リリアの誕生日プレゼント
「お次は、肉料理でございます。兎肉の重ね焼きになります。ごゆっくりお召し上がり下さい」
その肉は塊ではなく、薄く焼かれた肉をミルフィーユのように重ねた料理であった。
乳脂の風味も濃厚だが、清涼感のある香りもする。
俺は突き匙で取り分け、口に運んだ。
煮汁は濃厚で、どっしりとした旨みを感じる。
肉は薄いが、重ねることにより、十分な食べ応えを実現している。
「これは……美味しいな」
俺はそう、呟いた。
「ん。美味しい」
リリアも瞳を輝かせている。
美味しい肉料理を食べつつ、お酒を楽しむ。
俺はとても手の込んだこの料理に感銘を受けていた。
「最後に、菓子でございます。ギュリとケインの乳脂煮になります。最後までごゆっくりお楽しみ下さい」
ギュリとは何の果実であろう。
果実の上に細くソースが幾重にもかけられている。
その上に、パイの破片があちこちに散っていた。
俺は突き匙で果実を頬張った。
とたんに、強い乳脂の風味と、果実の甘さが舌の上に広がった。
ギュリとは、イチジクのような果実のようだ。
甘さは砂糖だけでなく、他の果実の味もする。
甘い香りの香草がやや過剰に感じられる位で、フルーティーで甘く、美味しい菓子だ。
「美味しい菓子だね?」
「ん。とても美味しい」
リリアも満足したみたいだ。
その後はひとしきり雑談と酒を楽しんで、お開きとなった。
帰りの車に乗り込み、検問所を目指す。
車内の話は先程の料理についてであった。
「いやー、乳脂の料理ばっかりで、びっくりしちゃったよ。肉料理と菓子は美味しかったけど、ちょっぴり味が濃かったね!」
「ぼ、僕は食べ慣れた味の筈が、あまり美味しいと思いませんでした」
「良い記念になっただろうさ。城下町では、こういう味が喜ばれるわけだな。汁物料理は、口に合わなかったぞ」
プリム、ジュレ、リーズヘッグの順に感想を述べ立てた。
「わたしは、だいたい美味しく頂けたわ。貴族の会食で、食べ慣れてるからかしら」
「特に肉料理と菓子が、美味だった」
「俺も肉料理と菓子かな。全体的に、味が濃かったね。それが城下町では、喜ばれるんだと思うよ」
「俺は肉料理も少し重たく感じたな。美味かったのは、菓子だけだ」
「わたしは、全部知らない味で、胸がいっぱいです。連れてきてくれて、ありがとうございました」
「リエルも楽しめたんなら良かったね! あたしも肉料理と菓子が、美味しかった!」
「皆さん、楽しめたようですね。俺には乳脂が少しくどく感じられてしまうのですが、菓子は美味しかったですねぇ」
アイロス、リエル、ファナ、アディスの順に感想を述べ立てた。
総じて、味が濃くて乳脂がくどく感じるものの、美味しいと思える料理もあった。
俺達の《六角亭》体験は、それで終了したのだった。
2月8日から2月13日までは、平穏に営業する事が出来た。
露店も全て売り切り、絶好調である。
ダビとルルイエ、リリアと仲間達、ローガン率いる騎士達など、常連さんも来店してくれた。
2月14日。
今日の休日は、リリアの誕生日プレゼントを買いに行くのである。
候補は、アミュレットの首飾り。
朝食後、さっそくリーズヘッグと出かけた俺は、沸き立つ気持ちを抑えられなかった。
「ここが宝飾品の店だ。さぁ、入るぞ」
大きくて小洒落た内装の店に入る。
ショーケースが並べられており、きらびやかな宝石が並んでいる。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「婚約者に首飾りを贈りたくて……アミュレットってありますか?」
「勿論ございます。こちらへどうぞ」
奥の小部屋に通され、お茶まで出て来た。
真っ赤な布が敷かれた箱に、いくつかの首飾りが並べられる。
「どうぞ手に取って、お確かめ下さい。護身の護符を埋め込んだアミュレットの首飾りでございます」
首飾りは綺麗だったが、石は小粒だった。
宝石との違いはさっぱりわからない。
「もう少し大きい石のものは、ありますか?」
「ございます。少々お待ちください」
店員が持ってきた石は、豆粒程度の大きさだ。
「アミュレットは高いぞ。小粒でも銀貨が必要になる」
リーズヘッグがそう、助言をくれた。
「失礼ですが、ご予算はいかほどで?」
「銀貨9枚程度を予定しています」
「ほほう! お任せください。婚約者様の瞳のお色は何色でしょうか?」
「紫色です」
「では、こちらはどうでしょう。大きな石で、護符の恩恵もあらたかです」
それは涙型の紫色の綺麗な石で、石の中に金色の模様が浮かんでいる。
鎖も細身の銀色で、とてもリリアに似合う気がした。
「これはおいくらですか?」
「こちらは銀貨10枚のお品ですが、勉強致しましょう。鎖と箱代、包装代込みで銀貨9枚に値引き致します」
「じゃあ、買います!」
俺は鞄から、銅貨を入れている袋を取り出し、銀貨9枚を取り出した。
それを手渡すと、店員は満面の笑みで微笑んだ。
「はい、確かに。では、お包み致しますので、少々お待ち下さい」
俺はお茶を飲みながら、待つことにした。
「即決だったな。まあ、良い品だったし、良い買い物だ。婚約の証として渡すが良いぞ」
「うん。そうさせて貰うよ。そうだ、帰りに細工屋に寄って良いかな? いつもお世話になってるんで、挨拶がしたいんだ」
「わかった。帰りに寄ろう」
リーズヘッグにもお礼が必要だな。
細工屋の帰りに、甘味屋へ行こう。
財布は寂しいが、せめて奢らせて頂こう。
俺はそう決意して、お茶をすするのであった。




