《六角亭》の料理
2月7日。
今日は、城下町で1番有名な料理屋、《六角亭》へお伺いする予定である。
午後4時の鐘が鳴る前に、リリアとリエルも合流し、準備万端だ。
午後4時の鐘が鳴った。
少しして、エミューの車が到着した。
俺達は順番に乗り込み、扉を閉めた。
エミューの車が出発する。
半刻程揺られて、検問所に着いたようだ。
車から降りて、通行証を出す。
俺達はエミューの車を乗り換えて、また15分程揺られた。
「到着致しました。お足元に注意して降りて下さい」
俺達はエミューの車を降りて、その大きな料理屋を見上げた。
3階建てで、とても大きな料理屋だ。
気品のある女性が出て来て、にこやかに話しかけられる。
「ようこそ、《六角亭》へ。ご予約のお名前を頂けますか?」
「リーズヘッグだ」
「リーズヘッグ様、どうぞこちらへ。お部屋は、2階になります」
俺達は給仕に案内され、2階へ登った。
大きな扉が開かれ、広い部屋に通される。
「お料理は午後5時から、始めさせて頂きます。それまで、ご歓談下さい」
部屋には12人がけの大きなテーブルがあり、俺達は着席した。
違う給仕がすぐにお茶を持ってくる。
「お酒を飲まれる方は、どれ位いらっしゃいますか?」
全員手を上げたので、お酒は全員分、頼んだ。
「それにしても、ドキドキしちゃうなーっ! 一体どんな料理なんだろ!」
「ぼ、僕もすごく楽しみです」
「ふん。まあ、一生の記念になるだろうさ」
「うふふ。わたしもすごく楽しみよ」
「わたしも、すごく楽しみ」
プリム、ジュレ、リーズヘッグ、カトリーヌ、リリアがそう言った。
「料理はまだだが、乾杯しよう。女神アウローシアの加護を!」
「乾杯!」
俺は果実酒を一口飲んで、そのフルーティーさに驚いた。
これは、リンゴのごときケイルの果汁で割っている。
「飲みやすい果実酒だね?」
「ん。ケイルで割るのは、珍しい。美味しいね」
俺はリリアと隣り合い、微笑みあった。
やがて、午後5時の鐘が鳴った。
扉が開き、給仕が前菜を配膳していく。
「前菜は、テーペとジェランのマロイモがけでございます。ごゆっくりお召し上がり下さい」
俺は皿を見つめた。
皿の中に、野菜が見える。
俺は突き匙を取り上げ、食べてみることにした。
「これは……テーペとジェランを、乳脂で練ったものみたいだね」
火を通したホウレンソウのごときテーペと、アスパラガスのごときジェランを乳脂で練ったものだ。
湯がく時に出汁を使っているのだろう。
芳醇な出汁の旨みが感じられる。
その上、ヤマイモのような食材が上からかけられている。
マロイモというものが、ヤマイモなのだろう。
ヤマイモが手に入るなら、うちでも取り扱いたいものだ。
味わいは、少しくどい気が、しなくもない。
出汁がきっと濃すぎるのだ。
しかし、完食できる味わいだったので、安心できた。
「お次は、野菜料理です。イノッサとディラーを蒸した後に乳脂で揚げ焼きにしたものです。ごゆっくりお召し上がり下さい」
トマトのごときイノッサと、パプリカのごときディラーをすくい取り、口に入れる。
ソースは野菜ベースの甘い口当たりだ。
「これは、美味しいね」
リリアの声に、俺も頷く。
「野菜の甘いソースが、揚げ野菜に合っているね。次の料理が、楽しみだ」
ゆっくり食べ進めながら、果実酒を飲む。
美味しいけれど、乳脂の風味が少しくどく感じられる。
さて、この後の料理は、どうなるんだろうか。
「お次は、サフア料理でございます。牛肉と乾酪の乳脂焼きでございます。手掴みでお食べ下さい」
それは、小さなパイに具材の乗った料理であった。
それが、皿に5つ乗せられている。
口に投じると、それは牛肉と野菜を刻んだ料理のようだった。
乳脂の風味も、しっかりする。
乾酪の味もするが、味付けは濃いめであった。
サフアの生地も乳脂で揚げ焼きにされており、油分たっぷりだ。
「ちょっと味は濃いけれど、わたしは好きな味よ」
カトリーヌがそう言った。
俺も美味しいと思う。
ただ、俺ならこう作らないと思うだけだ。
「汁物料理は、メイリグとダイナの汁物です。辛みが強いので、ご注意下さい」
汁物は黒ずんでおり、見た目ではどれ位辛いのかわからない。
口に入れてみると、はっきりと辛かった。
ニンジンのごときメイリグと、サツマイモのごときダイナはとろとろに甘くて、煮汁は苦みも感じられた。
「こりゃあ、辛くてかなわんわい」
「リーズヘッグは辛みが苦手ですものね。わたしは美味しく頂いているわ」
リーズヘッグの分はカトリーヌが完食した。
「リリアも、この味が美味しいかい?」
「ん。でも、カレーのほうが美味しい」
「ありがとう。俺も同意見だ」
リリアの優しさが、胸をときめかせる。
俺はリリアが好きだなぁと、こんな時も思うのだった。




