで十分さ。ただ、6月24日は仕事だから、6月28日にお祝いしてくれ」
リリアは頷いてくれた。
《時計亭》に到着し、中へ入る。
給仕に案内されて、奥のテーブルに座った。
「あ、献立にカレーって書いてある。肉料理も、適当に頼むね。あとこの店は菓子がある! 菓子も頼むね」
「うん。宜しく」
「すいませーん! カレー2つと、兎肉とメイリグの炒め物を2つ。それと菓子のメリボーのサフア巻きを2つお願いします!」
「かしこまりました」
給仕が下がっていく。
「ここ、初めてのお店なの。どんな料理が出るだろうね」
「そうだね。俺も楽しみだな」
「3月14日の料理は、どんな料理だろう。キョウスケの事だから、きっとすごく美味しいに違いないよ!」
「うん。美味しい料理でおもてなしするよ。内容は、秘密。当日のお楽しみだね」
「わかった、我慢する……。すっごく楽しみにしてるからね!」
「うん、俺もリリアの感想を楽しみにしているよ」
俺は心からの笑顔をリリアに届けて見せた。
リリアも、幸せそうに笑ってくれた。




