アグムドの挨拶
「お次は、肉料理でございます。兎肉の揚げ物になります。ごゆっくりお召し上がり下さい」
揚げ物と言われたが、皿には四角に切られた薄い板があり、下にクリームと、キャベツのごときノーマが見えた。
突き匙で突つくと、板はあっけなく割れた。
クリームと一緒に食べてみると、それは薄く伸ばした兎肉を揚げたものであり、クリームは濃いめの出汁と塩気がきいていた。
キャベツのごときノーマを食べてみると、果物の甘さが感じられる。
キャベツとクリーム、兎肉の板をいっぺんに食べたら、一番美味しかった。
「これは美味しいですねぇ。塩気と甘さが丁度良いです」
「乳脂を使わぬ料理は城下町では流行遅れとされるはずだが……キョウスケの料理とは、別種の美味さだ」
アディスとアイロスが、そう感想を述べた。
「最後に、菓子でございます。朝顔の花とミロの団子になります。ごゆっくりお召し上がり下さい」
「これは……花そのものですね」
「食用の花を蜜漬けにして、使用しております。安心してお召し上がり下さい」
皿には、大ぶりの花弁を持つ花が乗せられていた。
皿にはとろりとした煮汁が満ちており、甘い香りがしている。
粒の残った団子が4つ、浮かんでいる。
まずは花弁から食べさせて頂いた。
強い甘みと果実の酸味が舌を跳ね回る。
煮汁は牛の乳を使っており、練乳のような粘度を持っていた。
それが花に絡みつき、またとない味わいを実現している。
団子は餅米のごとき、ポッカの粒が残る程度に潰されており、餡の甘さと混じり合いながら、喉を通っていく。
総じて、美味しい菓子だった。
「すごく美味しかったよ。俺は好きな味だった」
「花が甘い味で、嬉しかった。煮汁もお団子も花も美味しかった」
リリアは嬉しそうに微笑んでいた。
全員の皿が空いた頃、店主のアグムドが挨拶に出向いてくれた。
「《月影亭》へようこそ、皆さん。料理のお味は如何でしたか?」
「とても美味しかったです。食べ慣れない味わいでしたが、食べやすかったです」
「俺は乳脂を多用しません。なので、うちは流行遅れとされていますが、味では《六角亭》に負けぬつもりです。キョウスケは《六角亭》で、どんな感想を抱きましたか?」
「いやあ、全てに乳脂が使われていたので、驚きました。少々味が濃かったのですが、美味しかったですよ。でも、《月影亭》も負けていませんね」
「当然です。同じ異国の料理番同士、お互いの料理が口に合うのではないかと思っていましたが、やはり美味しいと言ってくれましたね。《六角亭》の店主もうちに食べに来た事がありますが、ボロクソ言って帰っていきました」
「ええ、それは酷いですね」
「口に合わなかったなら、仕方ありません。俺は自分の料理に自信を持っています。無理に乳脂を使う必要はないと考えているのです。それでも、お客は大勢来てくれていますので、満足しています」
「なるほど。俺も乳脂は多用する意味を見出せません。きっと求める味が異なるのでしょうね。あの、《まぼろし亭》は、どんな料理屋なんでしょうか? 来月にお邪魔する予定なのです」
「ほう。それは興味深い。《まぼろし亭》は、乳脂を適度に使う料理屋です。野菜料理がお得意ですよ。きっとキョウスケは気に入ります。楽しみにしておくと良いですよ」
俺が頷くと、アグムドは一礼して去って行った。
俺はアグムドに好感を抱いていた。
城下町では、気軽に食べに来る事も出来ないが、また食べたいと思うくらい美味しかったのだ。
この世界に来て、そんなことは初めてだった。
帰りの車の中では、料理の感想を言い合った。
「前菜からして、不思議な味わいだったよね! でも、すごく美味しかった!」
「ぼ、僕もこんな料理、初めてです。食べやすくて、美味しかったです」
「俺は野菜料理と菓子が美味かったぞ。キョウスケの他にもこんなに美味い料理を作れる料理番がいるんだな」
「わたしは、肉料理と菓子が気に入ったわ」
「全部美味しかった。特に菓子が美味」
プリム、ジュレ、リーズヘッグ、カトリーヌ、リリアの順で、感想を述べ立てた。
「あたしも、すごく美味しかった! 特に肉料理と菓子ね!」
「連れてきて貰えて良かったです。全て美味しかったですよ」
「美味かった。こんな料理もあるのかと、勉強になったな」
「夢のように美味しかったです。特に菓子に感動しました」
ファナ、アディス、アイロス、リエルの順に感想を述べ立てる。
「みんなの口に合ったようで良かったよ。3月7日の《まぼろし亭》も楽しみだね」
美味しい食事の余韻に浸りながら、雑談を楽しむ。
今日は良い日だったと、車に揺られるのだった。
2月22日から2月27日まで、平穏に営業をすることが出来た。
露店も全て売り切ったとのことである。
常連の、ダビとルルイエ、リリアとその仲間達、ローガン率いる騎士達も、来店してくれた。
ローガンには、《六角亭》と《月影亭》の感想を伝えて、重ねてお礼を申し上げた。
「良いって事よ! 美味かったと言って貰えて、感無量だ。キョウスケも良い経験になったようだな。俺は実は、《六角亭》より、《月影亭》や《まぼろし亭》の方が好きなのだ!」
ローガンはそのように言っていた。
2月28日。
今日はリリアと逢い引きである。
午前11時の鐘が鳴った後、リリアが《竜の跳ね鳥亭》へ到着した。
「お待たせ。行こうか」
リリアはワンピース姿だった。
今日もとても愛くるしい。
「今日も可愛いね。じゃあ、手をつないでみないか?」
「ん。いいよ」
俺達は手をつないで、道を歩いた。
幸せでたまらない。




